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異世界で俺の土下座が役に立つ  作者: ストレッサー将軍
悩める街 ~カマキリじいさんの憂鬱~
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土下座その14

 ご飯を食べて、シャワーを借りた。土下座のし過ぎで汚れた額や膝を念入りに洗い、俺は気分爽快。生き返った気分だった。

 シャワーを浴びた後、カマキリじいさんに「この街には水道があるのか?」と一応訊ねてみたら、「あたりまえだろう」とあきれた顔で返事をされた。「電気は?」とさらに訊ねようかと思ったが、カマキリじいさんのあきれ顔はもうたくさんだったので、やめた。

 この世界の文化・科学水準はそれほど低くないようだ。電気、水道、冷蔵庫、それに電話らしきものもあった。窓の外を見ても、電線や電柱はない。おそらく、地中に埋めるタイプの電線なのだろう。日本では一般的ではないが、海外では地中に電線を埋めるのが一般的だという話を聞いたことがある。

 しかし、スマホやパソコンのようなハイテク機器は見当たらないところを鑑みると、俺がいた世界と比べると、科学(とくに機械工学)のレベルは低いらしい。

 俺はそんなことをモヤモヤと考えながら、酒を飲んだ。

 「酒はないのか」と訊ねたら、カマキリじいさんは「ある」とぶっきらぼうに返事をした。そして、日本酒らしきにごり酒と小さいおちょこを持ってきてくれた。「いっしょにどうですか」と誘ったが、カマキリじいさんは「ワシはもう酒はやめた」と言って、別の部屋に一人で籠もってしまった。

 ふと、外を見ると、夜空には星が輝いていた。

 酩酊する意識の中、昨日から今に至るまでを思い出す――。

 土蜘蛛の森を抜けたときはまだ夜だった。そのまま走り続けて、気を失ったのは朝方だったはずだ。そして、その後カマキリじいさんに運ばれてここに来て、そのまま十時間くらいは寝ていたのだろう――。

 どうりで眠くないわけだ。

 本来であればもう眠る時間だが、すでにたっぷりと寝過ぎた。はて、もう少し深酒をしなければ、寝られる気がしないなぁ。

 俺はにごり酒のビンを持ち、おちょこに注いだ。表面張力で、酒が波打つ。

 俺はそれを一気に飲み干し、再び窓の外を見た。夜空には三日月があった。

「ん?」

 俺はそのとき、目を疑った。

 なんと、三日月の先端部分から、何やら梯子はしごのようなものがぶら下がっているのが見えたからだ。

 月に梯子? んなバカな。そうか、俺は今、酔っているのだな。だから、こんな幻覚を見たのだろう。

 俺はそう思い、何度も目をこすってから、もう一度月を見た。

 やはり、そこには梯子が垂れ下がっていた。

 俺はそれ以上、月梯子つきはしごについて深く考えるのはやめた。月に梯子があってもいいじゃないか。風流なり風流なり。そう思いながら、俺は上機嫌に酒を飲んだ。

 そのとき、勢いよく扉が開いた。俺はドキッとして、振り向いた。

 そこには、何かを決意した勇ましい顔のカマキリじいさんが立っていて、なぜか激しく肩で息をしていた。

「決めたぞ、ワシは、土下座する」

「マーベラス」

 俺は酔っていたのか、なぜかよくわからない英単語を口にしていた。

 確か、「素晴らしい」とかっていう意味だった気がするが、正気ではないので、わからない。

「まーべらす? 何言ってるんだ。ばか者め。とにかく、ワシは土下座することに決めたから」

「はい。わかりました。それでは明日から、早速、土下座の特訓を始めましょうか」

 俺はビンに残っていた酒を飲み干し、にやりと笑った。


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