表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/38

30、またですか?

 御堂とのちょっとぎこちない雰囲気も、家に帰るまでの雑談ですっかり解消された俺は、今猛烈に混乱している。

 というか、七羽と華渕もアレ?って感じでフリーズしている。


 住所は確かに自宅。

 周りに立ち並ぶご近所さんも、ココから目と鼻の先にある公園も、いつもある自販機も同じところにあるのに、なぜか自宅が自宅ではなくなってしまっている。


「……あの、兄さん? ここは確かに私たちの家ですよね?」


「確かにそのはず……なんだけど、な。 それに確か二階建てでいかにもオヤジと母さんが苦労して借金して建てたんだろうなって言うくらい実家感ハンパない雰囲気だったんはずなんだが……」


「ねぇサクマ? 私、夢でも見てるのかな? 今目の前の家が5階建てに見えるんだけど?」


 各々思うことは違えど、感じていることは同じ。

「えっ……ここ本当にうちですか?」が率直な感想だろう。


 そりゃそうだろ。

 だって、ちょっと学校行ってくるね!って行ってからものの数時間で家が2階建てから5階建てに変貌してるんだぜ?おかしくないですか?

 しかもなぜか豪華で頑丈そうな門とセキュリティ万全ですって言うくらいの防犯カメラがいたるところに設置されている始末。


 パニックになりかける()()()()()は、何分間だろうか、その場でボケッと立ち尽くしていた。


 *****


 更に数分後、ようやく思考が現状に追いついてきてハッと我に返る。


 で、気が付く。

 つい先日のことだ。俺が七羽を追いかけるために乗り、体調の悪かった七羽を病院まで送り迎えした、ファミリーカーがその5階建ての家の前に堂々と停まっていることに。


 もはや思いつくことはそれしかない、というかそれ以外にない。

 俺は他の3人を置き去りにして、たぶん自宅であろう無駄に装飾が美しくなった家のドアを豪快に開け放つ。


「おかえりなさいませ、サクマ様。 本日も学校へのお勤めお疲れ様でございました。 こちらに御堂家でも大変喜ばれております、レモンムースのソーダゼリー添えをご用意しておりますのでどうぞお召し上がりくださいませ」


「あ、笹塚さんただいま。 今日はレモンムースか! 俺それ大好物なんだよ!」


「おぉ、そうでございましたか。ではまだまだ沢山ありますのでご遠慮なさらずどうぞお召し上がりください」


「わぁ~い! レモンムースだぁ~! いっただっきま~す。 あ~ん………う、うむぁ~い! レモンのサッパリさとソーダゼリーの弾ける感じが絶妙でいくらでも食える! さっすが笹塚さんだよなぁ!」


「お褒め頂き光栄に存じます」






「………でさ、なにコレ?」


 急に現実に帰ってくる俺。

 というか、危うく笹塚さんの佇まいと家の雰囲気に呑まれるところだった。

 それに御堂家のレモンムースが大好きなわけあるか!

 今日初めて食ったわ!

 恐るべし、御堂家執事・笹塚さん。

 その存在感に危うくヤられるところだった。


 そんな俺のもっともな質問に笹塚さんは、


「マモル様から伺っておりませんでしたか?」


 と一言。

 それと同時に、豪邸と化した俺の家に七羽、華渕、御堂が入ってくる。

 それを見た笹塚さんは、いつの間にか玄関先まで移動し「お帰りなさいませ、お嬢様方」とお出迎えをしていた。


 家の中を見渡し驚く七羽。

 お嬢様と呼ばれテンションが上がりっぱなしの華渕。

 肩掛けバックを笹塚さんに預け、「ふむ、まぁこんなものか」と納得顔の御堂。


「……ちょい待てぇぇぇい! 納得顔の御堂。じゃねぇよ! おまえか? いやむしろおまえだろ! 俺と七羽の家をこんなんにしたのは!」


「ん? 僕ではない。実際にやったのは笹塚がやったんだ。なぁ、笹塚」


「左様でございます。マモル様より本日の午前中にお話を伺いまして、急ぎ仕立てました次第でございます」


「確かに笹塚さんがやったかもしんねぇけど直接の原因はおまえだろうが! なぁに家主の許可もなく勝手に家改装しちゃってんだよ!!」


「サクマ様、許可ならば頂いておりますが……」




「…………はい? なにを?」



 そう言って笹塚さんは、三つ折りにした紙を懐から取り出して広げてから「どうぞ」と俺に手渡す。

 受け取りまじまじと見つめていると、それに群がるように七羽と華渕が来て一緒に文面を読み上げる。


「えっと……」


 契約書


 1.本日、〇月〇日より御堂家当主の娘、御堂 守が佐倉家に居住するに当たり、家の外観及び内観が当人にそぐわないという理由が生じ、それを解消するため佐倉家を改装すること許可する。


 2.改装の内容などは、当人の執事、笹塚 重三郎(じゅうざぶろう)にすべてを一任し、完成後に外観内観を家主に報告すればよいものとする。ただしそれにかかる費用はすべて御堂家が支払うものとする。


 3.上記内容で完成した家屋については、所有権を佐倉家の家主の所有物とする。


 4.家主以外に完成した家屋への異議申し立ては認めないものとする。


 5.なお、4においては御堂 守が許可を出せばいつでも改装することができるものとする。


 6.もし仮に、御堂 守を佐倉家に居住させないという申し入れが現居住者(佐倉 朔真 及び 佐倉 七羽)からあれば、この改装にかかった費用の全額を佐倉 朔真が負担するものとする。


 7.上記内容で問題なければ下記に実印を押印し、氏名を実筆で記載する。



 家主・佐倉(さくら) (さく)

 保証人(妻)・佐倉(さくら) (さくら)






「……………」


「あの、これ、ちゃんとお母さんとお父さんが書いた字、ですよね?」


「まぁ……パッと見そうだと思う気がしなくもないような気がする……」



 あ、はい。

 その、うん。

 七羽が言うとおり間違いなくオヤジと母さんの字ですよね、はい。


 無駄に鋭利でザ・男!って感じの癖のあるオヤジの実筆とその下に教科書のお手本のような綺麗な字で母さんの名前があるね。

 しかもこの印鑑もしっかり実印登録してあるヤツだねコレ。

 何だろう、怒りたいのだがなぜか諦めが先にやってくるこの感覚。


 借金取りに追いつめられて、契約書で連帯保証人サインしてますが払わないつもりなんですか?とか言われちゃったときの絶望感を客観的に味わっている感覚って言えばいいんだろうか。

 自分のことなんだけど、あまりに非現実的すぎて「えっ?俺ですか?」的な……


 ………はぁ。

 オヤジと母さんには言いたいことが山ほどあるがまずは、それより先に契約書の1項目。

 俺は契約書からガバリと顔を上げると、豪華な装飾が施されて無駄にアーティスティックになったテーブルにバシッと叩きつけ御堂をにらみつける。


「つぉぉぉぉい! いきなりはじめっからおかしいだろぉぉぉ!」


 俺の怒りの声を涼しげに聞き流し、ほっほっほと軽い口調で嗜めてく笹塚さん。


「サクマ様、どうか落ち着いてくださいませ。事後になってしまったことは申し訳ありませんでしたが、お父様とお母様の了承を得ておりますのでどうかお許しください」


「そうだぞ。もうすでに了解は得ているし、家を改装してしまった以上その支払い義務はまだこちら側にあるが、断れば……わかってるだろ?」


「クッ、卑怯な!!」


「はっはっは! なんとでも言うがいいさ。 おまえが日花さんとの同居を始めるというのを聞いて不公平だと思ったのだ。僕にもチャンスくらいあってもいいだろう? それに私はおまえと暮らせるのなら何でもするぞ。 その、なんだ……この前の僕の部屋での続きをしても……いいんだぞ?」


続き?

…………

……

脳裏に高級メロンが二つ浮かぶ。



「マジか…………」


 ちょびっとだけ涎を垂れ流す俺。

 で、少し離れた場所からゴミを見るように見下す華渕とすこーし不自然な笑顔の七羽が視界の端に映る。


「っは! じ、じゃなくてだな、くらなんでも急すぎるだろ! 俺だけじゃなくて七羽も華渕もいるんだぞ! そっちは良いって言ったのか?」


「私は別にいいよ~! あ、でもサクマにちょっかい出し過ぎるは禁止ね!」


「あの、兄さんがいいって言うなら反対はしませんけど、マモルちゃんも日花さんもスタイルが良いから、ちょっと心配になってきました」


 あ、そうか。

 俺に拒否権なんか微塵もなかったのか。

 そう思ったら急に肩の力が抜け落ちる。


 ドカリと椅子に座り込んだ瞬間に狙ったかのように契約書をスッと差し出してくる笹塚さん。

 ぬかりないな、この万能執事は……


 で、この後の俺の行動はわかるだろ?


 そうですよ。

 サインしたんですよ。契約書に……


 今日からまた一人同居人が増えましたとさ。











































「はぁ…………」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ