31、罠ってわからないから罠なんだね
契約書を書かされてから何事もなかったようにそれぞれが、それぞれの部屋に戻り、それぞれの時間を自由に過ごしている中、晩飯前にまた問題が起こった。
と、その前に、大豪邸と化した俺の家の部屋割りについて説明をしておこう。
まずは1階になるが、ココは基本的にはすべてのものが共用になっている。
台所、食事場、風呂、サウナ、トイレ、簡易トレーニングルーム、カラオケルーム。
……うむ。なんだか無駄なものが多々ある気はするが気にしない。
むしろ気にしたらいけない。
女の子にはいろいろ必要なのだ。
あ、あと当たり前かもしれないが、もちろん家の出入り用玄関もこの一階にある。
2階からは基本的に各々の部屋になっている。
2階には、華渕と御堂。
3階には、七羽。片側は空き部屋。
4階は今のところ使用用途がない為、すべて空き部屋、兼物置。
んで、五階が俺の部屋と笹塚さんの部屋。
本当は下まで降りるのが面倒だから2階が良かったのだが、女子たちに一斉に却下された。
理由は以下にまとめる。
①俺が2階にいると女子みんなが必ず通る場所に部屋がある為、ついつい誰かがぬけがけしたくなる。
②2階から1階に俺が下りて行く時に気が付きにくい。
③気が付きにくいと、登校する時や出かける時に誰かが一人だけおいて行かれるかもしれない。
④私が兄さんのお部屋より上のお部屋になるなんてダメです!妹なんですから!
⑤朝起きる時に起こしに来て!
⑥な、なら僕も起こしてほしいな……
⑦やはり男たるものドシンと上に構えるものでしょうぞ!女性の方々もそれを望んでられますので。
⑧「「そういうことだから、わかった?(お願いします!)」」
見ればわかるだろう。
拒否権を発動しろだって?
無理だね。
そのスキルを使う前に、俺の自動発動型のスキル「妹愛」が発動してしまったのだから。
その他の雑音などどうでもいいが、愛する妹が上目づかいに「お願いします!」って言ってきたんだぜ?
あれだ、もし仮にベットの中で二人きりでこのセリフを俺の腕の中で言われたら……………
な?
拒否権なんてもうゴミクズみたいなもんだろ?
捨てる以前に持ってること自体が罪になるレベルだ。
ということで、総じて俺に断る理由はないのだ!!
はっはっはっ!!
…………話をもどそう。
そう、問題が起こったのだよ、問題が!
何かって?
それはだね――――
「なぁサクマ、あの時の続きをしに来たのだが……早く電気を消してくれないか?」
「…………」
ということである。
意味不明だろ?
安心しろ、俺もだ。
まぁ簡潔に説明すると部屋に来た御堂は、その2つのメロン様をタオルで隠した程度の姿でやってきて、俺の部屋にいつの間にか施されていたセキュリティロックを作動させて二人だけの密室を作り出したのだ。
見逃した俺も悪かった。
いろいろ違和感はあったんだよ……
無駄にひろーくなった部屋になぜか置かれているダブルベッド。
セキュリティの為だろうと疑わなかった三十ロック式のドアの鍵。
窓には銃弾すら弾きそうな感じの鉄製シャッター。(カーテンが閉め切られていてさっきまで気が付かなかった)
簡易シャワールーム。
極め付けには、ベッドの枕元に大人の安心グッズ。
何だそれはって?
それはご想像にお任せする。
ちなみに「極薄!驚異の0.01mm!! これであなたも紳士の仲間入り」と書かれている。
その箱を手にしてフリーズしている俺を横切り、御堂はダブルベッドに腰掛け、敷いてある薄手のタオルケットで胸元を隠しながらモジモジして催促する。
「あの……サクマ? 今日は遠慮しなくてもいいんだぞ? この部屋には誰も入れないし、防音も完璧。それに内と外から相当な衝撃を与えてもビクともしない壁で出来てるから防犯面も安心。それにこう言う時は何より据え膳喰わぬは……だろ?」
「……なんてこった」
据え膳食わぬは男の恥。
よくもまぁ昔の人はそんな言葉を創ってくれたものだ。
お陰様で今俺はよくわからない選択を迫られているではないか。
喰えば俺は何か大事なものと七羽を失い、男としてワンランク上の存在になれる。
しかしここまで用意万端で喰ってくれと皿の上に乗っているご馳走を食わなくても良いものか。
大抵の男は二つ返事、いや、何も言わずに目の前の御堂を食い散らかす事だろう。
うむ、ならば俺もそうした方が………
いいわけない!!
俺は野生の熊をも超えるような大きな仕草とあらん限りの大声で御堂に訴えかける。
「馬鹿者! そんなに簡単に男に体を差し出すんじゃありません! おまえはそんなに安い女じゃないだろ? 御堂家の次期当主でもあるんだから一般市民の俺に、しかも妹が一番好きとか言ってる世間的にヤバい奴にホイホイ体を自由にしていいとか言っちゃダメです!! わかりましたか!!」
決まった!
今世紀一番の決めゼリフだ!
そうだったはずなんだが……
「わからない」
ん?
今なんと?
「だからサクマの言ってることが微塵もわからないと言ったんだ」
「……なんですと?」
「だってそうだろ? 別に男なら誰でもいいわけじゃない。サクマだからこそ言ってるんだ。それに次期当主かもしれないがそれも関係ない。女が男に惚れるのは、男が女に惚れるくらい普通のことだろ? 妹が好きなのは十分承知している。世間体なんか気にしてたらそれこそ御堂家から飛び出してるところだ。だから僕はサクマが言ってることは微塵もわからない。それとも………サクマは僕が、僕のことが嫌いなのか?」
潤んだ瞳で訴えかける御堂。
うぐっ……
女の子のあの目は本当にズルい。
たしかに以前はなにかにつけていちゃもん付けてきてたから大までは付かずとも嫌いではあった。
七羽を貰うとか言ってた時なんか、何度男だったらビンタしてやるのにと思ったことか。
それも今ではどうだろう。
御堂のまっすぐで正直な気持ちを知り、それに答えられないと俺は答えて、それでも自分を見てくれとアピールしてくる。
こんなにもまっすぐな女の子を男は嫌いになれるだろうか。
主観ではあるけど、多分無理だと思う。
世界中の男に聞いてみるといい。
よっぽどのモテ男で女に困っていない奴はそう言うだろうけど、普通の男はきっとこう言うはずだ。
嫌いになんてなれない。
むしろ好意すら持つ。
と。
俺も今では、好きまではいかないが普通に友人程度までの好意はもっている。
そうだ。
あくまで友人までなのだ。
だから俺は、
「嫌いじゃない。好きではある。でもそれは友人としてだ。それ以上でも以下でもなく友人としてだ。だからまた言うが、俺はおまえの気持ちには応えられない」
流れる沈黙、うつむく御堂、いたたまれなくなり天井を見上げる俺。
が、その空気を弾き飛ばしたのはまた御堂の一言だった。
「サクマが言ってるそれもよくわからない」
Why?
「ん? あの、だからですね。僕はあなたのことを友人としか見れないので……」
「だから、これからすることと、その気持ちってイコールにしなくてもいいんじゃないのかい?」
更にWhy?
「え? だってそういうことはしっかりお互いが気持ちを寄せ合ってから……」
「じゃなくても大丈夫だろ? 僕は良いって言ってるんだからいいんだよ。 それに既成事実さえ残ってしまえば気持なんか後からついてくるかもしれないだろ? さぁ!早くこの間の続きを!」
ニタリと笑う御堂。
こ、こいつ最後にぶっちゃけやがった!
始めからそのつもりで俺の最初で最後の砦を奪い取ろうとしてたのか!
クッ……なんて計画的で狡猾なんだ。
金持ちはこれだから恐ろしい!
世間知らずなフリじゃなく、世間のことなんか知る必要ないってか!
焦りと危機を感じた俺は、じりじりと壁際まで後退する。
が、その壁には罠が仕掛けられていた。
手が壁に触れた瞬間にガチャリとどこかで音がしたと思ったら、両腕がしっかりと壁に固定されていた。
「なっ、えっ、ちょっマジか!」
御堂は、焦る俺を少し赤らめた顔で見つめながらベッドからゆっくりと降り、タオルケットを引きずりつつ近づいてくる。
「さぁ、あのときの続きをしよう。そうすれば嫌でもキミは僕のものだ。 それにキミも今を楽しめばいいのさ。そうすれば、ナナちゃんや日花さんでは味わえないような極上の快楽を与えてあげるよ? サクマ……僕のものになれ」
「えっ、心の準備が……じゃなくて!! マジでやめろ! 頼む、たのむぅぅぅぅぅ!」
響く俺の絶叫は、防音設備バッチリの部屋の中で消えていった。




