表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/38

27、不公平だから!

「兄さん、お味はいかがですか?」


「あぁ……うまい!うますぎて涙とヨダレが止まらない! 最高だ!」


「それはよかったです。 おかわりもたくさんあるので遠慮なく食べてくださいね」


 今現在、七羽・華渕・銀田と共に七羽お手製の海鮮たっぷりパエリアを食べている。

 言わずもがな、味は最高級料理店をも凌ぐ素晴らしさだ。

 イカとタコのプリップリの食感が口の中で弾け、濃厚な貝とウニの風味にすっきりとしたレモンの味がまた食欲をそそる。


 そして見た目も味に引けを取らないほど素晴らしい。

 サーモンのオレンジが黄色く染められたごはんに映え、それを引き立てるように貝やタコやイカ、パプリカなどの色とりどりの食材が互いを全く邪魔していない。

 そう、これは人では作れない代物なのだ。


【完璧】【完全】【絶対】【唯一無二】


 そんなものが俺の晩御飯なのである。

 な?最高じゃない?

 俺って今、無敵じゃない?

 いや、むしろ無敵だよな!


 だってこんなに可愛くて、料理上手で、可愛くて、優しくて、可愛くて、兄さん思いで、可愛くて、女神で、可愛くて、天使で、可愛くて、最高な妹なんか世界中のどこにもいないだろ!

 俺って幸せ者だなぁ……。


 とか考えていると、山盛りだったパエリアもいつの間にか目の前から消えてしまっていた。

 最後に残った米粒を丁寧にかき集めて残らずスプーンに乗せ、完食。

 めいっぱい味を堪能してその余韻に浸ってからスプーンを置き、両手を合わせてこれを創造(つく)った

 女神・七羽に感謝をする。


「はふぅ~、ごちそうさま! やっぱり七羽の作る料理は最高だな!」


 腹いっぱいになり、茶でも飲もうかと席を立とうかというところに七羽が、お茶を入れた湯呑を目の前に差し出してくる。


「やっぱり七羽は気が利くな! 最高のタイミングだ!」


「いつものことですよ! 温かいうちにどうぞ」


 一口すすると、口いっぱいに広がるお茶の苦みと少しだけ感じるほのかな甘み。

 旨い!旨すぎるっ!!


 このお茶は七羽がいつもの商店街で買ってきた1パック200円という価格の激安な緑茶である。

 激安でそんなに旨いお茶があるのか!とか思ったそこの奥様。

 それはちょっとした誤解でございますよ!


 はっきり言ってこの緑茶自体が特別旨いわけではない。

 むしろ普通に売ってる大手メーカーのペットボトルの方が旨いだろう。

 それは間違いない。

 俺が普通に淹れたらなんの変哲もない普通以下のお茶だったのだから。


 だが七羽の手にかかればどうだろう。

 お茶の香り、温度が完璧に計算されているのだろうかと思うほど旨くなる。

 だがそれだけではこの味は再現できないだろう。


 ではなにか。

 それは隠し味を入れていることにある。

 七羽はできたお茶に、小さなスプーン一杯に満たないほどのほんの少しの蜂蜜を入れているのである。

 その量が絶妙だからこそこれほど旨いお茶になるのだ。


 あぁ、旨い……

 そのお茶もあっという間に飲み干し、俺は今日一番の満足感を得るのであった。







「って、危なっ!」


 今日の話を丸ごとおしまいにするところだった!!

 恐るべし女神の晩餐……


 ということで、俺は改めて七羽にごちそうさまと伝えると、幸せに飲まれないうちに本題に入ることにする。


「でだ、七羽さん。 お兄さんにさっきのことになった経緯をしっかりお話願いたいんですけど……いいかな?」


「もちろんです。 でもその前に、あの、そこのお二人は……放っておいていいんですか?」


 あっ……

 すっかり忘れてた。

 華渕と銀田の存在自体が頭からスポッと抜けてました。

 円卓を囲んで4人で飯を食ってたんだけど、いかんせん七羽の料理が最高過ぎて忘れとったわ。


 俺がちょこっと声かけてやろうかと、そちらに顔を向けてやると、二人はどよ~んと効果音が付きそうなくらい影を背負って椅子の上で小さく縮こまって呪詛なのかなんなのかをぶつぶつとつぶやいている様だった。


「どうせ七羽ちゃんしか見えてないんでしょ……どうせ私なんて……私なんて私なんて私なんて私なんて私なんて……


「サクマは別にいい……七羽ちゃんもまぁ別にいい……でも日花ちゃんからの無視は嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」


 うわっ……怖っ。

 なんでこうなってるのか俺には甚だ見当もつかないがそっとしておくのが今は吉だろう。


 あっ。

 ついでになんだが、銀田には宣言通り、俺の夜食用のカップラーメン(ワカメ&コーンたっぷり!!北海道バター使用の濃厚味噌味)を食わせている。

 ちゃんと貝の殻は二、三個あげたんだぞ?


 そのせいで傷ついたんじゃないかって?

 それはないな。

 だって七羽の特性ご飯を銀田に食わせるだなんて考えられるか?

 無理だね!

 俺の方が海よりも深い傷を負うからだ。


 とまぁ、話が脱線してしまったがとにかく触らぬ何とかに祟りはないはずなので……


「そっとしておこう」


 とそっと七羽に伝える。

 七羽もちょっとだけ微妙な顔をして「わかりました」と答えてくれた。

 で、ようやく話を始めに戻すことにする。


「でだ、俺と教室で別れた後に何があったんだ?」


 七羽はあの時のことを思い出す仕草もせずにすらすらと言葉を紡いでいく。


「兄さんが帰ったあの後、日花さんと学校を出て近くにある公園に行ったの。 そこで今日の朝のことを謝られました」


 華渕はやっぱり、気にしてくれてたみたいだな。

 なんだかんだ我儘そうに見えて優しいからなあいつは。


「それでその後に、一つだけ聞いて欲しいことがあるって言われたんです」


「ほうほぅ。で、それがこの家で一緒に暮らしたい……ってことだったのか? なんでまたそうなるんだよ」


「ごめんなさい兄さん。兄さんに許可も取らずに勝手に決めてしまって……」


 明らかにシュンとする七羽。


「違う違う! 七羽を攻めてるんじゃないんだよ。なんでいきなり華渕が俺の家に上がりこんでくるなんて言うんだよっ!って意味で言っただけであってだな、断じて七羽を苛めたいわけじゃないんだ」


「いえ、やっぱりしっかりお話しないといけないことでした。ごめんなさい」


 七羽は椅子から立ち上がり深々と腰を折る。

 本当にすまないと、心から反省していると言って謝ってくれた。

 だから俺もこういう時はしっかりとその謝罪は受けて「わかった」と言い、頭をくしゃくしゃとなでてやる。

 互いにクスリと笑うと七羽を椅子に腰かけさせる。


「それでなんだけど、華渕が一個だけ言いたいことってなんだったんだ?」


「それは、私と兄さんの関係が……」


「不公平だ! って言ったのよ」


 いつの間にか闇の底から這いあがってきていた華渕が横から話に割り込んできた。

 しかもなぜかめっちゃドヤ顔で。


「はいはぃ、うざい。 で、なんで不公平になるんだよ」


「よくぞ聞いてくれました! それはね、いつもいつもあなたたちがずーっと一緒にいるのが不公平だって七羽ちゃんに言ったのよ」


 ……は?

 こいつは何を言ってるんだ?

 七羽は妹なんだからずっと一緒にいるのはあたりまえだろ。

 それの何が不公平だって言うのだ。


「すまん。 さっぱりわけがわからん。さっさと帰れ!」


「ひどいっ!! なんでいきなり帰れなのよ! 話は最後まで聞いてよ!」


「そうですよ兄さん。 いきなり帰れはちょっと……」


 うぐっ……

 七羽に言われたんじゃ仕方ない。

 優しい妹に免じて、即時ご退出は勘弁してやろう。

 というわけでというか、だからというわけではないのだが、早々に事の経緯を話せと華渕を促す。


「……で? 結局なんなんだよ」


「前に言ったでしょ?」


「何をだよ」


 華渕は俺の目をまっすぐに見つめてしっかりとした口調でまたあの時の言葉を口にする。


「ずっとずっとずーっと前からサクマのことが好き」


 俺の顔は内側からバーナーを直当てされた鉄板並みに赤くなる。

 はずっ! 恥ずかしすぎる!

 俺は華渕から顔をそむけちょっと横を見ると七羽が何ともいえない、いい笑顔で俺を見つめていた。


 勘違いしないでほしい。

 この七羽の顔は怒っているのではない。

 本当に心の底からの笑顔なのだ。

 何かを愛でる時のとても優しい笑顔。

 長年一緒にいたからそれくらいはよくわかる。


「七羽も、華渕も頼むからそんなにみつめないでぇぇ!」


 俺はこの二人の女の子の間に挟まれなぜか全身で恥ずかしさを味わうという初めての体験をするのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ