2、学校行きます。 妹と!
二話目になります。
やっぱりちょっと後悔してます……
昨晩、俺はいつの間にか眠ってしまったらしい。
二人掛けのソファーは背もたれが後ろまで倒されてあり、ベット仕様に切り替えられていた。
なんて気が利く妹だ!
ご丁寧に毛布まで掛けてくれている。
昨日は幸せな日曜日。
今日は月曜だから学校に行かなくては。
そう思いソファーから起き上がろうとする俺の腕に違和感が。
俺が去年の誕生日にプレゼントした、サイズを間違った大き目のパジャマを身に着けた七羽が絡み付いて眠っていた。
なにこれ天使が間違って入ってきちゃったの?
あぁなんだ可愛い妹の七羽じゃないか。
びっくりしたぜ、俺は神にでもなったかと錯覚しちまったよ。
腕に感じる幸せ物質二つ、視界に入るすべての欲望を吸い込まんとパジャマから覗く谷間、そして天使と見まがうほど整った顔立ち。
全てがパーフェクト!!このまま時を忘れて見つめていたい!!
だがさっき俺が起き上がろうと少し身を起こしたことで七羽は起きかけてしまっていたらしい。
まだ眠そうな七羽の頭をゆっくりと撫でてやると気持ちよさそうに腕にすり寄って目を閉じたまま声を掛けてくる。
「兄さん、起きてたんですね。昨晩はあのまま寝てしまったようでしたから布団を掛けさせて頂いたんですが、少し肌寒いかと思って一緒に寝てみたんですけど……ダメでしたか?」
「いや、まったく問題ない! むしろ毎日頼みたいくらいだ!」
「もう! 兄さんは! ……たまに、ですよ?」
あぁ、朝からなんて刺激だ!
ふらりと傾く体を何とか腕をついて阻止する。
あぶねぇ~!
またブラックアウトしそうになったぜ。
恐るべし七羽様、たったの一言で俺を夢の中に誘うとは。
ふらつく俺を心配そうに見上げ、また倒れてしまわない様にと起き上がりまた腕に抱きついてくる。
あぁぁ、魅惑の双丘がぁ!
いろんな意味でダメになる!
ソファーから出るまでこのやりとりを数度繰り返し、早めに起きたにも係わらずようやく学校へ行こうと玄関先に立ったのはいつもの時間だった。
先に用意を済ませた七羽は、玄関についている鏡で軽く全身をチェックするとヨシッと頷き、こちらに向かって手招きをする。
「兄さん、早くしないと一人で行っちゃいますよ?」
「ちょっと待ってくれ、ネクタイが見つからないんだよ!」
「ネクタイなら居間の入り口のハンガーに掛かってましたよ?」
「おっ! マジか、サンキューな!」
二階の自室から急いで降りてきて居間に行くと、七羽の言うとおりの場所にネクタイがあった。
いつもならほぼつけずに行くのだが、今日はうるさい教師陣が総出で行う整容検査があるから付けないとまずいのだ。
いつもつけていないと言うのもあるのだが、七羽に急かされ時間がないのもありうまく巻けない。
七羽はまだですかとしきりに呼んでくる。
「すまん七羽、ネクタイがうまく巻けなくてさ、ちょっとだけ待っててくれるか?」
七羽からの返事はすぐには返ってこなかった。
まさか一人で行ってしまったのかと思い更に焦りながら巻くがやはりうまくいかない。
だが俺の焦りとは裏腹に七羽はきちんと玄関で待っていたらしく、やがて俺に向かって呼びかけてきた。
「ねぇ兄さん、今から一分以内にきちんとネクタイ巻いてきてくれたらご褒美あげますよ?」
「!! マジか、分かった!いま行く、すぐ行く、即効行く!」
「わかりました。それではスタートです!」
な、なにぃぃぃ!!七羽からのご褒美!!
絶対貰う! 意地でも貰う!
となれば話は簡単だ。
この忌々しい邪悪な蛇を今すぐ俺の首に巻き付け服従させればいいのだ。
俺は鏡に映る自身と、ぐちゃぐちゃになったネクタイを見て深呼吸して精神を統一する。
はぁぁぁ!俺ならやれる、いくぞ!!
絡まるネクタイを二秒で解き、形を整え、五秒で巻き終わる。
居間から玄関までの所要時間は三秒。
ここまでにかかった時間は七羽からの宣言開始から二十秒。
七羽はよくできましたとパチパチ手を打ち合わせて喜んでいた。
だが、俺タイムはここまでだった。
「兄さん。早く来てくれたのはすごかったのですが、ネクタイが右に曲がってますよ?」
「なにぃ!!そんな馬鹿なっ!」
玄関わきの姿見に移る首元のネクタイは確かに右に曲がっていた。
なんてことだ。俺に神まで下りて超高速でセットできたのに、まさか最後の最後で曲がっていることに気が付かなかったなんて!
と、いうことは。まさか……
「きちんと巻けてなかったので、お・あ・ず・け! ですね!」
人差し指をフリフリ左右に揺らしながら可愛く言ってくる七羽。
だが今の俺にはご褒美を貰えなかったことへの絶望感しかない。
この世の終わりだ。
そんな無様な姿を見ながら、膝から崩れ落ちた俺の肩に七羽が手をつき、ゆっくりと近づいてくる。
見上げると、すぐ近くに七羽の顔があった。
七羽はにっこりと笑うと、曲がったネクタイと同じ右の頬に軽くキスをした。
「はぇ?」
思わず変な声が漏れてしまった。
じゃなくてなにが起きた?頭の中がパニックと混乱とカオスと混沌が、ってどれも似たような意味じゃないか!
落ち着け、まずはいったん整理だ。
まず俺はネクタイが巻けなかった。
↓
しびれを切らした七羽がご褒美と言う名の人参で俺を急かす。
↓
神が降臨してネクタイを十秒で巻く。
↓
玄関にたどり着く。
↓
ネクタイ右に曲がってる。
↓
俺、落胆と共に死ぬ
↓
七羽様、降臨
↓
天使の口づけ ←イマココ
初めてイマココなんて使ったよ。
っておぉぉい!!
俺キスされたんだよな!そうだよな!
真意を確認する必要がある!
「七羽、お前いま……」
「あんまり大きな声で言わないで下さい! 私だって、あの、恥ずかしいん……ですからね」
目の前で真っ赤顔を学生鞄で隠しながらそれ以上言わないでと訴えてくる七羽。
うん、そうだ。
俺はここで死んでもいい。
現実から離れていく精神を七羽がまた繋ぎとめる。
「あの、本当は、ちゃんとできたら、ココに……してもよかったんですよ?」
そう言って人差し指で自信の唇に触れて見せる。
クソッ!俺のバカ!
もう少し詰めが甘くなければ今頃は七羽と!!
うん、やっぱり死ねない。
その唇をいつか俺が奪うまで死ねるか!
満ち溢れるやる気と共に、ちょっと残念だったなと思いながら二人で玄関をでた。
**********
妹の七羽とは歳が一つ違うだけで同じ学校に通っている。
言わば学校では先輩後輩と言う名の肩書が一つ増えることになる。
俺に取っては非常にいらない肩書きの一つなのだが。
どうせなら同じクラスでクラスメイトって言う肩書が欲しかったところだ。
だがしかし、この国では歳が違うとクラスどころか階まで違うのだ。
本当に理不尽極まりない。
学校への道中は基本的に兄妹ということで適切な距離を保っている。
なぁに、妹の七羽が左腕に絡み付いてくるくらいの、兄妹としては適切な距離さ。
普通だろ?世間一般の兄妹はみんなそうさ。そう、そんなもんさ!
他愛もない会話で互いに笑い合い、兄さん髪にゴミがついてますよとか言われながら取ってもらったりするくらい普通さ。
だがそんな俺の一時の幸せの邪魔をしてくる輩はどこにでも存在しているらしく、
「朝からラブラブだねぇ。 私も混ぜてっ!」
「勝手に混ざるな! 引っ付くな、華渕! どっかいけ!」
「ヒドイ! なんで七羽ちゃんは良いのに私はダメなの!」
「当たり前だろ! 可愛い妹と、辛く苦しい学校に行くまでお話してたんだ。邪魔すんな!」
「うえぇぇん、七羽ちゃ~ん、なんとかいってよぉ~」
七羽は困ったような表情を浮かべ取り敢えずはと華渕を落ち着かせる。
「日花さん、兄さんは、ああは言ってますけど本当は優しいんですよ? だから邪魔だとか言っててもちゃんと相手をしてくれますから大丈夫です」
「七羽ちゃん!! っという訳だから右腕は頂いた!」
っと七羽のフォローを手にした華渕は俺の右腕に絡み付いてくる。
絡み付かれるのは悪くない。
なぜか。
こいつは挙動こそ子供っぽいが見た目は大人顔負け。
すらっと伸びた脚に長さを強調する様に短くした制服のスカート、大きめのサイズを頼んだと言っておきながら、その制服の許容量を上回るほど大きく実った二つの果実、たぶん誰が見ても綺麗だと言うであろう切れ目の目鼻立ち、そして動きやすいようにと短めに切りそろえられたボブヘアー。
これだけ言えば誰でもわかるだろう。
こいつは見た目はすごい美人なのだ。
だから抱きつかれるのもやぶさかではない。
でも、でもだ。
今は左の腕に七羽がくっついている状況。
うっかり顔も緩められない。
ちらりと左の七羽に視線を落とすとバッチリ目があった。
にっこりほほ笑むと小声で、
「私は大丈夫です。だって兄さんは私をスキなんですからね!」
っと言ってきた。
くぅ~!なんて妹だ!今すぐ抱きしめたい!
だがここは家の外。
帰ってからのお楽しみにしようと心に誓い三人揃って学校へ向かった。
如何でしたでしょうか?
次回もお楽しみに!!




