28、やっぱり住むんだよなぁ……
ひとしきり俺一人が辱められるという行為が終わり、また話は本題に戻る。
まったく!
やっぱり華渕が入ってくると話が前に進まないんだよ。
「ったく! からかいやがって……で? 俺をその、あの、好き……………」
「好き?」
「………だぁぁぁ! 好きってのが何の関係があるんだよ!ったく、いちいちからかうな!」
華渕は嬉しそうに頬杖を突きながら俺の顔をまじまじと見つめてくる。
もう満面の笑みでニッコニコ。
うざいっ!マジでうざいっ!
本当になんだこいつはっ!
このウザささえなければ、まぁ……そのなんだ、可愛いのにな……
って、おいっ俺っ!!
華渕なんぞが可愛いとかありえないだろ!
マジで!
なんだか最近本当におかしい気がする。
華渕からあの言葉を聞いてからなんだか気になるというか、放っておけないというか……
う~ん……
あっ、たぶんアレだろう。
子犬がすり寄ってくると無条件に相手にしたくなるあれと一緒だろう。
そうに違いない!
うん!
ということで、はいっ!
俺の中でのこの話題おしまいっ!
若干なんだか違うような気がしないでもなくもないような気がするようでしないんだが……
以上っ!
「ってことで話をもどそうか」
「はぁ? 戻るも何も始めから一歩もずれてないわよ?」
「うぐっ、と、とにかく続きカモン!」
まぁいいけど、と華渕は先ほどの続きを語り出す。
「七羽ちゃんにも言ったんだけど、妹ってところさえ取っちゃえばさ、もう一人の男子と一人の女子ってことでしょ?」
「まぁ、そうだな。で、それが何の関係があるんだ?」
「もうっ! 兄さんはまだわからないんですか? 本当に人からの好意とそういうのに本当に鈍感ですね」
七羽は若干呆れ顔をしながらもクスクスと優しく微笑んでいる。
ちょっと七羽に注意された感はあるが、七羽にだからまったく嫌な気はしない。
むしろ気が付かない悪い兄ですまないなぁとか思っちゃう。
「サクマは無駄に鈍感でホントに困るわ!」
わかるかね……
これが七羽と華渕の違いよ……
受ける言葉の癒し加減がまるで違う。
だから俺は、
「うるさい黙れぃ!」
と返してやるしかないのだ。
たとえ、華渕がちょっと涙目で上目づかいに可愛い顔して……じゃなくて、憎たらしい顔してたとしてもだ。
そんな華渕が涙がうっすらと溜まる目を大きく見開いて俺に向かいはっきりと告げる。
「ほんっとひどいわね……だからよっ!」
「だからなんだよ」
「七羽ちゃんとばっかりずっと一緒にいて、恋人みたいに家でも学校でも過ごしてるなんて不公平なのよ! サクマは七羽ちゃんのことばっかりしか見てないし、周りなんか見えてないのよ。だから私は決めたの、私もサクマに少しでもいいから見てもらいたくて! だから七羽ちゃんにも言ったの、私にもちょっとでいいからチャンスをくださいって!」
「華渕……」
俺は、少しだけ勘違いしてた。
華渕がどれくらい俺のことが好きなのかということを。
単なるノリとか冗談とか、そういったものではなく、純粋に単純に俺のことを精一杯好きなのだということをようやく理解した。
二の句を告げない俺と華渕はただまっすぐと互いの瞳を見つめ合っていた。
別に変な意味ではなく、その目の中に移るお互いの姿がどんな顔をしているのかを見たかったからかもしれない。
たぶんそれくらい、今の俺と華渕は真っ赤な顔をしていただろうから。
なかばボーっとしているような感覚の俺たちの目を覚ますように、七羽が手をパンパンと打ち鳴らし、話のまとめにかかろうとしている。
「兄さん、そういうことなので日花さんがうちに住むことを許してくれるでしょうか?」
「……いや、まぁ、なんだ、七羽は本当にいいのか?それに華渕の両親とかは許してんのかよ」
「そこは大丈夫よ! うちの父さんも母さんも、サクマ君の家に嫁ぐなら安心だな!とかまだ高校生だから赤ちゃんだけは気を付けてね。とか言ってたぐらいだから全く問題ないわ」
「つぉぉぉぉぉいっ!! めっちゃ問題だらけだよ! 何がどうして嫁ぐ話になってんだ!? しかも赤ちゃんって! おまえもだけど両親も頭イっちゃってんじゃねぇか!!」
「私はいいけど両親は馬鹿にしないでよね!」
「お前が悪いんだろ! それにお前みたいなの産み出した両親も同罪だっての!」
「あの、私は問題ないですよ? 確かに不公平だと言われればそうかもしれないと思いましたから。それに私は兄さんを信じてますから。だから大丈夫だって思っているので心配はしていません」
「七羽……」
「ほぅら! また七羽ちゃんにデレデレしちゃってさ! そういうところばっかりだから不公平だって言ってんのよ!たまには七羽ちゃんに馬鹿とかくらい言ってみなさいよ!」
「七羽のばぁ~か(にんまり笑顔で)」
「もうっ!兄さんったら私に怒られたいんですか? でも兄さんだから怒れないんですけどね」
「何この無駄に甘ったるい感じは!! あぁぁぁもうっ! ぜーったいに私にも優しくしてもらえるようになってやるんだから!」
と、そんなこんなで大騒ぎのうちにこの日の夜から華渕は俺たちの家に上がりこむことになったのだ。
あ、そうだ。
銀田はというと……
「俺なんかどうせ空気さ……いや、ゴミか?あれ?ゴミってなんだっけ……アレ俺って誰なんだっけ? うふっ……うふふっ……うふふふ……」
とか言いながら、俺の家の廊下の隅でずっとうずくまってましたとさ。
ってかいつの間に廊下に出たんだ?
銀田にはマジで悪いことした……本当にごめんなさい。
**********
さて次の日、結局七羽と一緒のお風呂に入れなかった俺は朝も早よから晩飯作りだ。
もちろん一人ではない。
七羽といっし……
「って! 私もしっかりいるわよ!」
ちっ……
俺の心の声を聞き取ったのか、この華渕めが。
せっかく早起きして昨日の七羽との約束分のお料理教室を取り返そうとしたのにいらん茶々が入った。
ちなみに華渕にはもう使われてなかった空き部屋の二つのうちの一つを貸してやったのだが、その日に来て埃っぽいところに放り込むのもなんだかなぁという気がしたので、七羽と同じ部屋に昨晩は寝てもらった。
そういうことで、いつまでも七羽の部屋に華渕を入れておくわけにもいかないから、今日はできるだけみんなで早く帰って部屋の掃除と今後の役割分担をしようという話になった。
となれば、できるだけ掃除に時間を割くために朝のうちから晩飯を作ってしまおうという流れには必然的になる。
朝の4時には七羽が起き、身支度を済ませてから俺を起こしに来てくれた。
幸いというか、最高というか、その時は華渕が起きてきていなかったので寝起きのキスをしてくれたのだ。
いや、もうマジで、朝から元気100倍ですよ!
勘違いしないでほしいんだが、変な意味でじゃないぞ!
掛け布団を天井にぶち当たるくらいまで跳ね飛ばし、それが元寝ていた布団に落ちてくる前には身支度を済ませられるほどに俺の身体は強化されたのだ。
まったく、女神のキスは俺の体を最高の状態にしてくれるぜ!
だが、意気揚々と部屋を出て階段を降り切ったところで、俺にかけられた女神の付加効果は一瞬で消されてしまう。
なんと華渕が起きていたのだ。
まぁ、原因は俺が布団ぶっとばしてガッタンガッタンやってたせいなんだけどね……
そんなこんなで……
「七羽とのラブラブ料理教室は幕を閉じたというわけです。 おしまい」
「どこの誰に向かって話してんのよ、朝っぱらから。顔でも洗ってきたら?」
くっ……こいつは朝からイラつかせてくれるぜ。
「って俺よりまずおまえだろ。 いい加減パーカーとかなんか上着ぐらい羽織れよ」
と俺が言うのも無理はないだろう。
薄手で少し大きめのキャミソールに股関節見えるんじゃね?ってくらい際どいショートパンツ(華渕いわくパジャマ)姿なのだから。
それにこいつの体型を考えてみてくれ。
上半身にボール二個ついてて、それの上にひもで吊り下げられただけの布しか装備してないんですよ?
ね?
朝の気持ちのいい時間に小さな息子さんが見ていいものではないのですよ。
ん?本音はどうなんだって?
そりゃまぁ俺だって男の子ですから、本音を言えば見たい……
じゃなくてっ!!
そんな不健全なもの見たいわけがないじゃないですか!!
だから華渕に注意したんですよ、はい。
「着替えてこい……目の毒になります。それに七羽にばかり作らせてんだからちょっとは手伝えよ」
「またまたぁ~。目の毒とか言っちゃってしっかりココ見てたよねぇ~ サクマはやっぱり大きい方が好きなのかなぁ~?」
「だ、黙れぃ! 別に大きいとか小さいとかはどうでもいいんだよ! とにかく着替えてこい! ですよね七羽さん!」
手元を鮮やかに翻しながら昨日の余った材料であろう海鮮たちと野菜の油炒めを皿に盛りつける。
皿に乗った炒め物をサッと菜箸で整えると、俺にものすっごく可愛い笑顔で、
「そうですね兄さん、やっぱり大きい方がいいんですよね。 私も大きくなれるように頑張りますね。ということで日花さん、後でおっきくする方法教えてくださいね!」
と、話を聞いてたんだかなんなんだかな回答をくれました。
華渕はと言えば、それはもうはしゃいで、
「じゃあ今日は一緒にお風呂に入ろうね! そこでしっかり女の体のつくり方をレクチャーしてあげるわ!」
とかぬかしてやがる。
それに対し七羽もまんざらでもない様子で「はいっ!」と元気よく答えていた。
家にいる奴が一人増え、朝からうるさいほど賑やかになったけど………
「これはこれでいいもんだな」
そう思いながら、女の子二人の騒ぐ姿を眺めるのだった。
そういえば、あれから銀田はどうしたんだ?
ま、いっか。




