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異世界で俺の土下座が役に立つ  作者: ストレッサー将軍
天狗に告げ口 ~目指せ黄金郷~
27/50

土下座その25


 俺とカマキリじいさんは歩いて『きのこ山』へと向かった。すでに夕日は落ちかけていて、空には一番星が見えていた。

 道中、カマキリじいさんがきのこ山について教えてくれた。

 きのこ山は街の北東にある標高五百メートルの山だ。天然の杉の木やブナの木が群生しており、春には花粉をまき散らし、冬には雪が積もる。また、その名の通り、良質なきのこが採れる。シメジや松茸、エノキダケなどの食用のきのこはもちろん、カエンタケのような猛毒のきのこも玉石混交状態で生えている。そのため、素人が勝手にきのこを採ることは禁止されており、きのこを採るためには「きのこ鑑定士」の資格が必要になる。

 また、今の時期は『ホタルキノコ』と呼ばれる発光するきのこが最盛期を迎えており、夜でも山道が視認できる程度には明るい。きのこ山に生えるきのこの中には、昼には地中に身を隠し、夜にしか顔を出さない『ハズカシダケ』と呼ばれるきのこがあり、それを採取するために、夜に森に入るきのこ鑑定士も多いという。

 ちなみに、ハズカシダケは桃のような甘味のあるきのこで、別名『フルーツきのこ』とも呼ばれているらしく、カマキリじいさんは好んでよく食べるそうだ。

「ここから山道に入る。きのこ山はきのこの採取で頻繁に人が出入りしておるから、道が整備されいる。だから、道から外れて獣道けものみちに入るようなことさえなければ、迷うこともないだろう。今の時期はホタルキノコもたくさん生えているから、視界も悪くないはずだ。行くぞ」

 カマキリじいさんは息巻いた様子で、山に入った。

 俺は金魚の糞のように、カマキリじいさんの後に続いて、薄暗い山道に足を踏み入れた。

 俺はこのとき、一抹の不安を抱えていた。

 その不安とは、カマキリじいさんが山の中で土下座をできるのかどうかということだ。

 俺は土下座玄人どげざのプロだから、山で土下座をした経験も当然のようにある。だからこそ、山での土下座のつらさを俺は痛感している。

 まず、山は斜面だ。斜面で土下座をするのは、想像以上にきつい。最初は問題なく土下座できるのだが、時間が経つにつれて、平衡感覚が麻痺してくる。平衡感覚が麻痺してくると、目眩がしたり、気持ち悪くなったりする。最悪、幻覚が見えたり幻聴が聞こえることもある。わずかな傾斜がボデーブローのように体をむしばむのだ。

 さらに、山道には異物が多い。石や木の枝や落ち葉などが散乱している。俺のように土下座のし過ぎで手のひらや土下座下半身が硬く変質している土下座玄人どげざのプロならまだしも、やわい肌の普通の人間にとって、硬い異物の上で土下座をするのは拷問と言っていいほどに過酷だ。

 そして、一番やっかいなのが、虫やイノシシ、さらにはクマなどの野生生物の存在だ。

 奴らには、土下座という文化が一切、通用しない。

 だから、奴らは容赦なく襲ってくる。ゴキブリやバッタのようなキモチワルイが無害な虫はまだいい。中には、毒を持つムカデやアリ、さらには皮膚にかみついて血を吸うヒルやマダニなんかもいる。身動きできない状態でそんな奴らに襲われたらひとたまりもない。

 また、イノシシやクマは基本的に人を恐れるので、遭遇する機会はあまりないが、クマは死肉を食べる。そのため、土下座状態のまま動かないでいると、死肉と勘違いして近寄ってくることがある。どうやら土下座をするような奴は、人間として死んでいるに等しいと、クマが野生の勘で察知するらしい。

 そんな命の危機的状況でも、土下座をやめて逃げ出すことはできない。

 そこで逃げ出してしまえば、土下座はその効力をたちどころに失い、相手に許してもらえなくなってしまうだろう。

 ――とにかく、山での土下座は過酷なのだ。

 果たして、土下座素人のカマキリじいさんは土下座できるのだろうか? それだけが心配だった。

 

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