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19、うつしうつされ…

 食べたシチューが好評だったことと、七羽が可愛すぎることにホクホクしながら布団に入り、そして今日。

 見事に七羽からの風邪を貰い、熱を出して寝込む俺。


 そりゃそうだよね。

 風邪ひいてる相手に何度もキスしたんだから。

 自業自得とはまさにこのこと。

 体調さえよければ、昨日できなかったデートにでも誘おうと思ってたのに。

 脇に挟んでいた体温計がピピピっと電子音を発し、緩慢な動きでそれを引き抜き七羽に手渡す。


「38°……今日は日曜ですしいつもの診療所もお休みですからね。取り敢えず今日は一日ゆっくりしてましょうね 」


「はぃ……ごめんな七羽、病み上がりで俺の看病させて。休んでてもいいんだからな」


「昨日の事もありますし、疲れた時はそうさせてもらいます。でもまだ大丈夫なのでおうちの事やってきちゃいますね」


「ありがとう。俺は早く治る様に寝てる事にするよ」


「うん。何かあったらすぐに呼んで下さいね」


 そう言うと、七羽はパタパタと階段を下りて行ってしまった。

 七羽の前では多少強がっていたのだが、一人になると先ほどより更に体が怠くなってきた。

 起こしていた体をゆっくりと倒し、厚手の毛布をたぐり寄せる。


 熱はあるのだがとにかく寒い。

 なんで体と頭は熱いのに寒気がするんだか……

 毛布の端を握り縮こめている体の下に押し込んで気密性を上げるのだがどうしても寒い。

 あぁ、寒い……



 **********


 昨日の風邪もだいぶ良くなったかと思ったら今度は兄さんが熱を出して寝込んでしまった。

 たぶん、昨日のキス(あれ)のせいだと思う。

 あんなに何度もしていたら確かにうつるはずですよ。

 まったく! 兄さんには少し自重してもらいたいものです。


 えっ?

 私は、その……兄さんがしたいって言うから仕方なく……と言うか……えっと……

 ………

 ……

 もうっ!ごめんなさいぃ!私もしたかったんですっ!

 兄さんだけが悪いんじゃないんですっ!


 はぁ、はぁ……


 ごほんっ!!

 頭の中でちょっと暴走気味でしたけど、とにかく、兄さんが風邪をひいてしまった原因は私にもあるのです。

 まぁそうだから看病している訳ではないんですけどね。

 学校でなかなか一緒に入れない分、休みの日くらいは少しでも多く兄さんと一緒に居たいんです。


 あっ、考えてるといつの間にか手が止まってました。

 明日着ていく制服のワイシャツにアイロンを手早く掛けると、それをハンガーに掛ける。


「ヨシッと。次は……」


 と言いながら台所まで来ると昨日余ったであろう野菜と卵を出す。


「兄さんのお昼ご飯作らないとっ!」


 たぶん兄さんも昨日の私みたいに食欲があまりないでしょうから野菜たっぷりのお粥にしましょう。

 出来るだけ小さくして煮込めばたぶん栄養も取れるはずです。


 手早く刻み、レンジで加熱して柔らかくした野菜をご飯と一緒に煮込む。

 最後に、食べる前に玉子で閉じれば出来上がり。


 昼ごはんはお粥にしたので作るのに時間もそんなにかからなかった。

 ついでに晩御飯も作ってしまおう。

 昨日兄さんが作ってくれたシチューを少しだけ加工することにします。


 ケチャップと大きめに切ったウインナーを入れたケチャップライスを作って、それを耐熱皿に敷き詰め、その上に余ったシチューをかける。チーズをのせて、パセリを少しだけかければOK。

 あとは、食べる前にトースターで焼き上げれば「簡単シチュードリア」の完成です!


 と、これも兄さんのシチューのおかげで手早く出来てしまいました。

 お買い物もしなくてはいけないんですけど、兄さん一人置いて行くのも心配です。


 あっ!

 だったら明日学校の帰りに一緒にスーパーまでお買い物デートすればいいんですよ!

 うん、そうしましょう!

 そうと決まれば、もう今日はある程度やることも終わったし、兄さんのお部屋にいって看病しないとですねっ!


 桶に水とタオルを用意して、水がこぼれない様に少しだけ速足で兄さんの部屋に向かう。

 寝ているかもしれないので、ゆっくりと扉を開けると、先ほどまで居た兄さんがどこにも居ません。


「えっ、兄さん? ……兄さん!!」


 桶を置き、ベットに駆け寄り布団をめくると小さく縮こまりカタカタと震える兄さんが居ました。

 居たことに安堵を覚えたのだが、兄さんはうわ言のように寒い寒いと言って肩を震わせています。


「兄さん! 寒いのですか? 待っていて下さい、今もっと掛けるものを持ってきますからね」


 自室まで行き、書け布団二枚をもってきてかけるがいまだに小さくなったままだ。そう言えばと思い、冬用に買っておいたホッカイロを物置から引っ張りだし一枚を開るとパジャマの上から兄さんの背中に貼る。

 風邪の時は肩甲骨あたりを温めてあげるといいと聞いたような気がする。


 少し様子を見ていたのだが、やはり一向に寒気が抜けている感じがしない。

 他に出来ることはないのか。


「そうだ、湯たんぽがあります!」


 また物置まで走っていくと冷え性の母が使っていた湯たんぽを探し出してくる。

 すぐにお湯を沸かして中に入れ、兄さんの布団の中に入れる。

 すると、じんわりと広がる温かさを感じたのか湯たんぽを抱きかかえてしまいました。

 でも、まだ寒いのか体の震えは止まっていません。


「後はどうしたら…………そうだ!」


 私は、横になって震える兄さんの顔をそっと一撫でする。


「兄さん、今温めてあげますからね」


 そう言って兄さんの布団に入る。

 背中から兄さんをぎゅっと抱きしめた。自分の熱が少しでも早く伝わる様に。

 それから10分くらいした頃だろうか。

 兄さんの震えは次第に収まっていき、規則正しい寝息がするようになっていた。


 温かさが伝わったのか、それとも抱きしめられたことに安心したのかわかりませんが、震えがなくなったようで本当に良かったです。

 落ち着きを見せた兄さんの背中にぴたりと耳を当てると、トクントクンと心臓の音が聞こえてきます。

 私はこの音が大好きです。


 兄さんを一番近くに感じる瞬間。

 心地よくて、温かくて、力強くて……でもちょっとだけ子供っぽくて。

 そんな兄さんがこんなに近くにいる。

 なんて幸せなんだろう。


 こんなとき、私はいつも思います。

 やっぱり私は兄さんの事が……


「大好きです……」



 **********


「あっつ……」


 熱さによる寝苦しさに目を覚ます。

 いつの間にか布団が何枚も被せられてるし、背中の真ん中もカイロが貼り付けられているのかジンジンするし、腕の中にはなぜか湯たんぽまで抱えている。


「そりゃ熱いわけだ……」


 布団を片手で押し上げ、起き上がろうとすると背中から回された腕に阻まれる。

 ゆっくりと絡み付く腕を解き、寝返りをうつと静かに寝息を立てている七羽がいた。


 余程疲れたのだろう。

 俺が寝返りをうっても眠り続けている。

 体調が悪いわけではなさそうなので、このまま少しだけ寝かせておいてやろう。


 苦労掛けっぱなしだな。

 たぶん七羽の事だから、昼飯も晩飯もすでに用意が出来ていることだろう。

 なら、俺もまだ体が怠いからもう少しだけ一緒に寝よう。


 重なる布団から適当に一枚取り、二人で羽織ってまた少しだけ眠りにつく。

 お互いのぬくもりを感じながら。


 **********


 気が付いた時はちょうど昼を過ぎたあたりだった。

 朝もそんなに食べていないせいか昼は結構沢山食べたと思う。

 なにせ久しぶりの七羽メシだったし。

 あまりに勢いよくがっつくものだから七羽が心配したほどだ。


 それから俺はまた夜まで眠りまくった。

 こんなに寝たのはいつ振りだろう。

 できればもう体調は崩したくないな。

 七羽には心配かけるし、大変な思いまでさせちゃうし。

 なにより七羽とゆっくり過ごせない。

 そんなゆっくり過ごせなかった休日も終わり、明日からまた登校だ。


「おやすみ、七羽」


「おやすみなさい、兄さん」


 互いにお休みを言い合い、今日は別々の部屋に寝る。

 昨日、俺が甘え過ぎて風邪がうつってしまったのでその教訓だ。

 本当は一緒に寝たいんだけど仕方ない。


 ベットに横になりさっさと眠ろうと目を閉じるとすぐに睡魔はやってきて、あれだけ眠ったのにも関わらずあっという間に夢の中に落ちていった。



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