土下座その27
蛇行する急斜面を登り切ると、まるでナイフで切り取られたような平地に出た。
「おっとっと」
ずっと傾斜面を歩いていたので、逆に平面をうまく歩くことができなくて、少しだけふらついた。
平衡感覚が狂っている。脳はまだ、傾斜面を歩いているつもりなのだろう。脳が平地に慣れるまでに、もう少し時間がかかりそうだ。おっとっと。
平地は整備されているらしく、本来生えているはずの木々が一本も生えていなかった。ここだけぽっかりと穴が開いたようだ。空を見上げると、遮る木々がないので、三日月がよく見えた。
三日月には相変わらず梯子が垂れ下がっているのが見えたが、今はそんなことに気を止めている場合ではないので、俺はすぐに視線を戻した。
視線の先には、物置小屋にしか見えない小さな神社があった。どうやらあれが、きのこ神社らしい。
きのこ神社には、申し訳程度に賽銭箱と鈴の付いた綱があった。賽銭箱の奥には三段しかない小さな階段があり、その先には本殿の扉があった。神社の裏側はここからでは見えないが、おそらく何もないのだろう。左側面には木枠の窓が一つあるのが見える。それ以外、特に目を引くものはなかった。
俺とカマキリじいさんは息を殺し、忍び足で神社に近づいた。
「ぐぉー。ぐぉー」
神社に近づくと、変な音が聞こえた。
最初、それはウシガエルの鳴き声かと思い、辺りを見渡したが、カエルらしき生き物はいなかった。
俺とカマキリじいさんは目を合わせて、お互い首をかしげた。
「ぐぉー。ぐぉー」
耳を澄ましてみると、この奇妙な音はきのこ神社の中から聞こえているようだった。
俺とカマキリじいさんは再び目を合わせて、頷いた。
そして、きのこ神社の窓から中を覗いた。
息を殺して、音という音を体内にとどめた。けして体外に音が漏れないように、細心の注意を払った。骨がきしむ音や、生唾を飲み込む音でさえも、消さなければならない。脅迫的にそう思った。
そうしなければ、すぐに気づかれてしまう気がしたから。
――そこには、いびきをかいて寝ている、天狗がいた。




