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異世界で俺の土下座が役に立つ  作者: ストレッサー将軍
天狗に告げ口 ~目指せ黄金郷~
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土下座その22


 天狗族は、とても強く、とても穏やかで、とても賢い。

 争いの無意味さを知り、他の種族に迷惑をかけることを極端に嫌う。

 人間や他の種族が日々争い、小競り合いを続ける中、天狗族はすでに、争わない生き方を実現させている。他の種族とは一線を画す、より神に近い生き物と云えるだろう。

 天狗族は『土蜘蛛の森』のさらに向こうにある崖の下の盆地に存在する『黄金郷』に住んでいる。

 天狗の主食は黄金で、一人当たり毎日100グラムほどの黄金を消費している。種族全体では一日50キログラムもの黄金を消費しているらしい。

 それでも、黄金はまったく枯渇しない。『黄金郷』には、推定で1兆トンを超える黄金があり、向こう百年は天狗族に食べられてもなくならないほどの埋蔵量がある。

 ――そんなのどうやって調べたのだ、と聞いたら、村正教授はいっそう楽しそうに大きく口を広げて笑った。そのまま口が裂けるのではないかと思った。

 黄金には『同体性どうたいせい』という性質がある。

 同体性とは、別固体でも同じ体だと思う性質のことだ。一塊ひとかまたりの黄金は、隣接する別の塊の黄金を、自分と同じだと思うのだ。

 そのため、一塊ひとかたまりの黄金を調べれば、それに接する黄金全体を量ることができるという。

 また、黄金には輝度きどというパラメーターがある。簡単に言えば、輝度とは『光り輝く度合い』のことだ。そして、その輝度は、黄金の量に比例する。小さい黄金の輝きは弱く、巨大な黄金塊の輝きは強くなる。

 ――じゃあ、その輝度はどうやって量るんだい? と訊ねると、村正教授は、良い質問だねと言って、より一層楽しそうに説明を続けた。

 輝度を量るためには”ある生き物”の目玉めだまを使う。

 目玉には虹彩こうさいと呼ばれる構造がある。虹彩は円盤状の膜であり、伸び縮みすることで瞳孔の大きさを調節して、目の中に入る光の量を調節する役割がある。それは、カメラでいうところの”絞り”のようなものだ。

 光が弱ければ、虹彩は縮まり、瞳孔は広がる。光が強ければ、虹彩は広がり、瞳孔は狭くなる。そうやって、目に入る光の量を調節している。

 虹彩と瞳孔のこの性質を利用して、輝度を量ることができる。

 輝度の強弱によって、虹彩は伸び縮みして、それに伴い瞳孔の円が広がったり狭くなったりする。光が強ければ、目に入る光の量を減らすために瞳孔は小さくなる。一方で、光が弱ければ、できるだけ目に光を入れるために瞳孔は大きくなる。

 つまり、瞳孔の円の直径と、輝度の強さは反比例の関係にあるということだ。

 そのため、1グラム・10グラム・100グラムの黄金がそれぞれ放つ光を”目玉”に当てて、それぞれの瞳孔の直径を測り、それをグラフにすることで、輝度を測定できるようになるという(正直、この辺の説明はあまり詳しく理解できなかったが、愛想笑いを浮かべながら相づちをうって、話を先に進めるように促した)。

 『輝度』と『同体性』。この二つの性質が黄金にはある。そのため、黄金の輝度から、黄金の総量を推量することができる。表面に見える黄金の輝度は、地中に埋まっている黄金の輝きまでも反映しているのだ。

 一兆トンを超える埋蔵量のある、黄金郷の黄金の輝度はすさまじい。

 日中に黄金郷へ行くと、普通の人間はあまりの眩しさに目がくらみ、気を失ってしまうと言われている。そのため、人間が黄金郷へ行くには夜の、しかも月明かりの弱い三日月の日に限られている。

 黄金郷は、わずかな月明かりさえ在れば、夜でもまばゆくひかり、辺りは真昼のように明るくなるという。

 一昔前は、人間は三日月の夜に黄金郷へと行き、天狗に黄金を分けてもらっていた。

 しかし、あるときから、北の森に土蜘蛛が住み着き、森を抜けられなくなってしまった。そこで、少し迂回することになるが、東の湖を通るルートを使って黄金郷へ行くことにした。けれど、今度は東の湖に幻を見せるしんのバケモノが住み着き、湖を越えるルートも使えなくなってしまった。

 ――ここで、村正教授は珍しく笑うのをやめて舌打ちをした。おもしろくないという感情があらわになった表情だ。

 黄金郷へのルートが閉ざされたタイミングを待っていたかのように、きのこ山に一匹の『はぐれ天狗』が住み着くようになった。

 はぐれ天狗はきのこ山に住み着くと、街に降り立ち、声高らかに宣言した。

『いやいいやい。人間共よ、毎日100グラムの黄金を献上せい。さもなくば、一日一人、むすめをいただく。いやいいやい』

 その日以来、人間は毎日黄金をはぐれ天狗に貢ぐようになった。しかし、黄金の残量はもともと少なく、つい先日、なくなってしまった。

 そのため、クルミさんがさらわれてしまったのだ。

 ――あれ? でも、天狗族は他の種族に迷惑をかけるのを極端に嫌うんじゃなかったの? と訊ねると、先ほどまで舌打ちしていた村正教授は再び笑みを浮かべて、ペラペラと話を続けた。

 そう、天狗は崇高な生き物で、他の種族に迷惑をかけることを極端に嫌う。しかし、どの世界にも”例外イレギュラー”は存在する。

 人間でもそうだ。ほとんどの人は、人殺しなどできないが、一部のイカレタ人間は簡単に人を殺す。それと同じように、天狗の中にも例外がいた。

 それが、きのこ山に住み着いた、はぐれ天狗だった。

 街に住む人間は、はぐれ天狗にたいそう困り果ててしまった。しかし、人間では天狗は倒せない。はぐれ天狗を追い出すには、黄金郷に住む他の天狗にお願いするしかない。天狗族は他の種族に迷惑をかけることを極端に嫌うので、はぐれ天狗が人間の街で悪さを働いている事実を知れば、すぐに対処してくれるだろう。しかし、その事実を伝えるためには、『土蜘蛛の森』か『蜃の浮かぶ湖』を超える必要がある。

 しかし、人間にそれは、大変困難であった。

 そのため、村正教授は、空を飛んで『土蜘蛛の森』を超えられるドラゴンの亜人を用意したのだが、森を飛び越えていったドラゴンの亜人から連絡は途絶え、今現在、行方不明となっている。

 他にも、村正教授は研究所で『黄金を錬成する方法』を研究したり、『土蜘蛛』や『蜃』を倒す方法を模索していたのだが、それが実現するよりも先に、街に貯蔵されていた黄金が底を尽きてしまったのだった……。


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