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11、たぶん、きっと、確実に、今日はいろんな意味で帰れそうにない。

 日本人にとって欠かせないものがある。

 俺が思うに、風呂と醤油と米だ。

 この3つは国宝とも言われる三種の神器よりも大事にすべきだと思う。


 何故いきなりこんな話をするのかって?

 それはもちろん決まっているだろう。

 今現在は夜の9時、帰る為のバスも無いし、電車に乗ろうにも駅までが遠い。

 家まで送ろうかと言われたが、あのとんでもリムジンに乗って家まで送ってもらうなんてもってのほかだ。

 というか、狭い路地とか通れないだろあれじゃ。


 そういう訳でお泊りが決定して、こうして国宝級に大事な風呂に入っているというわけだ。

 七羽は初めは悪いからと断っていたのだが、送っていくとまで言われるとさすがにそこまではできないと言って、しぶしぶ妥協した感じになった。


 銀田と華渕はといえば、


「豪邸に泊まれるなんてサイコー!ありがとうマコトちゃん!」

「日花ちゃんとお泊り……日花ちゃんとお泊り……でへ、でへへ」


 と言った具合で泊まる気満々だった。

 そして俺はと言うと、帰りたくて仕方がない症候群を発症。

 広々とした露天風呂風の湯船の端っこに陣取って体育座りでブクブク言わせながらふてくされていた。


「考えてもみろよ、俺さっき襲われそうになんたんだぜ?」

「え? なに? 幸せトークならいらないんだけど」

「これが幸せならお前程度に愚痴ってすらいないわ」


 共に入る銀田に俺の不満をぶつけたが、更にイライラする答えが返ってきた。

 だからこいつは華渕に振り向いてもらえんのだ。


「でもさ、さっきの話がマジだったらお前どうすんの?」

「どうもこうもないだろ。俺は七羽が好きで、あいつも七羽が好き。でも近くに寄れば俺の事を強制的に好きになる。ならば近寄らずだ!」

「バカかこのシスコンサクマ。七羽ちゃんの事が好きなら必然的にその傍に寄ってくるだろ。そしたら当然近くにいるお前にロックオンしてくるっていう循環が生まれてくるだろ?」

「た、確かにそうだ。馬鹿だと思ってた奴に言われるといろんな意味で危機感を覚えるな」

「馬鹿とかいうな。でも実際どうすんだよマジで。このままじゃカオスだぞ」


 分かってるんだけどさ。

 でも今はどうもこうも距離を置く以外は無いんだよなぁ。

 銀田の言ってることはよくわかる。

 七羽に吸い寄せられるのは何も俺だけじゃない。そして吸い寄せられてきた別の虫マモルちゃんは近くに別の餌おれがいると見境なく襲ってくる。

 そしてその光景を七羽に目の前で見せることになる。


「カオスどころじゃねぇ! 熱湯も温いくらいの地獄だ! 恐ろしすぎる」

「そうだろう、そうだろう。だが俺に一ついい考えがある」

「おおおおぅ! 銀田神様ッ! どうかこのわたくしに知恵を授けて下され」


 銀田に一も二もなく土下座をかます。

 だってそうだろ、地獄に落ちる前に活路を見いだせるかもしれないんだから。

 銀田は満足気に頷き、お前に神の御言葉を授けようと前置きをする。


「ではよいか?心して聞くがよい」

「御託はいいから早く言えよ!!」

「御託とはひでぇな……まぁいいけどさ。いいか、ぶっちゃけお前が妹を諦めて御堂のお嬢さんのモノになっちまえばそれで万事解決じゃね?」

「んなこたぁ最初っから分かってるわ!!」 ズビシッ

「んぎゃぁぁぁ! 目がぁぁぁ、メガぁぁぁ!!」


 銀田の戯言に耳を貸した俺が馬鹿だったのだ。

 そう簡単に七羽を諦められるかっての!!

 ありがたいお言葉とやらのお礼に目つぶしをしてやった。

 この世の汚いモノを見なくて済むようになったのだから感謝して欲しいくらいだ。


 さて、湯にもだいぶ浸かったしそろそろ出ようか。

 そう思って手拭いで軽く水滴を拭取っていると、目の前を高速で何かが通過していった。

 気のせいかと思い、物体の後を視線で追っていくとそこには銀田が白目をむいて倒れていた。


「は?一体何が……」

「やった! ようやく当たったわっ!」

「なんだ華渕がやったのか。なら銀田も本望だろう。じゃ、俺は先に……って、おぉぉぉぉい! ここ男湯だぞ! 女湯あっち! 垣根の向こう! OK 分かったろ? なら行け、それ行け、今すぐ行け!!」

「えっ? なんで? あたしはサクマと入りにきたんだから居てもいいでしょ? それにこのお風呂に入る男なんて客人以外に誰も居ないってマモルちゃんが言ってたし」

「いやいや、まてまて! そこに銀田がいる……あれ? あいつはどこにって、ぅおぉぉぉぉい! 何してんの!」


 華渕は面積の小さいタオルで前を隠しながら、気絶した銀田の下まで歩いていくとその足を掴んで向こう側の垣根の外に投げ飛ばしていた。

 向こう側と言ってもそっちは女風呂の方ではなく、正真正銘の天を仰げるお外の方だった。

 今頃銀田は綺麗になった体に土と草が大量に着いた状態になっているだろう。

 不憫過ぎる、すまん銀田……俺はお前を救えなかった。


 そんな銀田の最後を見届けた華渕は、ヨシッと言ってぐっと拳を握る。

 で、満面の笑みで俺の下までずんずん歩いてくるのだが、その姿はそれはもう破壊力抜群で逃げようにもどうしても視線がロックオンしていてはがせないし、足は地面に張り付いてしまって脱衣所に向けられない。


 考えてみて欲しい、濡れた手拭い程度のタオルで、前の大事な部分のみをピンポイントで隠した、メロンもこの程度かと思えるほどのモノを盛大に揺らしながら自分に向かって歩いてくる、綺麗めの少女がいたらどうする?

 襲うまでは行かなくとも凝視は確実にするだろう?そうだろう?

 だから俺の今の反応は、健全な男子として間違いではないのである。

 そう、むしろ自身を保全するための正当防衛なのである。


 あぁすまん。

 言ってて訳が分からなくなってきたが、とにかく逃げられないのだ。

 動けない俺の目の前にあっという間に詰め寄ってきた華渕は、いつもの朝の様に俺の腕にギュッと絡み付き、


「さっ、体が冷えちゃったでしょ? もう一回入ろ?」


 と言って強引に湯船に引き戻してきた。

 俺にというか、俺の脳と体には魅惑の感触による催眠が掛かっている為に拒否が出来ない。

 というかまともに動くこともできずにいた。

 湯船に入れられその腕にいまだに引っ付いている華渕。

 いつもは下から見上げる感じになっているが、今は座って浸かっているせいか自然と見下ろす感じなった。


 風呂の熱に暖められほんのり色づく肌。

 元から綺麗だった髪は濡れたことで一層艶を増している。

 湯船からのびる背中のラインを際立たせるように見えるうなじ。

 まじまじと見たことなかったけど結構長いまつ毛。


「華渕って、こんなに可愛かったっけ……」

「……えっ?」


 普段見ない姿をみてしまったせいなのか、それとものぼせきった頭が混乱しているせいなのか、俺は思わず口に出してしまていた。

 俺の言葉に一瞬キョトンとするもすぐに顔を真っ赤にして見つめ返してくる華渕。

 華渕は顔を少しだけ俺に近づける。

 その仕草がいちいち色っぽくて今までなんにも考えもしなかった華渕が今は異常なほど可愛く見えてしまってドキッとしてしまう。

 風呂の蒸気をたっぷり含んだ柔らかそうな唇がゆっくりと俺の名前を呼ぶ。


「ねぇ、サクマ……」

「な、なんですか? 華渕さん!」


 変に声が上ずってしまう。

 だが華渕はそんな俺のおかしなところには一切触れずに真剣なと言うか艶っぽいというか、そういった視線を向けてくる。


「サクマに貰ってほしいものがあるんだけど……」

「な……なにを?」

「えっと……その、私……」


 ん?今なんと言いましたか?

 気のせいか?気のせいだよな?

 ならもう一度気を取り直して、


「いま、ワタシって聞こえたんですけど気のせいですよね? タワシの間違いじゃないですかな? ほらソコに掃除用のやつがあるだろ?あれを君にあげよう。 それが嫌なら100均で買ってこようじゃないか」

「違うっ!真面目に聞いてよ、貰ってほしいのは私! ずっとずっとずーっと前からサクマの事が好きだったの!!」

「はぇ? い、いや待て嘘つくなよ。いままでそんな素振全く見せて来なかったじゃないか! まさかお前まで御堂家の呪いに掛かったのかよ!」

「もう! 違う、違う、違うってば! 小さいころからずっとサクマだけを見てきたの!それにアピールはずっとしてきたんだよ。毎朝会えるように登校途中で待ってたり、教室では一緒に居たくて席に行ったり、今まで恥ずかしくて一度も渡せなかったけどお弁当だってサクマの為に作ってきてたんだよ!」

「そんなんわかんねぇだろ。見ても貰ってもないんだから」

「それはそれでもういいの。お願い教えて……サクマは私のこと好き?」


 そりゃまぁ好きか嫌いかで言ったら好きなんだけど、なんかこう……しっくりこない。

 恋の好きでも、愛の好きでもない。

 今はそんな感じがする。


 自分の想いのありったけをぶつけた華渕は、俺の顔を心配そうに見つめてくる。

 俺はなんて言っていいのかわからなかった。

 華渕に感じている俺の想いをそのまま伝えていいものか、それを言ってこいつを傷つけてしまうのではないか、このまま仲の良い幼馴染ではいられなくなるのではないか。

 揺れるお湯の水面をじっと見つめながら、そればかりを気にしていた。

 そんな俺のうだうだと悩む姿を見ていた華渕は、急にフッと笑い笑顔を見せた。


「サクマはさ、優しすぎるんだよ。今もどうやって断ろうか悩んでるんでしょ?」

「華渕……お前……」

「サクマの考えてることなんかとっくにわかってるんだよ? 私の事を特別に見てくれない事とか、銀田をすごく大切な友達だと思ってるところとか……。あと、七羽ちゃんを……妹を、女性として好きだってこととか」

「なんで、それを……」

「当たり前でしょ? 七羽ちゃんと居るときのサクマの顔って、私がサクマを見てるときと同じだったもん」

「マジか…うまく隠してたと思ったんだけどな。ってまさか!学校中にばれてるんじゃ……」

「たぶんそれは無いかな。周りから話も聞かないし、たぶんとっても仲の良い兄妹くらいにしか見られてないと思うよ」


 そうか……

 それはマジでよかった。

 俺が後ろ指さされるのは構わないが、七羽がそうなるのは断じてゴメンだ。

 そうなるくらいなら俺は、背に腹切っていろいろ決断しなければならない所だった。


 ホッとして安心はしたものの、まだ俺は華渕に返事をしていない事に気が付く。

 華渕はもうわかってるからいいよと小さく言ってはいるが、ここはしっかりと言っておくところだろう。

 俺はもう一度華渕に向き直りしっかりと目を見て答える。


「すまん華渕。俺はお前を貰ってやることはできない。好きな人がいるんだ……わかってるとは思うけどな」

「……うん。もう全部知ってるよ」

「だからさ、今まで通り・・・・・ってわけにはいかないかな?難しいとは思うけどさ」

「えっ?」

「だから、今まで通り・・・・・の付き合いでいたいんだけど」


 その言葉を聞いた華渕はなぜかものすごい笑顔で小躍りしている。

 というかガッツポーズまでしている。

 なんでだ?俺は確かに断ったはずなんだが……

 俺の困惑に気が付くはずもなく、華渕は、「再確認するけど、ホントに今まで通りでいいの?」と聞いてくる。


「ん? そりゃ俺からお願いしてるくらいだから華渕がいいならそうして欲しいんだけど」

「やったぁ!! じゃあ今まで通り・・・・・サクマを好きでいてもいいんだね!私はてっきり迷惑だからやめてくれって言われるかと思ってたのに!」

「え? いや、待て! なんでそういう事になるん、」

「うん、そうだね!じゃあこれからは公然で好き好き言っても問題ないよね! こうしちゃいられないわ。これから来週のサクマのお弁当の中身を考えなくちゃいけないから先に出るね! それじゃあサクマ、また明日ね! 大好きだよ!!」

「あ、あの、俺の話を…聞いて欲しいんだけど……」


 華渕はゆっさゆっさとけしからんものを揺らして出て行ってしまった。

 と思ったらまた戻ってきた。


「言い忘れたんだけど、これからは私の事、日花にっかって呼んでね! いい?」

「いきなり呼べって言われても、慣れってもんが、」

「いい?」

「……はい」

「わかればよろしい! それじゃあまた明日ね、サクマ!!」


 それだけ言い残して華渕、もとい日花は嵐の様に去って行った。

 取り残された俺は湯船から出て、ほてりきった体の水滴をタオルでふき切ると脱衣所に向かう。


「なんなんだ今日は……」


 そんな一言が出て来るくらい今日はなんだか無駄に疲れた気がする。

休みを挟むと更新が出来ませんと言うい訳をまた今日もしてしまう……

ごめんなさい。


こんな感じですがご意見ご感想お待ちしております。

次回もお楽しみに!!

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