1、俺は好きだ、妹が!
後悔はしていないです……
ただ、リアル妹に読まれでもしたら発狂します……
マジで……
俺は妹が大好きだ。
いや、むしろ愛していると言ってもいい。
どれくらいかって?ふっ……愚問だな。
仮にだ、あくまで仮に、妹が朝起きると台所の隅でよく見るおぞましき″G"になっていたとしよう。
そんな変わり果ててしまった妹を俺は、優しく手のひらに乗せてキスをするんだ。
どんな姿になってもお前だけは愛し続けられる。
そう言って"G"になった妹に付着した病原菌で死ぬ。
なんて素晴らしいんだ!!
そう、妹は正義だ!!
この可愛さの前ではすべてが無意味だ。
そして幸せなことに、俺は妹に膝枕をしてもらっている。
シルクかと見まがうほどの白さ、細くスラリとしているが未知の柔らかさを持つ脚に俺の頭が乗っているのだ。
ここは天国か!それとも俺を幸せ死にさせるための地獄なのか!
だが今はどうでもいい。この誘惑に負けて思いっきり頬ずりしたい。
若干息を荒くしながらプルプルしていると耳元に天使の声が聞こえてくる。
「兄さん、あの、どうかしましたか?」
「ああ、いやなんでもない」
「そうですか。あの、それと、兄さん」
「なんだ?」
「その、あの、あまり内モモをあまりフニフニされるとその、くすぐったくて……」
「ご、ごめん! あのその、つい気持ち良くてだな」
俺の可愛い妹は、ちょっと怒ったように「もぅ!」とは言っているが、俺が頭を退けたのが残念だったのか少しだけシュンとして小さく、「バカ」と呟いた。
可愛すぎだろぉぉぉぉぉ!!お前は神かぁぁぁぁぁぁぁ!
客観的に見て思うことがあるだろう。
うん、そうだな。
俺の妹は可愛い。
じゃなくて、俺と妹は異常なくらい仲がいいと思わなかったか?思っただろう?そうだろう?
そりゃそうだ俺は妹が好きだからな。
なに?妹はどうなんだって?
それはだな………もちろん俺を好きでいてくれているのさ!!
たぶんな!!
それに好きじゃなきゃ膝枕とかしてくれないよな!そうだよな!
ことの発端。
俺がなぜここまで妹を好きになったのか、気になるだろう。
なに?聞いてないって?まぁまぁゆっくりしてけよ。
そうだな、あれはある夏の日の夜だったかなぁ。
**********
「兄さん、あのこれから私と花火をしませんか?」
妹からの誘いを別に断ることもないし、ただいいよと一言だけ返す。
俺の返事を聞いた妹は、
「さきに外にでて準備して下さい! 私はすこし着替えてきますね」
と、嬉しそうに二階の自室に走り去っていく。
その後ろ姿を見送り、スーパーで買った安い花火セットと水をいれた小さなバケツを持ち、虫よけスプレーを全身にふりかけてから外に出た。
もう時間は9時を過ぎているというのに汗をじっとりかくほどジメジメしている。
「あっつぅ……」
あまりの暑さと湿気の気持ち悪さに思わず漏れる愚痴。
早くも妹との約束の解消を提案しに部屋へ行こうかと玄関に手を掛けようとすると、あちら側から扉が開いた。
出しなの妹の肩を掴み押し戻す。
「にーいさん! お待たせ! ってどうしたんですか?」
「なぁ、七羽。外はそれはもう異常なくらい暑いから花火は止めにして、涼しい家の中でテレビ、でも……みよ……ぅか」
「ん? どうかしましたか?」
今頃になって妹の姿を確認した俺の中に電撃が走った。
妹は浴衣を着ていた。
いつもはそのままにしている長い黒髪のストレートを後ろで束ね前髪を少しだけ垂らし、大きな青い睡蓮の花が腰元から咲くように描かれた柄の浴衣を赤い帯で締め上げ、ただでさえ大きな胸を押さえつけるように強調していた。
そう、さっきも言ったがただ浴衣を着ているだけなのだ。
なのになぜこんなにもドキドキするんだ。
固まる俺に妹は訝しんだ様子を浮かべると、なぜかすぐにシュンとうなだれてしまった。
「兄さん。浴衣着てみたんですけど、変でしたか?やっぱり似合わない……ですよね」
「違う違う。とても似合ってるよ、ただ……」
「ただ?」
まっすぐに見つめ貸してくる七羽の瞳に言葉が出てこない。
七羽はその沈黙を否定と受け取ったのか、俯いて元来た玄関先まで戻ろうとする。
「やっぱり、ただの花火にいきなり浴衣は引きますよね……着替えてくるの待ってて下さい……」
衝動的だった。俺は七羽の腕を掴み引き戻す。
俺の前まで来た七羽は掴まれた腕を振りほどこうと離してと叫ぶ。
ちらりと見えた七羽の目じりにはうっすらと涙が浮かんでいた。
この涙で俺の中の何かが完全にはじけ飛んだのだろう。
「好きだ」
驚き、涙をいっぱいに溜めた両目で見上げる様に俺を見返す。
もう駄目だった。一度緩んだ栓は閉まらない。
「俺はお前が、佐倉七羽が好きだ」
たぶん俺はこの時落ちてたんだと思う。
何かって? 決まってるだろ!
恋にだよ!!
**********
あの時七羽は、
「兄妹だから……その……でも、家でなら恋人……でもいいですよ?」
もうメロっメロですよ!
タダでさえ可愛い妹が浴衣姿で上目使いに「恋人でもいいですよ?」だぜ!!
しかも涙のオプション付き!!
あの時俺は死ねばよかったと今でも思うくらいだ。
それからというもの、外では兄妹として接して、家では恋人同士の様にあま~い一時を過ごすと言う毎日を送っている。
良心はどうしたかって?
そんなもの妹好きな時点で捨て去ったわ。むしろ妹の為だけに良心があるくらいだ。
なに?そっちの良心じゃなくて両親?
あぁ、なんだかうちの両親は心底仲良くて、何年前だったかな。
俺が中学三年、妹が二年の時にいきなり、父さんと母さんは世界を飛び回り互いの愛を確かめ合うんだと言ってどこかに旅立ったっきりだ。
お金はいつもどこから振り込んでいるのやら、決まった口座に二人で暮らしていくには十分な額が振り込まれている。
それに、たまにどこかもわからない国の土産だか郷土品が送り付けられてくるから生きてはいるのだろう。
とそんな親のお蔭で今の妹と幸せな毎日を過ごすことが出来ているんだから感謝している。
ありがとうパパ、ママ、もう二度と戻って来なくていいからね。
天に向かいそっと合唱する。
さて過去の思い出にふけるのかこれくらいにして、今は現実の妹を愛でよう。
今は先ほどまで膝枕してもらっていたソファーに二人で腰かけながらお茶をすすっている。
少し低めのテーブルに置かれているのは七羽が作った手作りクッキー。
一つ手に取り一口かじる。チョコでコーティングされたクッキーでほんのりオレンジの味と香りがしてくる。
七羽は俺が食べているのが気になるのか、覗きこむ様に顔を寄せてくる。
「それ、初めて作ってみたんですけどどうですか? 兄さん、おいしいですか?」
「うまい! うますぎる!やっぱり七羽は可愛いなぁ」
「あの、えっと、ありがとうござます。でも、可愛いとかは今は関係ないですよ」
微笑ましい!可愛い!
照れているのか赤くなっている七羽の頭をこれでもかとこねくりまわしてやる。
七羽は気持ちよさそうに目を細めて身をゆだねてきた。
肩から伝わる温度、腕に触れる柔らかさ、肌にかかる吐息。
気付けば俺は七羽の肩を掴み、ゆっくりと顔を寄せる。
しかし俺の唇がたどり着いたのは、七羽の唇ではなく人差し指。
七羽は悪戯っぽく笑うと、
「まだ駄目ですよ、兄さん。それをするのは私からっていつも言ってますよね?」
「しょうがないだろ。七羽が可愛すぎるからだろ」
「でもまだです!」
「ズルいぞ。そのうち俺に襲われても知らないからな」
「兄さんは優しいからそんなことしません。 でも万が一、本当に万が一ですけど、その時は……その、責任………とってくれますか?」
だっはぁぁぁぁ!!
神よ、おぉ神よ!
あなたは何故、七羽を俺の妹にしたのか!
私は生涯一生を掛けてあなたを呪います。
理不尽な神への呪詛を撒き散らしながら、幸せの渦に巻かれ、俺の精神は七羽の攻撃にやられブラックアウトした。
如何でしたでしょうか?
ぶっ飛び過ぎた気もしますが、もう一度言います。
後悔はしてません……たぶん……