7、御堂守も大好きさ。うちの妹が!
良く寝た。それはもうぐっすりと。
七羽がいつの間にかベットから出ていったことに気が付かないくらいに爆睡していたワケさ俺は。
身を起こしガッチガチに固まった体を伸ばす。
窓から入る朝日と、布団に残る七羽の香りが心地いい。
二人で掛けていた布団を手繰り寄せ、その心地よさに頬ずりしていると、部屋の外からは包丁で何かを切る小気味いい音とみそ汁の良い香りが漂ってきた。
俺の脳と体は正直だ。
匂いにつられ部屋から出ると、裸エプロンを越える制服エプロン姿で、その短いスカートをひらひらさせながら何かの歌を口づさんで弁当を詰めているところだった。
俺が起きてきたことに気が付くと、「おはよう、兄さんっ」と語尾にハートが付きそうなくらいキュートな笑顔で挨拶をしてくれた。
もうこれでお腹はいっぱいです。ご馳走様です。
俺もできる限り最強のスマイルでおはようと返す。
うん、我ながらキモイ。
弁当も詰め終り、もう準備もできていたのだろう朝食を二人で運び、一緒に食卓に着く。
2人で手を合わせ、
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
と、いつもの朝食の始まり。
そう言えばと思い七羽に先ほど気になったことを聞いてみる。
「なぁ七羽、今日も弁当詰めてくれてたのか?」
「そうですけど、あの……いりませんでしたか?」
「ちょ、おまっ、馬鹿者!七羽の手作り弁当がいらないはずないだろ!むしろこの世のすべての弁当や食品を消し去って七羽の弁当のみが存在する世界に変えてやろうとすら考えるレベルで必要に決まってるだろ!」
「そんなに面と向かって褒めないでくださいっ!恥ずかしいでしょ…………でも、ありがとう兄さん」
そこは言い過ぎ!とかそんなことできる訳ないじゃん!とかツッコむところなのだが、この兄にして妹有りという事だろう。
兎に角、朝から良い思いをするのはいい事だが本題がまだなのだ。
幸せの湯にどっぷり浸かって満足したのか、サクマはそれはそうとと切り出す。
「でも、弁当がなんで三つあったんだ?二つは俺と七羽の分で、もう一つは?」
「えっと、マモルちゃんの分です」
「なぬっ!あの子?あの娘?まぁどっちでもいいけどなんで?!」
七羽は昨晩ご馳走になった夕食のお返しにと弁当を作っていくと言ったら、マモルは是非食べさせてくれと言ったので作ったらしい。
そこでまた一つ疑問が浮かぶ。
「あの、七羽さん。つかぬ事をお伺いしますがもしかして昨日七羽と一緒に食べた、俺の特等席で弁当を三人で食べましょうとか言わないですよね?」
「えっ? それはないですよ、あそこは私と兄さんだけの大事な場所なんですから!」
「七羽……」
もう涙で前が見えません。
七羽の言葉の一つ一つが最高のトッピングになって俺の朝飯を更に旨くしていく。
だが次の言葉にフリーズする。
「だから、今日は食堂で三人でお弁当を食べましょう!」
「はい?あの流れだと、俺と一緒に昨日の場所で昼飯コースだと思ってたんですけど?」
「あの、マモルちゃんも一緒じゃ嫌ですか?それとも私が一緒なのが、」
「ぜんっぜん嫌じゃないさ!マモルだかサトルだかなんだかもウェルカム是非どうぞ状態だよ!」
「兄さん、ありがとう!お昼が楽しみねっ!」
俺は大馬鹿さ。だがいい。
七羽が笑顔なら。
俺の自己満足なんてゴミ箱にポイしてもなんの後悔もないさ……たぶん……きっと。
**********
そして、あっという間に昼休み。
混みあう食堂の中からテラス席に移動して丸い小さな円のテーブルに三人腰を下ろす。
目の前に出されるは、七羽お手製の美しくも旨い至高の弁当。
フタを開ければ、色とりどりの野菜や肉が舞踏会でも開いているかのような華やかさだ。
と、俺が思っていると、
「すごいね、ナナちゃんの作ったお弁当は!まるでおかずがダンスしてるかのような華やかさだよ!」
「ありがとう、でもこれくらい誰でも作れるよ」
「そんなことないさ! 僕の為に作ってくれてありがとう、うれしいよ!」
と俺のセリフをパクリ満載で披露している、女子だが男子にしか見えない娘がいる。
このリアル宝塚め!
俺の七羽にちょっかい掛けるとはいい度胸だな。
だがまぁ、ここは兄としての威厳もあるのだ。
一先ずはおとなしく、至高の弁当でもつつこうではないか。
中に入っている、弁当ではおなじみの卵焼きをひとつ掴み口に放り込む。
うちの卵焼きは砂糖入りの甘目が特徴だ。
ひと口噛むと柔らかいその身がほぐれてほんのりと甘い味が幸せを運んでくる。
「七羽の卵焼きはやっぱりうま「ナナちゃん!この卵焼きすっごくおいしいよ!」いなぁ……」
「そんなことないよ、普通の卵焼きだよ」
おい待て、いま意図的にかぶせてきた気がするんだが……
まぁ気のせいか。
俺は次のターゲットをエビフライにロックオンして噛り付く。
う、うまい!
冷めているのにプリップリの触感がタマラン!
そして何を隠そう、このソースは七羽の手作りなのだ。
リンゴをベースにした果実感たっぷりのソースがまたフライにベストマッチしている!
「七羽お手製のこのソースがいいあ、「このソースは手作りかい?おいしいよ!今度教えて欲しいな」じをだして、る……な」
「いいですよ、今度一緒に作りましょうね」
やっぱりこいつ俺にかぶせてきてやがる!
それに見ろこいつの顔を、七羽に向ける顔とは違ってゴミでも見るような顔でこっちを見やがる。
おのれぇ!このマモルちゃんめぇぇぇぇ!
ギリギリと歯ぎしりをしながらも旨い飯を食べると言う何とも言えない感覚。
気が付けばあっという間に弁当は食べ終わっていた。
そしてことごとく俺のコメントはこのマモルちゃんに邪魔されたわけで。
何と言う屈辱!
弁当箱をしまって一息ついていると気が利くことに、七羽が食後のコーヒーを持ってきてくれると言って席を立った。
そして残る俺とマモルちゃん。
完全に七羽の背が見えなくなったところで盛大ため息を漏らすマモルちゃん。
からの冷めた目。
「はぁ~、あなたはいったいなんなんですか?」
「はぁ?なにが言いたいんだよ」
「ナナちゃんの兄だと言う事はわかってます。でもあなたの態度の意味が分かりません。あの子はあなたの妹だという事は知っていますか?」
何だこいつは?
アホなの?馬鹿なの?う〇こなの?
「バカかお前、知ってるに決まってんだろ!」
「ならあなたのその感情は何ですか?実の妹に恋してるとでも言うんですか!馬鹿なんですか!?」
こいつはいよいよもって馬鹿らしいな。
俺のなにを知ってその言葉を口にしたのか理解に苦しむ。
ならば教えてやろう。
「お前が馬鹿なんだよ。恋だって?そんな安っぽいもんと一緒にすんじゃねぇ!」
「だったらなんだって言うんですか!」
「お前程度にはわかるまい。俺は七羽を愛してんだよ!!」
ドンッ!!
決まった!!
俺の想いに恐れおののいたかマモルちゃんよ!
ドヤ顔状態でマモルの顔を見ると、上目使いの涙目で歯を食いしばりプルプルしている。
えっ?何その反応?
「……けませんから」
「なに?なんだって?」
「だからっ!負けませんから!ナナちゃんはボクと結婚するんですから!」
「そう来たか、お前は女だろうが!」
「愛に性別なんて壁はありません!むしろあなたこそ実の兄でしょ?! もうちょっと自重しなよ!ボクにナナちゃんを譲るとかもう少し兄っぽいことしなよ!」
「はぁ?! お前に七羽を譲ってやるくらいなら俺は法律を変えて兄妹結婚が公けに認められようにしてやるよ!」
「何よこのド変態兄!」
「なんだとこのリアル宝塚男装いらず女!」
「人が気にしていることをっ!ボクよりチビなくせに!」
「お前こそ俺が気にしていることをっ!」
互いに譲らず、ガシっと両手を掴みにらみ合う。
そこへコーヒーをトレーに乗せて持ってきた七羽が、「お待たせしました……って二人とも何をしてるんですか」と怪訝な顔をしながら歩いてきた。
マモルちゃんに視線を向けると、非常に不本意だが俺の意図を察したらしく、
「いやぁ。兄さんが是非ボクと仲良くしたいって言うもんだから握手してたんだよ」
とかぬかしやがったから、ここは仕方なく乗ってやることにする。
「そうなんだよ。なんでも俺を尊敬しているみたいでさ。七羽の兄として恥ずかしくない様に渾身の両手握手をしていたのさ、はははっ」
「そうなんですか?それにしてはなんだかお互い怖い顔をしているような気がしますけど……」
「気のせいだ!」
「気のせいさ!」
七羽は若干引きつつも、なら良いんですけどと言ってコーヒーを差し出してくる。
自販機で買ってきたカップコーヒーだが、七羽が持ってきただけで実に旨く感じる。
そして実に遺憾だがそこのリアル宝塚も同意見らしく、ほわっとした顔ですすっているのだから間違いはないだろう。
そんなこんなで昼休みも終わり、午後の授業も終わり、あっという間に帰宅時間。
うるさい銀田と華渕を音速で置き去りにして、俺は七羽の待つ1-Aのクラスに向かう。
さもなくば今日まで奴に拉致されてしまう。
それは、それだけは断じてゆるさん!
たどり着いた七羽のいる教室の引き戸は閉じている。
で、その前には数人の男子が何やら固まって困っている様子だった。
「さっさと帰りたいんだよこっちは」
「なんで今になって始めんだよ」
「男子禁制反対!」
「俺達もいいだろ」
などなど、口々に批判的な言葉を連呼している様だが俺には関係なし!
その下級生の小僧どもを押しのけ、その引き戸を開け放つ。
瞬間、周りの下級生男子からは、「ちょっ、まっ」とか「ダメだぁ!」とか「やめろぉぉぉ」とか聞こえた気がしたが、人間も車も急には止まれません。
動き出す腕に追従する扉の動き………
その扉の向こうには、服を脱がされ、上半身裸のリアル宝塚とそれを手伝う数名の女子と七羽の姿があった。
ちなみに七羽含めた女子たちも下着姿が大半だった。
ここで一つ疑問が浮かぶ。
リアル宝塚は男と見まがうほどしか胸が無かったはずだが、なぜに裸だと七羽を越える程のお山をお持ちなのだろうか。
視線を下に落とすと、長い包帯がとぐろを巻いて落ちている。
あぁ、そういう事か。
「つまり、さらし巻いてたってことね!ははっ……」
この後、七羽のクラスの女子に執拗なまでのリンチを受けボロ雑巾になりましたとさ。
めでたし、めでたし。
ちなみに下級生男子からは、称賛の嵐と崇拝の眼差しを受けました。
如何でしたでしょうか?
次回もお楽しみに!!