22、謝らないと……でも!
あれから、俺と七羽は一度も起きることなくしっかり昼まで眠りこけ、昼休みに漂ってくるメシの良いにおいで目が覚めた。
「ふあぁ……あってて、背中が……」
固い場所に寝ていた所為だろう、背中がめちゃめちゃ痛い。
七羽はと言うと、以外にもすっと起き上がり思いっきり伸びをしていた。
「ん~……っと! あ~、よく寝ましたね」
「そうだな。 でもこんなとこで寝てよく背中が痛くならないもんだな。俺も歳かな」
「歳って言っても一個しか変わらないですよ? それに私が痛くないのは兄さんに、その……腕枕……してもらったお蔭ですよ?」
モジモジと手を摺り合わせ恥ずかしそうにする七羽。
あれ? ここに天使がいるのは気のせいか?間違って下界に降りてきたに違いない。
俺がしっかりと天界に送り届けねば!
いやその前に、昼だしせっかくだからしっかり下界のごはんを食べていってもらおう。
「そこの天使さん。 下界の味がお気に召すかはわかりませんが、あそこの食堂で僕と一緒にランチなんていかがですか?」
頭を下げて天使さんをお誘いするが、その天使は首をフルフルと横に振って俺の誘いを、
「結構です」
の一言でぶった切った。
下界に迷いこんだ天使、七羽からの攻撃!
↓
サクマは除ける術を知らない……心臓(おもに心)にクリッティカルヒット!
↓
サクマは一瞬で絶命した。
↓
コンティニューしますか? はい・いいえ
物言わぬ亡骸になった俺をひょいと飛びこし七羽は梯子を使い下に降りて、小走りで走っていってしまった。
なぜだ、天使がいきなり攻撃を仕掛けてくるなんて……
とまぁ、普通に考えればあんなことあった後に飯なんて一緒に食いづらいよな。
帰ったらまた、しっかりと謝ろう。
いやその前に、今日は七羽とのお料理教室の為の買い出しがある。
その時に少しだけ公園にでも寄って話をしよう。
思案を巡らせる頭に区切りをつけ、ふぅと息を吐き出して購買にパンでも買いに行こうかと立ち上がる。
少しぐらつく梯子をゆっくりと降り、購買の方に歩きだすと前からまた、走り去って行ったはずの七羽が帰ってきた。
俺の目の前にたどり着くと、ハァハァ言いながら膝に手をついて息を整える。
膝から手を離し大きく深呼吸を二・三度すると、肩に掛けていた小さ目の手提げ袋をすっと俺に手渡した。
訳もわからず受け取った俺は何だと七羽に聞こうとすると、それよりも早く七羽が笑顔を見せて「開けてみて?」と上目づかいで言ってきた。
俺は返事もせずにその袋を開け放つ。
だって七羽が上目づかいでお願いしてくるんだよ?
きかないって選択肢なんぞ皆無だね!
袋を開けた先には、少し大きめの弁当箱が二つ。
桜柄のハンカチに綺麗に包まれていた。
一瞬固まる俺に七羽は、
「下界のイケメンさん? 良かったら食堂のご飯じゃなくて、私の手作り弁当を一緒に食べませんか? お口に合うかわかりませんが。 なんてね?」
がっはぁぁぁ!!
コンティニューしますか? はい・いいえ
↓
はい
↓
天使・七羽の作りし至高の弁当を手に入れた!
サクマは天使七羽とご飯を一緒に食べる権利を手に入れた!
↓
七羽への愛のレベルが上がった!
「兄さん? 大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込んでくる七羽。
っは!
七羽からの嬉しいお誘いに一瞬トリップしてしまっていた!
「もちろん! いやむしろ一緒に食べさせてくださいお願いします!」
「ふふっ、ですから初めからそのつもりですよ。 でもそれより、兄さんは私が朝にお弁当作ってたこと忘れちゃってたんですね……ヒドイ」
「いや、その、違うんだ。 えっと、ほら、寝起きで頭が回らなかったし? その、七羽が天使に見えてしまってさらに頭が回らなくなってしまってとか? なんていうか、その、あの、えっと……はい、すみませんでした!!」
脳みそが中で潰れるほど高速で頭を下げる俺。
うっぷ……ちょっと気持ち悪い……
そんな俺を楽しそうに見つめて笑う七羽。
やっぱり七羽には笑顔が一番だと改めて思った。
それから、七羽とまた二人だけの秘密の場所で弁当を食べた。
スッキリとした気分だったせいか、いつも以上に美味しく、そして愛情を感じた気がした。
**********
「サクマのやつ…… いったいどこで何してるのよ」
教室に来て朝一のアレから一限目が終わり、すぐにサクマは教室を走り出て行ってしまった。
後を追いかけようと席は立ったんだけど、そのあとを追う男子連中に邪魔されて結局見失ってしまった。
結果というか案の定、二時限目には姿を表すことはなかった。
(やっぱり、朝……あんなことするんじゃなかったなぁ……)
今現在、猛烈に後悔中。
だってそうでしょ? 積極的になろうとは思ってたけどいくらなんでも七羽ちゃんにあの言い方はなかったよね……
イイワケしていいなら、そりゃぁさ、私ももっと一緒に居たいのよ。
家も食べ物もお風呂も何もかも一緒なのはズルいと思わない?
それはまぁ兄妹なんだから当たり前かもしれないけど、それでもお互い好き同士で一緒にいるんだからから、やっぱりズルい!……って思ってしまう。
二時限目の数学もいつも通りやる気が起こらず、いつのまにか休み時間に突入。
「はぁ〜……」
「なぁに、ため息ついてんの日花」
「あぁ、奈津か……なんか用でもあるの? 私は今忙しいの。はぁ〜」
「忙しい人はため息つきながら机に突っ伏してるもんなんだねぇ。で?どうしたの?」
あぁ、まったくもう。
悩むのくらい少しは一人でさせてほしい。
まぁいかにもわかりやすく悩んでる私がいけないんだけどね。
普段は笑い話やどうでもいい話ばかりしている、風谷奈津だが、こういう時は妙に気にかけてくれる。
サバサバした印象を持たれやすい子なんだけど、意外と仲間想いっていうか優しいやつっていうか。
そんな彼女に何度も助けられてるのは間違いない。
今も今で、周りの女子は気がついている様子ではあったけど話しかけにくるほどではないようだった。
そんな時は決まって奈津が話をしに来てくれる。
なんだかんだ言って私も奈津が来てくれることを期待していた気がする。
まぁ、それは本人には言わないけどさ。
恥ずかしいから……
突っぷす頭を少しだけ上げチラリと奈津を見る。
いいから早よ言えとばかりにちょっとばかり睨んで来ていた。
だから私は、観念した風を装いながらポツリと呟く。
「サクマと七羽ちゃんに嫌われた……」
それを聞いた奈津は、「はぁ?」とか言いながら、私の前の席にドカリと腰を下ろして、ちょっとだけ見えていたおでこの端に思いっきりデコピンを弾いてきた。
「痛ったぁ! なんでデコピンすんのよ! ソフトボール部のデコピンなんてシャレになんないわよ! 頭の中身全部なくなっちゃったかと思ったわよ!」
「っは! くだらない事で悩んでるからその悩みごと、頭無くそうと思ったんだけど、案外頑丈ね。 だから大丈夫よ? あなたは元気!悩みもナシ!」
前言撤回するわ。
やっぱり優しいんじゃなくて、悩んでる人に銃を突きつけてくるような鬼畜な輩だった。
奈津は私の様子を見ると、「ほぅら、元気じゃん」
と言って、胸ポケットに入っていた、棒突きの飴を取り出して舐め出した。
「私に怒れるんなら大した悩みじゃないよ。 だからそんな事気にしないの。 佐倉はきっと日花のこと嫌いになってないよ。 あいつはそういうやつだろ? 日花が一番知ってるんじゃないの? あいつのそういうところ」
奈津の言った言葉は、ただの楽観した言葉かもしれない。
でも、何でかスッと私の中に広がっていった。
おでこの痛みが引いた頃には、何で悩んでいたのかというほどスッキリとした気分になっていた。
「おっ、いい感じの目になったね。 それがいつもの日花だよ。わかった?」
奈津の言葉にはサバサバとした冷たさがあるが、芯の部分はとても暖かい。
だからいつも、無意識に期待してしまっているし、救われる。
そんな時は、決まって私は照れ隠しのように短くこう答える。
「サンキュ……奈津」
そして奈津も決まって、返しの言葉は何も言わずに、いつもの棒突きの飴を差し出してにっこり笑ってくれる。
受け取った飴を豪快にかじり、口いっぱいに広がる甘さを感じながら、まずはと考える。
(そうだ、まずは2人に謝らなきゃ…… そしたらあの話をしてみよう)
胸に秘めていた想いと、ある事を伝えると決意して口の中の飴を飲み込んだ。
如何でしたでしょうか?
次回もお楽しみに!!




