8、あそこへ行こう、どこへ?決まってるだろ、友人宅さ!妹の!
遅くなりました。
次の日の朝、小鳥たちが朝日の下でチュンチュンと狂喜乱舞する声で目覚めると、痛む体を無理矢理ベットから引きはがして起き上がる。
昨日は災難だった。
七羽をリアル宝塚の魔の手から救おうと出陣したところまでは良かったのだが問題はそこから先。
放課後になり、リアル宝塚の特注制服が届いたらしく、それを面白がった一部の女子生徒が殺到する。
その勢いはクラス中の女子にまで波及。
帰るに帰れなくなった七羽もろとも女子全員でのお着替えタイムが開始され、皆で嫌がる御堂を脱がすと何やら見慣れない包帯が胸部を覆っていた。
これはもう取っ払うしかないという事になり、ほぼ全員でひん剥いて御堂のマスクメロンが露わになったところで、オレ参上! からのカオス突入。
下着姿もしくは半裸で怒り狂う女子からの殴る蹴るの暴行によりボロボロにされた俺は廊下に放り出された。
その後、新たな性癖に目覚めてしまいそうになる俺を、栄光を称える様に下級生男子が群がり保健室まで移送してくれた。
あのまま放置されてたら確実に目覚めてしまっていただろう。
それを考えるとゾッとする。
恐るべし下着女子&マスクメロン&適度な痛み……
とここまでの話は全て、扉に耳をぴったりと付けて盗み聞きしていた後輩男子からの話だ。
気持ちはわからんでもないが、あと二、三歩間違ったら犯罪者だぞ。
後輩男子には感謝しつつもくれぐれもそれ以上は自重してくれよ願うばかりだ。
それはさておき、ただいまの時間はホームルームが始まる十分前なわけです。
どうしてこうなったのか、話の流れで何となく察してくれた方はいるだろう。
昨日の事で怒り心頭中という訳だ。
昨晩の七羽曰く、
「急に教室に入ってきたことは仕方ありません。ですが!そのあとすぐに扉を閉めずにみんなの下着姿を堪能していたのは何故ですか!兄さんは女性なら誰でもいいんですね。特にマモルちゃんを見る目が血走ってましたよ!」
「いや、あれは不可抗力で、その、身動きが取れなくなったと言うかなんというか、」
「その割には、サラシがどうとか冷静にツッコまれていたような気もしましたが」
「それは冷静になろうとした結果であってだな、」
「そんなに見たいなら言ってくれればいつでも見せられるのに……」ボソッ……
「えっ?なに?」
「何でもないですっ!兄さんの不潔!!少し反省してください!!」
と勢いよく俺の部屋を退室。
そのショックで俺は枕を濡らし、一人で眠りに落ちた。
んで、現在に至るという……
思い出したら涙がこぼれそうになってきた、もう遅刻確定なのでゆっくりと身支度を整える。
今日は七羽のおいしい朝食を食べられなかった。
それだけが心残りで玄関先でため息を吐き出し。
フラフラと学校に向かった。
**********
学校についたのはちょうど3時限目が始まろうかと言う時だった。
そこからはひたすらに座学による学習のみだったので居眠りで過ごす。
そして昼休み。
何もしていないのに腹だけはしっかり減りやがるこの体が実に恨めしい。
仕方なく欲求を満たすために購買に行き、その後焼きそばパン一個片手にいつもの特等席に移動する。
と、そこには先客がいた。
「七羽っ!なんでここに?」
振り向きちょっとムッとした顔をした後に、少しだけ悲しそうな表情になり頭を下げてきた。
「ごめんなさい!」
「えっと、何がどうなった?謝るのは俺の方じゃないのか?」
「それはそうかもしれませんけど、昨晩から兄さんを困らせてしまって、朝食も一緒に食べなかったので……そこまでする必要もなかったのに意地になってしまって兄さんを悲しませてしまったのがずっと気になってて……だから、ごめんなさい」
「七羽……」
なんていい子なんだ。
俺が他の女子にうつつをぬかしたばかりにこんな健気な妹を悲しませてしまうなんて!
俺は最低だ!なにがマスクメロンだ!
華渕なんか大玉西瓜レベルじゃないか、それの感触に比べれば屁みたいなもんさ。
とよくわからない感じなってきたが、まずはすべきことがある。
「俺の方こそごめん。七羽が一番なのにフラフラしちゃって。だから謝るのは俺の方だ、本当にごめん」
脳味噌が飛び出さんばかりの神速スピードで頭を下げる。
ちょっとやりすぎた、勢い良すぎて気持ち悪い……
下向きながらオエッとかいてる俺を見て七羽がほほ笑む。
「兄さんはいつも大げさなんですよ。他の女の子が魅力的なのは仕方ないです。みんな頑張って綺麗になろうとしてますから。でもあまり凝視もよくありませんからね?さっ、それじゃあ時間も無くなってしまいますからお弁当たべましょう!」
「弁当?お前まさか俺にも作ってくれてたのか?」
「当然です!……と言うのは嘘で、お弁当は私のだけです。足りないかもしれませんが一緒に食べませんか?」
そう言って小ぶりでカワイイお弁当箱を目の前に差し出してくる。
小食な七羽にはちょうどいいくらいのサイズだが俺には足りないし、俺が食べたら七羽まで午後の授業で腹減っちまう。
だから俺はそっとその弁当箱を押し返すと手に持っていた焼きそばパンを掲げて見せる。
「七羽は育ちざかりなんだからしっかり食べなさい。俺にはこの焼きそばパンがある、だから気にすんなよ!」
「でも、兄さんにも是非食べて欲しいんですけど……」
「うぐっ、そう言われると食べたくなってくるがダメだ。ならさ、明日は土曜で休みだろ?おいしいモノでも食べに行こう。それで帰ってきたら一緒に晩飯作って食べよう」
「なんだかちょっとだけ納得できないですけど、明日は兄さんとデートしてから夕ご飯を一緒に作るってことですねっ!なんだか新婚さんみたいで楽しみです」
そうだろうそうだろう!!
なにを隠そうこの言い出しっぺのおれが一番楽しみにしているんだからな!
おっと、午後の授業はデートプランを構築しなければならんな。
ちょどいいのか悪いのか、午後の授業もひたすら座学だからプラン建ての為に有効活用してやろう。
そう決めて、七羽と二人きりの昼食を楽しんだ。
**********
昨日とは打って変わって、今日は七羽が俺を教室まで迎えに来てくれた。
俺センサーに敵影無し。
よろしい!実によろしいではないか!
久しぶりじゃないか?こうやって二人で帰るのは!
俺は喜び勇んで立ち上がり、恒例となった銀田と華渕の置き去りを決行。
ギャーギャー騒いでいたが気にしない、俺は。
でもその光景を見た優しい七羽様は銀田と華渕の同行を許可してしまった。
Oh My 女神よ……何故ですか?
**********
ともあれ4人でゾロゾロと向かった先は、甘すぎないケーキで有名なファービーコーバー。
そこにに寄ってケーキを5つ買う。
何故5つかって?決まってるだろ?
この優しい女神さまこと七羽様は、昨日の非礼を侘びるべきだと言って御堂邸にまで行って謝ろうと提案してくれたわけさ。
俺は当然お断りしたかったのだが、あの上目使いの必殺涙目懇願攻撃を受けたら断れるはずがないだろ。
もう喜び勇んでOKしたほどだ。
……そのはずだったんだがいざ向かうとなると足が重い。
リアル宝塚とはいえ、その体はしっかりと女の子だったわけで、その相手に謝罪をする為に押しかけて、尚且つ旧友が居る中で謝るとかもう拷問だ。
七羽はたぶんそこまで考えてはいないだろう。
そして一緒に来ている華渕と銀田もどこに行くのかもわからぬままついてくる。
どこにいくの?とかすらない。
こいつらは根っからの馬鹿者どもだ。
そんなネガティブゾーンに思考がシフトしつつ、いつのまにか御堂邸にたどり着いたらしい。
「ここがマモルちゃんの家だよっ」
「えっ?マモルちゃんって誰だよサクマ」
「人んち来るなんて聞いてないんだけど、ってかこの家デカッ!!」
「お前らが聞かなかったんだろ!俺も始めてきたんだから知るか!」
3人でわちゃわちゃしているのをしり目に、インターホンに向かい七羽が丁寧にあいさつをしている。
「はい、御堂で御座います」
「こんにちわ、私はクラスメイトの佐倉七羽と申します。守さんは御在宅でしょうか?」
「それはそれは、わざわざお越しいただいてありがとうございます。今からお迎えに上がりますので少々お待ちください」
門柱に据え付けられていたインターホンからは、老齢の男性の声が聞こえてきた。
たぶんあれがかの有名な執事と言う奴なのだろう。
と言うかその前に本当に家がというか敷地がデカい。
庭が広すぎてその先にあるであろう家が全く見えないのだ。
それならば、確かに執事さんが待っていろと居た訳が分かる。この門までたどり着くのに相当な時間が掛かるはずだからだ。
そしてそれから五分後、重い鉄製の美しい細工が施された門が開くと黒塗りのリムジンが現れた。
だがそのサイズがおかしい。
一般的な乗用車5台分はあろうかと言う程の長さだった。
あんなんテレビでも見たことねぇよ!!と心の中でツッコみつつも声が出ない程驚いている三人(七羽は除く)の目の前に、先ほどの声の老人男性が現れ腰を折る。
「ようこそおいでくださいました、私は御堂家にお仕えさせて頂いております、笹塚と申します。皆さま以後お見知りおきを」
「先日以来ですね笹塚さん、マモルちゃんはお元気ですか?」
「これはご丁寧にごあいさつ頂きありがとうございます。守様のことですが、少々学校で何かあったようでして……なにかご存じですか?とここでお伺いするのもいかがなものかと思いますのでどうぞこちらへお乗りください」
そう言って笹塚さんはリムジン中央にある観音開きの扉を開け、車に乗るように促してきた。
全員が乗り込み中の無駄な広さに驚いていると、笹塚さんは守が昨日の晩から部屋から出ずに寝込んでいるという事を教えてくれた。
七羽が事の発端を話そうと口を開きかけるがそれを制止した俺、は天を仰ぎ目を手で覆い隠しながら笹塚さんに呟く。
「すんません……それ、俺のせいです」
如何でしたでしょうか。
次回もお楽しみに!!