6、俺は決心?妹への対応!
ストックが……
「ただいま!」
公園で踏ん切りをつけたお蔭か玄関の扉はスムーズに開けることが出来た。
だが、中はまだ七羽が帰ってきていないせいか真っ暗なままだった。
時刻はもうすぐ夜の九時を回ろうとしている。
いつもであれば遅くとも六時には帰ってきているはずだが、やはり気配も感じない。
であればまずはやる事は一つ。
風呂に入ろう!
飯はなんだか食う気がしない。
脱衣所で衣服を脱ぎ捨てまだお湯の張っていない浴槽に蛇口をひねりお湯をドバドバと出す。
溜まるまでの間、体と頭を洗い流す。
その頃には座れば腰くらいまでお湯が溜まっていたのでさっさと入ってしまう。
若干少なめだがこれくらいなら問題なく入れるだろう。
浅い湯につかり盛大に息を吐き出す。
「今日はなんだか、地獄みたいな一日だったな。朝は七羽と登校ウッハウハ、バスケで応援ウッハウハ、昼飯最高ウッハウハ、帰りに彼氏でベッコベコ……………なんだかなぁ~。そういや七羽は今どうしてんのかな?この時間まで帰ってこないとなるとあの彼の家か。よろしくやってるんだろうか……いやいや!今のJKにしてみればそのくらい当たり前で、むしろステータス! 男子だって何人とヤッたとか誰としたとか普通に話すじゃんか! まぁ俺はまだ魔法使いになる為の切符を握りしめたままだが、そこは七羽と必ずや結ばれて見事に童の貞を捨てて…………ってぉぉおいっ!さっき公園で七羽は単なる妹だって言い聞かせたろ俺の脳内! 何考えてんだ俺脳! 相手は妹じゃダメっ!取り敢えず華渕辺りにしとけよそこは!俺のバカっ!」
今日のなんだかんだも、ため息と共に出てくるようだった。
俺には特に独り言の趣味やらはないが、次から次へと溢れ出す。
この時ばかりは仕方なかったと思う、いろいろありすぎたんだから。
だから、そう、あれだ。
この場合は特にしかたなかったのさ。
風呂場にバスタオル一枚で入ってきた妹に気が付かなくてもおかしくなかったはずだ。
ついでにいえば俺の横でしっかり体と頭を洗い、浴槽に入ってくるまで気が付かなくても仕方がないのだ。
うん、これは不可抗力……じゃなくて!
「って七羽ぁぁぁ! なんでここにぃ!」
「ん? 帰ってきましたよっても言いましたし、入りますよ?っても言いましたよ?そしたら兄さんが何やらブツブツと呪詛の様に何かを呟いていたので心配になってしまったので……それで? どうしましたか?」
しましたか?じゃねぇぇぇ!カワイイっ!!
じゃなくて、こういうのは禁止って言ったろぉ!
出ます、今すぐこの天国から出ます!
俺の脳内が更に腐ってしまう前に!
「何でもないんだ七羽っ!じゃあ俺は先に出るからまたな! それと今日は疲れたからすぐに寝ますっ!」
「兄さん、どうしたんですか?待って下さい、何かおかしいですよ?少し話を、」
「いや大丈夫だっ! それじゃあ、おや……す……み?」
「兄さんっ、大丈夫ですか!! 兄さん、兄さん!」
俺は意識を失う直前、目の前で裸のまま心配する七羽を記憶に焼きつけようとカッと目を見開く。
だがそれも一瞬。
最後に俺の脳内をよぎったのはグッジョブ俺!七羽最高!の文字と、やっぱり馬鹿だ俺は、の後悔の文字だった。
そしてそのまま意識を失った。
**********
「あれ? 俺は風呂に入って……」
ぼやける視界を戻そうとごしごし擦る。
「兄さんっ!気が付いたんですね!大丈夫ですか!? 痛い所は!? 傷は!? 気分は悪くないですか!?」
ものすごい剣幕で涙を浮かべながら顔を寄せてくる七羽。
この状況が俺にもサッパリわからない。
いつの間にか着替えが終わって、ソファーの上で七羽の極上膝枕というこの状況が全く理解できない。
俺は風呂に入っていたはずだがその後はどうなったか尋ねた。
七羽曰く、慌てて風呂から出ようとした俺は、足元にある石鹸に気が付かず踏み、そのまま浴槽の淵に後頭部を強打して意識を失ったらしい。
その後は、七羽が俺を風呂場から救出し、言わずもがな素っ裸の俺や俺の息子を綺麗に拭き上げ服まで着せてソファーまで運び、膝枕をスタンバイしたという。
決意を新たにしてすぐにいろいろやらかした俺に鉄拳制裁を求めます神よ!
そうだその前に、決意を新たにしたのならいつまでも妹の膝に頭を乗せるなんぞもってのほか!
俺はフンっと気合を入れると膝枕から起き上がろうとするが、七羽の神の御手によってそれを阻まれ、あえなく天国へと引き戻される。
「あぁ~柔か~いt……じゃなくて、俺は起き上がりたいんだよ」
「ダメです。 もう少しこうして居て下さい。さっきは首がありえない方向に曲がって死んじゃったかと思ったんですからね!これくらいさせて下さい」
「悪かったよ……心配させたみたいだな……」
「いえ、私こそ、その、帰りが遅くなってしまってごめんなさい。兄さんが心配してくれてるって思ったんですけど、つい楽しくなってしまって」
そう言った七羽の顔は、ばつが悪そうにしているものの今日の帰りに見たあの満面の笑みと同じものだった。
やはり俺は妹として七羽を見なくては。
そうでなきゃ七羽をきっと不幸にする。
でも一個だけ、この一個だけ確認したいんだ!
そう思った俺はゆっくりとだがはっきりと聞く。
「なぁ七羽。今日は誰と遊んでたんだ?その………彼氏、か?」
「えっ?あの……」
「いやっ、いいんだ。言いたくなければ、俺には関係ないよなっ!」
「…………ぷっ、アハハハハハっ、彼氏って!アハハハハ」
七羽は俺の反応を見てなにが可笑しいのか突然大笑いしだした。
呆気にとられる俺。
いったい何が……
七羽はひとしきり笑うと涙まで流していたのか目元を擦りそれをぬぐう。
「あぁ~可笑しい、兄さんはあの人をなんだと思ってたんですか?」
「なんだよ!どう見たってあれはお前の彼氏だったろ!身長高くてイケメンの!」
「あの、兄さんは勘違いをしてます。あの人は今日から来た転入生で、御堂守ちゃんと言う名前のれっきとした女の子ですよ」
「はぁ? 嘘つけ!マモルってめっちゃ男だろ!それにジャージ着てたし!」
七羽はちょっとだけムッとした顔で人差し指を立てると、俺の頬をつんつんつつきながら、
「そういう他人のコンプレックスを突く兄さんの言葉はいけませんよっ!ジャージなのはマモルちゃんの背が大きかったからサイズの合う制服がなかったからです!」
っと、たしなめてきた。
うぐっと言葉に詰まりそこは素直に謝った。
ならばと俺は今まで何をしていたのかを訪ねる。
「今までマモルちゃんの家に行ってきました。彼女の家は大豪邸でお食事もフルコース並みのものが出されてしまって。食べきる頃には結構な時間が過ぎてました、そこは先に何も言わなかった私が悪かったとおもってます。ごめんなさい」
は、ははは……
俺はただ一人で勘違いして、一人で自分を追い込んでただけだったのか。
冷静になると急に恥ずかしくなってくる。
うっわ!なに俺女相手に、しかも年下に嫉妬しちゃってんの!キモッ!ストーカーとか束縛彼氏みたいでマジでキモイ!
あぁぁぁぁぁ!死にたい!
頭を抱え、七羽の膝の上でグリングリントルネードしていると突然、「ぐきゅるる~」
腹の虫がなりやがった。
どこまでもゲンキンな体め!
羞恥に更に加速してトルネードする俺の頭を七羽は優しく撫でて、
「時間も遅いですから簡単に雑炊を作りますね。こんな時間まで何も食べないで心配してくれてありがとう、兄さん」
とにっこり笑った。
天使だ、女神だ!マジで七羽は女神だ!
俺は改めて思った。
「やっぱり俺は、七羽が好きだ!」
「あの、その、ありが……とう」
さっきは風呂に入ってきたり、大胆にくっついて来たりするくせに、面と向かって言われると恥ずかしくなってしまうらしい。
真っ赤になった顔でありがとうと言うのが精いっぱいの様子だ。
顔を赤くした七羽は、ゆっくりと俺の頭をソファーに下ろすと遅めの晩御飯を作ろうと台所へ向かっていった。
その晩出てきた飯は、雑炊だけに止まらずサラダとデザートが付いた豪華なものとなった。
その後は仲良く同じベットで眠りましたとさ。
如何でしたでしょうか?
次回もお楽しみに!!