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15、正直に。自分に…妹に…

 七羽が出て行ってから3時間ほどが過ぎていた。

 こうしている間にも七羽はどこか別の場所に移動しているかもしれない。

 出来る限り自宅にいるうちに捕まえたいと思っていたが、時間的に絶望的だろう。

 自宅に着くころにはたぶん昼を回ってしまうのは目に見えているが、ここで目的地を変えても行先が分からないからどうしようもない。

 ならばやはり家に向かうのがいいだろうと考えて移動中だ。

 もちろん車で送ってもらっている。


 笹塚さんもリムジンで送るには適さないと考え、自身の所有しているファミリー向けワンボックスカーを出してくれたのだ。

 おおよそ笹塚さんには似つかない車かと思ったが、メイド達の息抜きも踏まえてたまにどこかへ連れて行ってやっているという理由を聞いてみればさもありなんと納得してしまった。

 本当に、いろんな人にしっかりと目を向けられる素晴らしい人だと心底そう思った。


 自宅へ行くまでの車中での会話は無く、というか俺がそもそも話せるような状態ではなかった。

 七羽にあったらまずなんて言おう……

 ごめん、か? いやいきなり謝るのもなんか違う気がする。

 なら、オっス!とか?って馬鹿か俺は!真面目に考えろ!

 ならなんだ……なんて言えば……


 無言のつもりだったのだが、うぐうぐと一人で唸っていたらしい。

 運転席に座る笹塚さんはミラー越しにこちらに視線を向け口を開く。


「朔真様、先ほど屋敷を出る前にご自身がなんとおっしゃたか覚えておられますか?」

「それはもちろん覚えています」

「そうでございますか。それは良かった」


 にっこりと優しくほほ笑む笹塚さんの言わんとする事が読めない。

 俺は納得がいかず首を傾げながら口を開こうとすると、それに先回りする様に笹塚さんは質問を飛ばしてくる。


「では朔真様、その言葉を今ここでもう一度言って頂けませんか?」

「えっ、なぜですか?」


 ただ黙って優しく微笑んでいるばかりで、俺の質問返しには答えない。

 あの時はあの場所で言ったからよかったものの、今この密室空間でしかも同性の老紳士に向かって言うのはいくらなんでも恥ずかしいもので……

 でも笹塚さんは変わらずニコニコした顔で運転している訳で……

 なら、今は笹塚さんの言う通りに言葉に出してみるしか選択肢はない。

 すこしの深呼吸をしてあの時の言葉を口にする。


「俺は、七羽を愛しています」


 笹塚さんは先ほどと変わらない笑顔で俺にちらりと視線を向ける。


「ありがとうございます朔真様。私は今、とても幸せで御座います」

「えと、その、どういたしましてと言えばいいんですかね」

「はい。他人の私がこれほどの幸福感で満たされているのです。そのお言葉を向けられる本当のお相手の方はもっと幸せになれるのではありませんか?」

「えっ?」

「いまのお言葉、お気持ちをそのままお伝えになればいいのではないですか? それだけで通じるものがあるはずです。 言い訳や謝罪はあとでゆっくりすればいいではないですか。朔真様……どうかご自身に、七羽様に正直になってくださいませ。たとえ全てが伝わらずとも大切な部分は必ず伝わります」


 笹塚さんの言葉に頭を殴られるような衝撃を受けた。

 確かにそうだった。

 俺は七羽に怒られないかとビクビクして大事なことを隠し、後で会った時にでも説明すればいいのだと思っていた。

 実際、昨晩はそうして日花との事を隠した。

 隠して隠し切れなくて、伝え損ねて、追及されて、一方的に……拒絶した。


 あの時、七羽はどう思っていただろう。

 俺が何かを隠していることはわかっていたはずだ。

 でも言えなかった。

 そして俺がいろいろ隠すごとに気になってしまって聞いてみたら拒絶された。

 そんなことがあったら……俺なら、耐えられない。


 でも七羽は、俺との約束を覚えていた。

 あんな簡単に言った軽い約束でさえ、大事だと言って待っている。

 なら、俺がすべきことは一つしかない。

 大事な人にこの思いを伝えるだけだ。

 そう思うと先ほどの悩みが嘘のように、早く会いたいと言う気持ちがわき出てきた。

 俺の様子を一瞥して満足そうに頷く笹塚さんと目が合い二人で少しだけ笑いあった。


「笹塚さん、本当にありがとうございます。お蔭で何を伝えればいいかが俺なりにわかりました」

「それは良かったです。やはり朔真様は良いお人です。うちの守様を是非とも貰って頂きたかったのですがね……それだけが残念でなりません」

「いやいや! 俺なんてそんなに出来た人じゃないですよ。 だからこうして好きな人を悲しませてるんですから……それにこの先これからもたぶん悲しませることは沢山あるかもしれません」

「そうでしょう。ですがそれも朔真様の良い所です。それを忘れぬようにしていければ問題などないでしょう」

「はい……本当にありがとうございます」

「そのお言葉、ありがたく頂戴致します。それでは急ぎましょう。七羽様がお待ちですよ」


 そう言って笹塚さんは幾分か強めにアクセルを踏み込みスピードを上げた。


 **********



 車に揺られる事数10分。

 ようやく自宅にたどり着くことが出来た。

 車から降りようとする俺に笹塚さんは、


「朔真様、七羽様がおられなかった時はすぐにまたこちらにお戻りください。その時はどこへでもお連れ致します」

「笹塚さん……ありがとうございます! いってきます!」

「はい、ご武運を祈っております」


 そう言って俺を送り出してくれたのだった。



「ただいま! 七羽、七羽っ! いるか!」


 玄関を開け名前を呼ぶが返事はない。

 やはり家には居なかった様だ。

 そう思い早々に切り上げようとした時、ふと七羽の靴が目に入った。

 いつもならきちんと揃えられているはずの靴が脱ぎ散らかしたように、右足側はひっくり返り左足側は見当たらなあった。

 もしかしたら自室にいるのかもしれない。

 そう思って俺は急いで靴を脱ぎどたどたと二階の七羽の部屋に向かう。

 七羽の部屋の前まで行くと部屋の扉を荒くノックしながら呼ぶ。


「七羽!いるのか?」


 中からは声も物音も一切聞こえない。

 居ないなら居ない、居るなら儲けもんだ。

 そう思って俺は一切の躊躇もなく七羽の部屋の扉を開ける。

 そるとそこには、ベットに突っ伏す様に七羽が眠っていた。


「なんだ……寝てたのか。朝も早かったみたいだし疲れたのか」


 少し荒い寝息を立てて眠る七羽をベットに寝かそうと肌に触れた時だった。


「熱い……お前、熱あるじゃないか!」


 慌てて抱きかかえるとベットに横にする。

 体温計を取りに一階まで走り、すぐさまそれを持ってまた二階の七羽の部屋まで戻る。

 余程体が熱いのだろう、額から汗が止めどなく流れ出てくる。

 まずは体温を測ろうと上着を脱がそうとしたのだが、汗で上気した顔や荒い息使いをして眠っている妹の姿にドキリとしてしまった。


(俺は馬鹿か!七羽がこんなに苦しそうにしてるのに何考えてんだよ!)


 頭をブンブン振り回し上着を脱がす。

 下にはボタン付きのブラウスを着ていたので、上から順に外していく。

 首元の一つを外すと、流れた汗が露わになった鎖骨を通り首の後ろへと流れていった。

 その汗の流れをじっと見ていた俺は無意識のうちにごくりと唾を呑みこむ。

 そして次は2つめのボタン。

 体温計を脇に差し込むにはもう一つを外さなくてはいけないが、それを外すといままで何度か見えたことはあるがまじまじとは見たことが無い胸元を不可抗力とはいえ見てしまう事になる。

 再度頭を振り己の中の不純物を排除しようとする。


(だから考えるな! 考えたら負けだ! 感じろ!……いや、この場合感じてしまったらおしまいじゃないか? ってコラ!いい加減にしろ!なにも考えるな、何も……まずは深呼吸だ!)


 スーハ―スーハ―と二度三度深く呼吸をすると、目を見開き七羽の第二ボタンに手を伸ばし一気に外して、邪魔なブラウスを左右に広げ、理性の保っているうちに体温計を脇に差し込む。

 体温計が倒れない様に支えている手には図らずも下着越しにではあるが七羽の胸が手に当てっているワケで、目の前には豊満とは言い難いが形が良く、張りのある胸と魅惑の谷間があるワケで……


(頼むぅ!早く鳴ってくれ体温計! じゃないと俺は病人の妹相手に恐ろしいことをしてしまいそうになる!)


 悶々と考える頭を空いた手でガシガシとかきむしりながら悶える。

 そして未だ鳴らない体温計に呪詛の念を送る事で何とか理性を保とうと視線をそちらに向けると、うっすらと七羽のまぶたが開いていることに気が付く。


「にい……さん? どうして……」


 か細い声で問う七羽の言葉を聞いて俺は顔を寄せて詰め寄る。


「七羽! 大丈夫か?体は?痛い所はあるか?」

「だいじょうぶ、だよ。でもちょっと体が、だるいです」


 七羽のその言葉に安堵すると同時に体温計はようやくピコピコと音を慣らしてきた。

 急いで体温計を引き抜き、熱を確認する。


「38度5分……結構高いな。立てそうか?今からでも医者に診てもらおう」

「そう、したいんですけど、脚に力が入らなくて……」

「じゃあ、こうすればいいだろ」

「えっ?……きゃっ!」


 七羽の膝と頭に腕を滑り込ませるとそのままお姫様抱っこで歩き出す。

 七羽は恥ずかしいから下ろしてくださいと、まるで力の入っていない拳でペチペチと俺の胸板を叩いていたが、階段を降り切る頃には諦めたのか顔を赤くして俺にしがみついていた。


 俺はそのまま玄関を出ると、外で待つ笹塚さんに事情を説明して近くの診療所まで送ってもらう様にたのんだ。

 笹塚さんはすぐにお連れしますと言い、後部ドアを開けると俺達を乗せてくれた。

 一方、七羽はと言うと笹塚さんまで居るとは思っていなかったのか更なる恥ずかしさに熱とは違った熱さで顔を隠しながらウンウンと唸っていたが、七羽も少し嬉しそうな表情をしている様な気がした。


 その時、その様子をちらりとミラー越しに見た笹塚は仲睦まじい二人の姿に聞こえないような小さな声で、よかったですねと呟きこの日一番であろう笑顔で運転を始めた。

如何でしたでしょうか?

あまりお待たせしない様にしたいのですが、結果的に更新が遅くなると言う……

すみません……


次も何とか頑張りますのでよろしくお願いします!

次回もお楽しみに!!

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