3、離れたくない。妹から!
3話目になります!!
右腕には見た目美女の華渕、左腕には見た目も中も何もかも天使の我が妹、七羽様。
ここは現実か?いや、否!断じて否!
ここは、まさしく天国なのだ!
両腕に感じる幸せ物質の弾力。特に右腕の我が妹から感じるものは格別だ!別格だ!
だが、その幸せタイムももう終わりを告げようとしている。
校門をくぐり、下駄箱に着くと七羽はパッと絡めた腕を解いて自身の下駄箱へと向かう。
あぁぁ、さよなら天国。
あからさまにガックリするわけにも行かず出来る限りの平常心を保ち、学年の違う七羽を見送ろうと視線を向けると、なぜか七羽はモジモジしている。
「どうした?」
「兄さん、ちょっとだけこっちに来て下さい」
可愛く顔の横でちょいちょいと手招きをしてくる七羽。
俺は呼ばれれば絶対Noとは言わない(七羽限定)奴だからすぐさまそっちへ向かう。
だが今回は登校中に拾ったオプションまで付いてくる。
俺は正直邪魔だと思いつつも無視することにする。
「ん? どうした七羽」
「どったの?」
「あの、すみません日花さん。少し向こうで待っててもらえますか?」
どうやら今回は七羽も邪魔されたく無かった様で早々に華渕をやんわりと追い払う。
華渕はというと当然え〜!っと不満たらたらに抗議をするが、先ほど七羽に助けられた手前強くも行けず渋々引き下がった。
さて本題です!とばかりににっこり笑うと鞄からピンクの包みに入れられたものを手渡された。
っは!こ、これはもしや!
「七羽、もしかしてこれは! 弁当か!?」
「はい。兄さんの為だけに作った愛たっぷりお弁当ですよ!」
頂きました!!愛たっぷり弁当と可愛死に必死のウインク!!
もうご馳走様です!!
というかここで一つ疑問が。
「これいつ作ったんだ?朝だってそんなに時間なかっただろ?」
「それはですね、兄さんが昨日の夜早めに寝てしまったのでその時に下ごしらえをして置いて、朝にお弁当に詰めたんです。だから朝はすぐに出来ましたよ」
お前ってやつは、本当に天使だな!
いやむしろ女神様!!
購買で大人気の1日10個限定、黒毛和牛カツサンド(1個1000円)より断然こっちに決まってる!
むしろこの七羽弁当以外の食い物なんて全てがゴミの様だ!
と言うのは言い過ぎだがそれくらい最強だと言うことだ。
俺は感動に流れそうになる涙をこらえ七羽の手から弁当箱と言う名の愛を受け取る。
互いの手が触れ合った瞬間、七羽は俺の小指に自分の小指を絡めて、少しだけムッとした表情でこう付け加える。
「日花さんが腕に引っ付いてた時、ずぅ〜っと胸の感触に鼻の下が伸びてましたよ!」
「バ、バカな! そんなはずないだろ!俺に限って!」
「今までどれくらい兄さんと一緒に居たと思ってるんですか? お見通しです!」
「うぐっ、すみません」
七羽さん恐るべし。
表情には確かに出して居なかったはずだ、なのになぜわかった。
今後は一層気を引き締めないと色々誤解を生むことになる。
それで仲違い、または最悪別居とか考えたら・・・おぞましすぎる。
俺が焦りを感じている今も当然知っているだろう七羽は少しだけ顔を曇らせて、俺の顔を見上げる。
「兄さんは、私のこと……スキ、なんですよね?」
「ちょっ! いいのか? ここ玄関だぞ?誰かに聞かれたらまずいんじゃないのか、お前が」
周りには当然、靴を履き変えるために大勢の生徒が行き来している。
俺と七羽の少しただならぬ雰囲気はタダでさえ目を引いているのにも関わらず、声も潜めずに普通に聞いてくるもんだから俺の方が更に焦りを感じる。
だが七羽は周りが見えて居ないのか、はたまた見る気すらないのか更に感情を高ぶらせていく。
「兄さん、今はそんなことどうでもいいんです。毎日、日花さんみたいな綺麗でプロポーションがいい大人の女性と一緒のクラスで、他にも可愛い子が沢山いる上級生の中で生活している兄さんが、いつ私以外の人を好きになってしまうのかいつも心配なんです」
「七羽……」
「ごめんなさい兄さん。でも、心配なんです……」
見上げていた顔は曇っていくのと同時に影を帯びる様に下を向いていく。遂には声が聞き取りにくくなるほどだ。
俺は毎日こんなに心配かけてたのか。
でも俺の気持ちは変わらない。
変わる程度なら実の妹を好きになった時点であきらめてるんだから。
だが今は俺の想いを伝えるには時間がない。
だから簡単に、七羽わかる様に伝える。
「七羽、今日も昨日みたいに膝枕、お願いできるか? そしたら多分また眠くなると思うんだ。そのまま寝たら多分寒くなると思うんだけど、朝まで俺の横に居たアレを今日も頼めるかな?」
「兄さん! はいっ、喜んで!!」
「じゃあよろしくな! 」
七羽はそれはもう満面の笑みで顔をあげて喜んでくれた。
本当に良かった。
俺はその笑顔のためだけに生きてます!
神、いや、七羽様に誓って!
互いに納得する形で事を終え、弁当の受け渡しを済ますと、七羽は自身のクラスへと向かっていった。
去り際に振り返り小さくヒラヒラと手まで振ってくれた。
よしっと!これからも一日、頑張れそうだ!
そう思い自分も靴を履き変え教室に向かう途中、待っていた華渕に捕まりまた腕に絡みつかれる。
やめろとは言いつつも、体では全力で拒否出来ない自分の不甲斐ないところを七羽に見られなくて良かったと心底思った。
と、同時にすまんと心の中で謝罪する。
あぁ、こん何なるくらいならずっと七羽と一緒に居たい!
もう、ほんっとに家から出たくない、七羽と居たい、離れたくない!と本気で思った。
**********
さて、華渕に絡みつかれ、なかば引きずられる様にたどり着いた教室の中からは嫉妬に駆られた視線が雨霰と降り注ぐ。
タダでさえスウィートマイシスターとの苦渋の別れで傷心しているというのにこのクラス中の男子からの視線は痛すぎる。友達だと思ってた奴らからなど殺意すら垣間見えるほどだ。
俺は早々に華渕の腕を振りほどき、自分の席にさっさと移動する。
華渕はあからさまに文句を言いたげにしているがとにかく今は無視だ。
触らぬ神にとかなんとか言うがもはや触れてしまったもんは仕方ない。だから出来るだけ祟られない様に速やかに離れると言う判断だ。
今回のこの判断は間違いではなかったらしい。
席に向かう俺の後をついて来てまで文句は言われなかった。
後ろから来た、華渕がいつもつるんでいる風谷さんに声を掛けられ話をしていたからだ。
グッジョブ風谷さん!
今回は風谷さんのお陰で助かったが、いつもなら席までついて来てまで、クドクドと文句を言われるのだ。
その間中クラスの男子から悪意と殺意の篭った視線が向けられ続けるのだ。もう辛すぎて帰りたくなる。
ため息を一つつき、ようやくついた席で持参したペットボトルのお茶に口をつけていると、前の席のクソ野郎からチャチャが入る。
「今日も綺麗なお嬢さんと腕組み出勤かね? 変態シスコンのサクマくんは?」
「うるせぇ、うぜぇ、もっぺん最初から訂正して、頭を地面に擦り付けながら謝りつつ人生やり直せヘタレ!!」
「これは手厳しいな、シスターコンプレックスのサクマくんよ!」
「そう言うやり直せじゃねぇ! てかシスコンじゃなくてシスターラブ、シスラブと呼べ!ドヘタレが!!」
このいちいち癪に触るもの言いをしてくるこいつは、銀田次郎と言う、華渕と同様、いわゆる幼馴染という奴だ。
こいつとは小学からの付き合いで、何故か小学の頃から同じクラスで、何故かいつも前の席になる、腐れ縁すぎて笑えないというくらいのえげつない付き合いが続いている。
そして今回も高校が被り、クラスも被り、席の並びまで被るという腐れミラクルが起きて今に至る。
そしてこいつには、俺が妹の七羽を愛しているということがバレているため、この問答になったというわけだ。
さてもうそろそろうざくなって来たので強制無視でも発動しようかと思って来た頃、銀田はさぁ語れと手のひらを俺に向けてくる。
そう、何を隠そうこいつは華渕日花の事がずっと好きなのだ。
俺と華渕が幼馴染ならこいつも同じく幼馴染だという事。
その小学から今までずっと華渕の事が好きらしい。
今までずっと好きで告白とかしなかったのかって思ってる奴も居るだろう?
こいつはひたすら思い続けるだけで好きのすの字も言えていない。
言わば、純情系一筋を語る単なるヘタレなのだ。
そんなヘタレはどうしても華渕のいろいろな事が知りたいらしく、よく一緒に居る俺(非常に不本意だが)に嫉妬混じりの情報提供を求めてくるのだ。
だがいつも通りの展開に俺から伝えることなど特にも無く、
「今日もなんもないぞ」
の一言で終わりになる。
それを聞いた銀田は決まって、俺の胸ぐらを掴み、
「吐け!洗いざらい吐け!俺に隠れてなにしてやがったんだよ!なぁ頼むよぉ、なんもしてないって言ってくれよぉ、じゃないともうメンタルきついんだよぉ〜、絶対お前のこと好きそうなんだもん」
と俺を脅迫している状態から、何故か自分のメンタルを突き落としていくというパターンに移行いていくのだ。
だから決まって俺は、先ほどのお返しとばかりに呟いてやる。
「そう言えば一つ。華渕の胸、また大きくなってたなぁ」
「なにぃ!っぐぅばぁぁ!」
俺と密着している姿を想像し血を吐いて倒れる。
お前の死は忘れないぞ銀田。
銀田亡骸を前の席の机にそっと移動させ、俺は妹の居ないこの空間にうんざりしてため息を吐く。
早く終われ、今日!
如何でしたでしょうか?
次回もお楽しみに!!




