第一話 A321の飛ばし方 レイオーバー 準備 離陸編
人の人生は非常に短いものです。 70億人がこの世界に存在し、今この瞬間に、生き、食べ、想い、苦しみ、悲しみ、喜び、笑い、それぞれのドラマを”活きて”います。 私はまだ小さかったころから 空が大好きでした。しあわせな事に努力が実り。今こうして操縦士として”活きて”います。 同じく空が大好きな少年、少女、青年、淑女、老若男女に 空では何が起きているのか? そしてそこにはどんなドラマがあるのかを 少し紹介したいと思います。
プロローグ:
まだ眠い、、、瞼を開ける気にもならないが、ゆっくりと開けると、外は十分明るい、いや、むしろ、もうとうの昔に昼を過ぎている時間だろう、おぼろげながら彼はそう判断する。時間を確認する気にもなれない、携帯のアラームが鳴っていないと言う事は、別に差し迫った時間じゃないことは確かなのだから、、、、昨夜は夜23:00時にはフライトを終えていたたーかことMだが、今日は引き続きREDEYE(真夜中から朝にかけてのフライトの事)のフライトがある為、わざと朝まで夜更かししていた。Mはゆっくりと体をだるそうにもたげ、窓まで歩み、窓のカーテンを右手で開ける。日差しは曇り空の為目に優しい、瞼を薄くあけながらも、外を見た瞬間に雲低と工場や廃棄場の煙を探して風の向きと強さを見るのは職業病だろう。Mはそういう自分に苦笑しながら、「2000feetってとこか。。。。」 とひとり呟く。
ここはロサンジェルスのクラウン プラザ ホテル9階、通常弊社ではパイロットにはアテンダントよりも良い部屋が与えられる。部屋にはバーやキッチンそして冷蔵庫に電子レンジまで付いている。 個人的にはホテルなんて安宿で良いと思う、それよりも給料上げてくれと思うが、アテンダントの子たちはとにかく汚いホテルに敏感な為、航空会社は一流ホテルと契約し少しでもいいホテルを少しでも安くクルーのために予約する。PILOT達は安いホテルでも朝食付きのところのほうがありがたいのだが。。。。。
ホテルなのに部屋に巨大なソファーがあり、9階の窓から外はLAXの空港の真横だ。 RWY24Rが真正面に見え、デルタやフロンティア、アメリカン、ユナイテッドの旅客機が次々に離陸していく。 着陸便は25Lか24Lに振られているようだ。
夜中の三時まで1時間半ほどホテルのトレーニングセンターで汗を流し、600kcalを消費した後、朝6時ごろ友人たちのミクシィーの書き込みやYoutube 等を見終えて、メラトニンを一錠飲み、強制的に朝の睡眠に入ったのは覚えてる。Mはようやく覚悟を決め、自分の腕時計を見る。ブライトリングの蒼いコルト、メーカーの中では最も安いモデルだが、自動巻き、シンプルで使いやすい、かれこれMとともに9年7000時間も空を旅してきた相棒である。時計の針は17時を指している、シカゴとは2時間の時差があるから今は15:00時だ。「9時間も寝ちまったか。。。。ハッ。。。。あ~~~何食うかな。。。。」 眠そうに、そう独り言を言うと、Mは携帯で近くのレストランを検索する。便利な時代になったものだ、情報によれば、3kmほどのところに吉野家ができた。往復6km今日の運動にはもってこいの距離じゃないか。。。。そう頭の中で考え、Mはシャワーも浴びずにトレーニング服に着替え、PT-6エンジンの帽子をかぶり、LAXの街に出る。
ホテルの部屋を出て、廊下に出る、ベージュに統一された内装は余計にビルの気温を暑く感じさせる。エレベーターに乗りロビーに出る。エミレーツのアテンダントとPILOTが仰々しいユニフォームに身を包む。女性のアテンダントは顔を半分ベールに隠している。Mは差別する気はないが、イスラム以外を信じる者はイスラムの敵という考えの原理主義が大嫌いだ。アメリカに来るのは歓迎するが、郷に入れば郷に従うのが正しいのではないだろうか?合衆国はその米ドル札にも書かれているように、もともとはキリスト教を信じる国であったはずだ。自由の名のもとに住まい、その国で自分と違うものを傷つけるような宗教はごめんだ。 そういつも思ってしまう自分を戒めながら、ホテルのロビーから正面に出る。「吉野家は。。。。と。。。。」
Mは携帯のアプリのMY Map Run という運動用アプリをオンにして、カロリー消費量を計算する。 ここから吉野屋までは3km W Century BLVD を左にでて アビエーションロードで左折。1.5kmほどはちょうどRWY25Rと25Lのアプローチエンドだ。運動を兼ねているので速足で歩く。時より空を見つめる、2000feetほどのシーリング、今にも泣きだしそうな空、「こりゃー一雨来るかな?」SouthWest航空のB737が頭上をかすめて行く。
航空ファンには絶好の撮影ポイントだろう。そう思いながら歩く、寝ている間に友人のタミーおばちゃんが(失礼)電話してくれたようだ。 折り返してみよう。。。。
「ハイ タミー ごきげんいかがっすか? Hi! Tammy How’s it going?」と
TM「これからシカゴ カブスのワールドシリーズのゲームがあるじゃない?旦那と友達呼んで今TV前に食べたり飲んだりしてるから、あんたも来なさいよ!」 と。。。。。
M「わり― タミー今LAなんだよ。23時間レイオーバーでさ、今日の夜もREDEYEで明日の朝シカゴに帰るよ。」
「おお~良いじゃないLAロングレイオーバー、わかった。あんた、たまには顔出しなさいよ、そういえばあんたのおかーさんのところにもまた遊びに行かないとね。娘は元気?」
そんな、何気ない、いつもの友人との会話が何と有り難い事か、
タミーは元気のいい、人柄が最高のおばちゃんだが、こう見えても元CRJ-700機長、フロンティアA320 副機長 、現レガシーのユナイテッドのA320 副機長だ。日本には彼女がフロンティアに入社する直前に家族で来て、拙宅に何日か泊まったこともある、親しい友人である。
Mには「ユナイテッドに来い来い」攻勢が凄いのだが、本当にありがたいとは思うものの、Mは今の会社が大好きだし、もうすぐ給料も上がるので移る気はない。
挨拶を終え、近々飯でも食べる約束をし、お互いの家族によろしくというお決まりの会話を楽しみながらMは電話を切る。 Yoshinoyaに入り、牛丼を頼む。もちろんつゆだくである。アメリカの吉野家はサイド オーダーでサラダを頼むとき、気を付けないと牛丼にコールスローをご飯の上に一緒に乗せてくる。21歳までバリバリに日本で育ったMには卒倒物の恐ろしい出来事である。
「Would you give me a salad “a side” please? not on the rice. And I would like to have extra beef juice. THX」
てな感じにリクエストしないと、牛丼の上にキャベツのマヨネーズを和えた コール スローが乗り、マヨネーズが牛丼の汁に混じる、阿鼻叫喚な世にも不思議な食べ物が出てくるので注意が必要である。
てか、アメリカ人、これで食えるならドッグフードでも何でも食えるだろう。。。。初めて、究極の恐ろしい物体を見た時Mはそう思った。
普通に牛丼を美味しくいただき、Mはホテルまでの道のりを曇り空の中再び歩く。往復で6km。 今日のちょうどいい運動になる。良いペースで歩くMは昔の事を思いだしていた。。。。
LAX RWY25L脇にはDHL/FEDEXの集積所がある。MはこのRWYが大好きだ。夜、暗闇の中、蛍のように列を作り、25Lと24Rにアプローチしてくる機体を、飽きることなく眺めた日々、25年前に初めて自家用回転翼を取ったとき、初めてナイトでヘリでClass Bに空域に入ったのもLAXだった。その時手を引いてくれた教官のYはもうこの世にはいない。。。当時はまだ飛行時間50時間未満、やっとVORの使い方を覚えて、自分が空を飛んでること自体に興奮と驚きを感じながら夜の闇をローターで切り裂いていた頃、自家用ライセンスなんてそんなもんだが、、、、LAXの北にあるサンタモニカだったかの空港には23年前には小さなレストランが空港内にあり、PILOTの免許証が壁一面に貼ってあった。私も自家用PILOTだと店側が気が付いた時、免許証のコピーを取られ、壁に貼られた。 個人情報保護の面で今なら考えられない事だが、おおらかな時代だったものである。
その10年近く後、仕事は順調だったが私生活で辛いことがあった時にも、この25L脇に車を止め、FEDEXやATLAS、POLARのB747、UAX、UAやAA DLのB747、MD-11、A320、B737、CRJ-700を見て、今は苦しいけどそれをバネにして絶対JETに乗ってやる。そう誓ったのもここだった。そう、LAX=ロサンジェルス国際空港は私にとって来るたびに私を初心に帰らせてくれる場所だ。
そんな思い出深い場所に何度も来れる自分の人生の幸運をかみしめながら、額に汗を流しながら、Mは足早に空港のRWYをホテル側に横切る。。。。 まるで思い出を箱にしまい直すかのように。。。。。 さて、、、、あと3時間でフライトだ。。。。
Mはホテルに帰ったあとシャワーを浴び、汗を流した後、ソファーの上で目を閉じる、
フライトの前にわざと30分ほど瞑想/仮眠に入る。良くやるのはV1 CUTのプロシジャーを復唱し、ゴーアラウンドの時のコールを復唱し、緊急事態の最低限の練習は毎日する。その後、最初はくだらないことを考えて、心を落ち着かせながら瞑想できればするし、眠ければ15-20分の仮眠をする。これで頭は7-8時間すっきりする。
集合65分前にI-PADを開け、今日の天候、自分のルートを開ける。確認後スナップショットを取っておき、いつでもネットが無くても前線やエンルートの天気、各FIX、すべてのトータルフェイリャーが起きた場合に備えて大体のエンルート上の大きな空港を5分で頭に入れる。その際自分のルート上のHDG 所要時間、大体の燃料。すべて大まかに計算して頭に入れておく。何かあったときこの5分がすべてを救う。。。。
Phase 1 / Start up - TAXI - 離陸
05:00 ZULU ホテルロビー、フライトアテンダント達に軽く挨拶する、「Hi! How are you all this evening? Are you all going back to Chicago with us?」「M, First Officer on your Flight, Nice to meet you all」「こんばんは、皆さんは今夜私たちと一緒にシカゴ便に搭乗するのかな? Mといいます、君らの便のファーストオフィサーです。初めまして。」ホテルのロビーでみなにこやかに挨拶を返す。今日はA321なので5人のフライトアテンダントと二人のPILOTが乗務する。連邦航空法によれば50人に一人アテンダントが必要なので230人乗りのA321では5人必要だ。フライングホステスと悪態をつかれる彼、彼女らだが、いないと困る。まずキャビンの状況を報告してくれるのは彼女らしかいない。OILの匂い、煙、焦げ臭い、異音、フライトデッキ、(コクピット)の中は静寂そのものなので、異常は彼女らが教えてくれることも多い。DC-8やB737-400などの古い機体では火が出る場所にもよるが、タイヤウェルなどから引火した場合機体が燃え尽きて制御不能になるまで7分しかない。ナショナルエアが90年代に大惨事を犯した時を忘れてはいけない。タイヤの空気圧一つで150人からの命が7分で失われるのだ。エアバスのA320シリーズ(318-319-320-321)ではどこで火が出て何分持つという事例は有り難い事に報告されていない(。。。。と思う。。。。)どちらにしても火災なら報告を受けたら、7分以内に下ろしたい。
そんなことを彼女らと話しているときに思う事はないが、彼女らが重要だと言う事はついつい忘れがちなことである。
ホテルのシャトル(マイクロバス)に乗り込み、雑談をする場合もあれば、大抵はみな沈黙をしリラックスしている。わたしと機長は天候や、FUEL、大まかなデパーチャータイム、事前に入手した情報に基づきMEL(機体の不具合箇所)に対する大まかな情報を交換し合う。LAX空港に着き夜の空港のターミナル前に降りる。1ドルをドライバーにチップとして渡す。この時、いつも思うのだが、もし客がチップを機内乗務員にくれたら、7人で割っても。一フライト当たり30ドルの儲けになる。4日間の旅で120ドルから200ドルの臨時収入になる。。。。今度チップボックス出入り口に置いておこうかな。。。。。
そうこうしてるうちに、四本線と三本線はアテンダントの後をついてターミナルに入る(地上ではアテンダントのほうが空港のどこにKCMがどこにあるかとか、どこの空港内レストランが安くておいしいとかをよく知っている。
KCM = *** “Known Crew Member“ あらかじめFBIや警察、TSAの審査を受けたクルーはセキュリティーチェックを受ける必要がない。そのクルー専用の出入り口。一般に見えにくい場所にあることが多い。***
KCMに入るとKCMバッジをバーコードリーダーに当てる。 TSAの職員がLAPTOPの画面をチェックする。私の顔とポジション(PILOT)と航空会社 が表示され、期限が切れていなければ、セキュリティーを素通りできる。「こんばんは、どっすか?」「ぼちぼちでんな」のような会話をTSAの職員と幾千回も交わし、無機質な壁に覆われた空港のせきゅりてーポイントの横の通路を、一般客がXRAYやボディーチェックを受けているときに通り抜ける。LAXの第三ターミナルは今日もにぎやかだ、ここはバージンアメリカや、JETブルーデルタ、フロンティア、スピリットなど各航空会社のゲートがひしめき合う。 LAXがハブのUNITED やアメリカンは1ターミナル独占である。。。。さすがレガシーキャリア。。。。そんなことを考えながら、通路の真ん中ぎゃぁぎゃぁ騒ぐ客を避けながらA33ゲートに足早に向かう、スタバ、マック、ウェンディーズ etc。。。etc。。。。コレ全部客が食べて、全部ウンコになるんすよっ!凄いウンコの量ですよね。。。。そういうとフライトアテンダントは笑いながら。「そんなこと考えんのあんただけー」と馬鹿にされた。。。。J機長は本当はおかしい癖に肩だけ震わせて黙っている。
機長のJが「俺、コーヒー買っていく、先行っててくれる?Mは何が良い?」と聞いてくる。
M「あーアイスコーヒーの特大をエスプレッソショット入りで。砂糖なし。いくら?」
J「いいよ、俺が出す」
M「ありがと、じゃ先に行って準備始めてます」
そういうとMはA33ゲートに行く。Frontier 航空の緑のシャツを着たやせ形で天パ、ポニーテールの黒人の青年がコンピューターの前で立ち、真っ白な歯を見せ、にこやかに
G「こんばんはファーストオフィサーM、機長のJさんはまだですか?」
M「向こうでアテンダントの2人とコーヒー買っとる、すぐ来るよ、他のアテンダントの連中は?」
G「フライトアテンダントは3人すでに機内で準備を開始しています、これが飛行計画書類と乗客貨物表です。どうぞ。」感じのいい青年だな。。。。Mはそう思う。
M「有難う」
軽く会釈をしてGはセキュリティーコードを入力すると、JETブリッジの扉をMのために開く。
M「Thank you」
もう一度Mは礼を言うと、JETブリッジの中を一人機へ向かい歩いて行く。
搭乗口から中に入ると、左がコクピット(フライトデッキ)だAエリア乗務のアテンダントが改めて「こんばんは、M」と言ってくる。Mは「こんばんは、特に異常はないね?」
そう聞くと
アテンダントは「特にありません、セキュリティーチェックはとうの昔にグランドホステスが完了してます。」
M「有難う、私は機外点検するから、機長から別途ブリーフィングがあると思う。無ければ私と機長がデッキに入ったあとで聞いてくれるかな?その時私たちがブリーフィングをしても良いから」
アテンダントAは金髪にしわのよったベテランの風格を持つ白人中年アテンダントだ
アテンダントは「OK わかりました」というと、ギャレーの氷などをチェックして、後部ギャレーとインターホンで連絡を取っている。
Mはデッキに入り、頭上のIR/ADR1/2/3セレクターを OFFからNAVに回転させる、
ポーンという音とともにナビ用のイナーシャ ジャイロが回転し、GPSの座標とシンクロし始める。この際GPSとイナーシャジャイロの入力点に違いがあるとポジションエラーを知らせてくれる。INSジャイロが完全に正常に機能するまでにはエアバス機では7分かかる、大韓航空機のB747がコースを逸脱しソ連機に撃墜されたのは機長がこのINSのジャイロウオームアップを怠り座標を手動入力したためと言われている。
そう、7分あるのだ、その間にMは自分のスーツケースを機内に入れる間も惜しんで、JETブリッジから暗証番号を入力し外に出る。昔のMなら機外点検時に隠れてタバコが吸える場所を探して、グランドホステスと伴に一服してたが、禁煙が功をそうした今は、有り難い事に必要ない。やめてるときは、なんであんなもの吸いたいんだ?と思うのだが。。。。
話がそれた。機外点検は機体の左舷前方から始める、RVSMエリアと言われるRVSM高度、高高度飛行用センサーエリアに傷や痛みがないか確認する、酸素ボンベ供給バルブは開いているか?これも大変重要だ。レドーム周辺にバードストライクの後はないか?前脚ストラットの圧力は十分で伸びているか?リンクに異常はないか?大きなカーゴドアを開けカーゴ室の中に入って客の荷物を積むバイトの若い子たちから、「GOOD EVENING SIR!」
と挨拶を受ける、「Good Evening Boys and Girls!」とにこやかに笑顔でMは挨拶する。
右翼の前縁に凹みや傷はないか?鳥が当たってないか?着氷はないか?(まぁここはLAXなので一年中ないが)リヒューリングベントは空いているか? NAVライトは切れてないか?フラップと翼後縁に戻り以上を確認し、タイヤの空気圧が見た目低くないか? 油圧系統のOIL漏れはないか? ブレーキパッドは8枚とも十分に厚みがあるか?タイヤハウスに違法移民者が隠れてないか(笑 確認する。昔このタイヤハウスにマジで隠れたメキシコ人が与圧されていない3万Feetを低温火傷を負いながらも生き延びた話がある。ふつう死ぬだろう。。。。てかT/Oの時怖ぇーだろうな。。。。。右第二エンジン、エンジンカウルとファンブレードのダメージ有無を確認し、後部胴体右舷に移る、ウオーターベントから前のフライトでためられていた水が出ている。その後新鮮な水をタンクに足す。新品の機体のコーヒーがおいしいのに5年落ちの機体のコーヒーが非常にまずいのは、タンク内の微生物や菌がコーヒーを沸かすときに死んで、それがコーヒーに混じるからだと聞いているが本当だろうか? 確かにこのN713FRはまだ飛行時間数百時間の新品。機内コーヒーは非常にうまい。
テールに移り前のPILOTがテールストライクを起こしていないか? 避雷針は全部ついているか? 尾翼のダメージがないか確認する。ここで大抵私はマイミク諸氏に報告するため、今日の動物を写真にとる。右舷後部胴体のスキンの状態をチェックしながら、左翼の前縁後縁も右翼と同じように確認しタイヤハウス、空気圧、OIL漏れ、すべて確認する。第一エンジンのカウルとブレードを確認し、ようやく機体外部点検で一周回った。 足早にコクピット(フライトデッキ)に戻ると機長はまだだった。 自分の荷物を入れ、電動のFOシートをウィーーーンとずらし、座る、素早く自分の体形に合わせるためポジション(特に足とアームレスト)をセットし。会社の備え付けテレックス エアライナー ヘッドセットを外し、Mスペシャルなデッカイ ジェネアビ用のアクティブノイズキャンセリング付きのライトスピード社製のものを、エアバスコネクターに接続する。 マニュアル、航法支援、アプローチチャート用のIPAD -AIRを取り出し窓の横のIPADホルダーに備え付け、JEPPチャートのTAXIチャートから表示させる。APUが作動していない様なら、機内温度を確認してエアコンを作動させる。大抵はGPUが接続されているので、HPLかLPLが接続されていない場合お客様のために、Mは燃料が給油されている最中じゃないことを確認してAPUを作動させ機内温度を22度前後に設定する。HPLが接続されているときにAPUを作動させ、PACK1を作動してしまえば、ブリードシステムにダメージを及ぼす可能性もある。そういう基本的なことを考えないPILOTも意外に多い。
エアコンの心地よい風を顔に受けながら、Mは機長が来るまでにフライトログをチェックしこの機体の癖、壊れた場所、壊れやすい場所をチェックする。その間同時に右手でFMSコンピューターのINIT DATAでデータベースが最新のものか確認し、出発空港、到着空港、フライトナンバーを入力するとディスパッチャーがファイルしたルートが自動的にFMS NAVに入力される。昔のCRJのように手打ちの必要はない。燃料を入力しATSUのINITメニューで自分の位置を入力すると、IR/ADRが承知した!とポジションがあっていることを知らせる。同時に目の前のNAVパネルが「ブッン」っと一気にデータを表示し、アチチュード インジケーターが表示される。機体に命が入った瞬間だ。。。ACRAS ATSUメニューで最新のAITS(LAX空港の天気)をプリントアウトしておくように入力している。左手でログを閉じ機長席に置き、左手でPDCのクリアランスを要求するメニューで、クリアランスをリクエストする。するとスーパーのレシートの幅広いバージョンのようなプリンターからするすると、先ほどの天気と今日のデパーチャー、 トラポン スクォークコード、イニシャルのデパーチャー高度、デパーチャー周波数が出てくる。それを紙に書き込む。それが終わるとI PADのタキシーページでタキシー順を確認し、シカゴであればゲートからは アルファーアルファー17、エコーエコー、デルタ RWY22Lという風にタキシー順を紙にあらかじめ書く、次に左手でFMSコンピューターを操作し空港のコンディション、先ほどのAITSで現在使っている滑走路が分かっているから、コンピューターにそれを入力、路面は濡れていないか?風は温度は?そういうことを入力する。次に予想されている客のセクションごとの人数とカーゴ室のセクションごとのチェック イン バゲッジの量を入力する。W&B PERFのボタンを押すとACARS/ATSUは必死に計算を始める。最新の機体のコンピューターなら大体1分、319など数年前の機体だと3分ぐらいで答えを出す。そこには、この重さ、この滑走路状態、でこの滑走路から離陸する場合 V1 VR V2がどのくらいのスピードで、TOGA(最大出力なのか)FLEX(余剰出力)なのか FLAPは何度必要なのか?トリム角度は何度なのか?V1で一発エンジンを失ったときのヘディングと加速高度ACC/ALT プロシジャーなどが表示される。Mはそれをプリントアウトし、20秒くらいで頭に叩き込む。同時にMCDUメニューではなくNAVメニューのパフォーマンスセクションで出たデーターをATSUからフェッチ(移すこと)させる。これで機体のコンピューターはどのくらいのパワーでどれだけのフラップで離陸後どのように飛んでいくかすべて説明されたも同然である。SIDのイニシャル高度を先ほどのPDCと天候表に書き込み、エンジンを失った際の高度とヘディングを書込み、デパーチャー周波数を書き込み、スクオークコードを設定しそこに赤丸をつけてダブルチェックして、機長側のコンピューターの前に置く。
自分の操縦レグなので、あとは燃料の配分(TAXIが混んでれば数百ポンド余分に入れとくとか? オルタネートは無いけどLAX-ORDまでの間に天候が悪い場所があれば、どのように迂回するかとか、そういう事に頭を巡らせる。ここまで大体10分から15分。機長のJが入ってきた。彼は入社11年目。フロンティア航空が業績が悪かった時に入ってきたため、誰も新入社員を取らなかった時期と重なり、機長昇格に10年も待った苦労人だ。つまり入社11年目なのに新人機長だ。ただ単に入社タイミングが悪かっただけ。アメリカでは良くあることだが。。。。
J「はい、Mきみのコーヒー。」
M「有難うございます。一応データはすべて取ったので、準備OKです。」
30秒ほどかけてJはFMSやMが取った離陸データー、天候、すべてにざっと目を通す。
J「。。。。。。俺のやることは?。。。。。。」
M「ないっす。。。。。。」
J「ハンバーガー買ってくる」
M行ってらっしゃい」
J「あっ、アテンダントにブリーフィングはしておいたから。7分で戻る
ボーディングの許可出しといて」
M「らじゃらじゃ」
Mは入ってきたゲートエージェントの先ほどの男子に
M「乗客の搭乗を許可します、有難う」
と告げる。
客の搭乗2分前、アテンダントが、「M なんかほしいものある?」と聞いてくる。
M「あ~~M&Mとビーフジャーキー一袋 貰えます?」
A「うん、後からもってくるわね。」
M「有難う、天候とか必要情報は聞いた?」
Aは少し微笑むと
A「はい、説明を受けました。FSDOとFBIエージェントが2名 武器の携帯を許されてます。席はAの5と Fの15です。後ほどデッキに必要書類を提出しに来るはずです。」
M「さすがJ機長、ちゃんと説明してますね。有難う」
わさわさと客が入ってくる、アテンダントが、
「こんばんわー、こんばんわー」と笑顔で声をかけているのが聞こえる。
アテンダントがM&Mとビーフジャーキーを作業中のMのコンソールの上にそっと置いていく。
ほどなく、Jが戻ってくる、フライトデッキに入ると、まずログブックを確認、Mが作ったブリーフィングペーパーを片手に、天候、TAXIチャート、TAXI順FMSのルート、ウエバラ、パフォーマンス、シングルエンジン プロシジャー、クリアランス、エンルート アライバルを3分ほどじっくりかけて確認した後、「Are you ready?」
とかけてくる。Mは「もちろん」と返事をすると
Jは「Log Book are checked, MEL CDL,NEF are checked, Weather are good here LAX and Good all way to ORD. some TS around ELP and LAS, DEN area, We will deal with it as we required, I see your plan looks all good. DEP is OSHAN6 DEP. Initial ALT 5000, RNAV DEP. RWY will be 24R Taxi via B, Your are flying I am monitoring. Single engine H is 245 and you fly I fix. Clearance is checked Route is correct, This is A321 so, we will be careful to not having tail strake. MIN Fuel is 33089 Plan is 34782, MAX T/O is 206,130lbs Plan is 171,518 lbs. FMS Route looks good, Prog DEP PERF 250, RNAV GPS PERF High, PLAN to up 35000, Cost Index is 17, T/O Speed 145/145/154 Flaps 1 + UP0.4 Secondary Plan is copied from Active. Any questions?」
M「特にないです」
J 「Ok! Before start check to the line」
M 「Yes sir! Log book and security check?」
J 「Checked and entered」
M 「Parking Brake?」
J「On」
M「DEP Brief」
J「Completed」
M「Cockpit Prep」
J「Completed」
M「Cabin Sign」
J「On Auto and ARMED」
M 「ADIRS」
J「NAV」
M「Fuel」
J「Min is 33.1 we have 34.7」
M「Baro REF?」
J「3002 on the Left and center」
M「3002 on the right」
M「We are to the line」
スタート前チェック(日本語で言うとカッコ悪いような気がしますが)を半分まで終え、
JとMはグランドクルーが最終の客数とバックカーゴの数を持ってくるのを待つ、あとFUELシートも必要だ。しばらくすると、グランドクルー (日本ではグランドホステスというらしい)が最終の客数とバックカーゴの数を持ってきた。グランドクルーはPILOT志望の若い子が多い、少しでも旅客機のそばに居たいそんな若者たちが選ぶのがこの仕事だ、しかし、若い。。。20歳位だろうか?フライトデッキに入るのがうれしくてたまらない、そんな顔だ、まぁ確かに、誰もが入れる場所じゃない。彼はPILOTになれるだろうか?
グランドクルー 以下GC「サー、最終のウエバラと燃料搭載量です」
J「有難う 合計乗客225名、カーゴは55/33/44だね?」
M「有難う」
機長が礼を言う間に
Mは書類を取りACARSのPERFセクションに最終の乗客数と貨物をセクションごとに間違えないようにしかも早く入力し、W&Bリクエストを送る。コンピューターが一生懸命
計算し始める。ほどなくしてFMSがT/Oデータできましたと言ってくる。Mはそれをザーッと読んで一応プリントアウトし、同時にFMS2で確認しながらFMS1のPERFページでデーターを2から1に転送する。
最終的なT/OSpeed等が表示されると、アテンダントが彼女らの確認した最終乗客数とスペシャル(車いすの数、未成年者の数、FSDO/FBI/CIA/警察官など武装したものの数)を報告してくる。機長のJは私がFMSの最終セットアップをしているのを見て、仕事を分けるためにアテンダントに、
J「了解、数字はすべて正しいようです。それじゃー閉めてくれるかな?」
A「はい、じゃぁまた後で」
J&M「OK Thank you」
!バッターン! 分厚い防護ドアが閉まる。もう外からフライトデッキ/コクピットにアクセスするのは不可能だ。。。
いつも思うのだが、もう少し丁寧に静かに閉めてほしいのだが、まぁ、ドアも重いし分厚いし。。。。
Jはチラッと下を確認する、グランドクルーは大型タグに乗り込んでいて、有線を機外のターミナルに接続している。 そのタイミングを見計らい、Jは
J「OK M below the line」
と言う。 Before start check listの線より下部を読んでくださいと言う事だ。
M「PEDs?」
J「SET」
M「Take off data」
J「SET」
M「Beacon?」
J「on」
M「NW Steering Disconnect?」
J「checked」
M 「Windows Doors and slides」
J「Closed and ARMED」
M「Cockpit Door is Closed」
M「Before Start Check Completed!」
J「Thank you」
これでエンジンスタートがいつでも開始できる。
GC「機長こちらは準備が整いました。」
J「OK ブレーキはオフにした、コールまでスタンバイして」
GC「了解」
Mはそれを聞き、LAXグランドにコンタクトする。LAXは大空港なのにPAMPコントロールがなく直接グランドにコンタクトするのだ。
周波数はとっくの昔にSETしてある。
M「LAX Ground FFT1272 We are ready for push Oshan 6」
LAXG「Frontier 1272 Cleared for push Expect 24R」
M「Cleared for push Expect 24R Frontier1272」
それを聞いたJはグランドクルーに、
J「プッシュ クリアーだ オンタイムだ 良い仕事を有難う!」
そう告げる、グランドクルーへのねぎらいは重要だ。
M「右舷クリアー」(実際の掛詞はCleared Right!)
J「左舷クリアー」
空港のゲート前は夜中なのにまるで六本木、道頓堀かススキノの繁華街のように明るい、
ただ、ライトは蛍光灯ではなく、オレンジのいかにもエコじゃない奴だ。(w
そのうち全部LED変わるんだろう。。。。そう思いながら右翼に何も接触しないかMは注意深く確認する。翼の幅が全幅35.8m、全長はこのA321だと44.51mになる。B757とほぼ同じ寸法だ。どっちが大きいんだろうか?ターンアラウンドの時、翼がクリアーでも旋回半径は尻で考えないといけない。。。。面倒くさい。
ゲートエージェントがこちらを向き手を振っている。JとMは二人で敬礼する。
ターミナルではほかのフライトの乗客が我々に手を振っている。 我々も手を振り返す。
いわゆる “お手振り”というやつか? ちょっと照れくさいけどこれも顧客サービスの一環。
ほどなくグランドクルーがタグを操りプシュバックしながら、「一番エンジンクリアーです。」と言ってくる。 Jは人差し指を立て、くるりと回し「スタート ナンバーワン プリーズ」と言う。
MはイグニッションボタンをONにし、ECAM ステイタスのエンジンゲージがアンバーからグリーンに変化し、N2回転数が表示されるのを待つ、目はスッとオーバーヘッドパネルに移動し、APUのブリードエアが通常通りブリードシステムに空気を圧入していることを確認する。Mは「YES SIR! Number one」というとNUMBER1エンジン マスターをONにする。CFM56エンジンのスターターはブリードバルブシステムを経てAPUブリードからエアを供給される。エアスターターは、N2の回転数を20%まで上げる。イグニッションをONにした時点でFADECはすでに起動している。FADECは適切なN2%(40%ほど)まで回転を挙げてイグナイターによって火花が飛びっぱなしのチャンバー内に燃料を噴射するようにコンピューターに指示する。インジェクターはFADECが望む分の燃料を適切に噴射し、ITTはFADECによってモニターされる。キャラバンやシコルスキーのような昔のタービン機は全て人間がモニターし、人間が火を入れ、人間が燃料を送っていたが、今はすべて自動だ。B737ではいまだに燃料を点火時に入れるのはPILOTだが、エアバスはブリードソースを決めたら、このスイッチ一つですべて終わる。
ヒーーーーンという音がかすかにコクピット内に入ってくる機種にもよるが、N2が安定し50%を超えるとN1ゲージ脇にAVIALというグリーンの表示が現れる。Mは「No 1、 Good start」と言う、Jはグランドクルーが「二番エンジンクリアーです」というのを待つと、「M、Start Number 2 Please」と言ってくる、
Mは頭上のブリードエアソースをもう一度チラッと指さし確認すると「Start number 2 !」
と言って、二番エンジンのマスターSWをオンにする。
1番の時とまったく同じようなシークエンスを繰り返し、ヒーーーーーンと言う甲高い音とともに二番エンジンに火がともる。Mはエンジンが二機ともかかると左目でFMGC上のトリムホイールのセッティング値に目をやり右手でトリムをUP1.6にセットする。頭上のAPU SW上のAPUブリードをOFFにし、APU MASTERをOFFにする、手はそのままトリム場をなぞりラダートリムリセットボタンに行き、0.0になるようにリセットボタンを押す。“NW STER DISCONECT“とコーションメッセージが ECAM画面に表示される。 これは、二つエンジンが正常に動いているのに、PILOTのティラーがノーズホイールステアリングにつながっていないことを示す。 つまりPILOTはティラーが使えない状況だと言っている。
ほどなく、グランドクルーはNWSTERの“REMOVE BEFORE FLIGHT“の赤い長いスチールピンを前輪から抜き、コクピットから見えるよう高く掲げる。ECAMからコーション メッセージが消える。機長のJはチラッと私を見る、私は 「I see the Tow bar」と言う。これは牽引用のバーが機体から外されたことを視認したという確認である。 これを聞いてJは「After Start Please」という、MはAfter Start と言い、右手で
Anti-ice. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .On / Off (J)
Pitch Trim. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ___ Set (J/M)
Rudder Trim. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Zero (M)
ECAM Status (two-engine taxi only) . . . . . . . . Checked (J)
Yellow Electric Pump (If Single Engine Taxi) . . . . . . On (M)
M「アフタースタートコンプリート!」とアフター スタートチェックを終える。
Mは続けて「I am calling Ground(**場所によってはRAMP CONTROL、 LAXは直接グランド)」と言い、グランドコントロールと交信する。
M「ロサンジェルス グラウンド、フロンティア1272 ゲートA30前にてタキシー準備よし、インフォメーション ロミオ」
G「FFT 1272 Taxi 24L via Delta 10 – Delta – Echo」
M「Taxi 24L via Delta 10 – Delta – Echo FFT 1272」
コクピットのI-padダイアグラムを見ていただくと解るように グランドは1272便に ランプエリアから D-10へ そしてD-10からデルタをクロスして エコーを通りRWY24Lへ迎えと言ってきた。 Mはリードバックをし、機長を見る。
Jは「クリアーレフト」
M「クリアーライト」
といい二人は左舷右舷の障害物を確認する。
J「ブレーキチェック!」
M「プレッシャーゼロ!」
油圧ブレーキ計の油圧を確認し、予備システムの油圧がゼロであること、つまりメインシステムが正常に作動していることを確認する。
J「Flaps 1」
M「Flaps 1!」
Mはフラップレバーを1の位置に移す。
そして、その掛け声とフラップ操作は一連の次のステップへのサインである。
フラップレバーを下げた後、Mは機体がタキシーのため動くのを尻に感じながら、頭は下を向いている、TCASのMODEを ALLにし、エアブレーキ /スポイラーをARMして、ぺデストリアルの左側で レーダーをノブ確認、ウィンドシェアとWXレーダーをオートモードにする、指は上に動きT/Oコンフィグボタンを押し、ECAM画面をチェックすると、離陸までにしなければならない操作が表示される。今はこれでいいのだ。TAXIを始めると、自然に目線は外、耳は他機の交信に神経が行く、自分の前の機体が指示されたことは、デパーチャーの方位が同じならたいてい自分にも来るだろう。 ターン毎にMは「クリアーライト」Jは「クリアーレフト」と左右の他機とのクリアランス、自動車、障害物に翼が接触しないか確認し、口頭で確かめる。
暗闇の中、TAXI中は 両端のブルーのTAXIWAY 灯と中央の緑の灯がリファレンスになる。緑のランプでできた点線が自分の機体中央に位置していれば、大抵、何かにぶつかったり逸脱したりすることは無いし、夜間の濃霧ではこのTaxiway Light が非常に重要になる。
図を見ていただくと解りやすいが D-10から出てDを横切る際にJは
J「Brief me when you can」と言ってきた。 これは機長が離陸前のブリーフィングをよろしくお願いします。 と言うサインだ。
Mは 「RWY 24L is in the BOX, 180,800lbs / Fuel 36,000lbs / Flaps 1+F / Flex 44C / 5000 / 145/145/160 / ACC 1660 Feet / Single Engine Heading 251 any questions?」
Jは「No questions」と答えた。
要は、「RWY24Lを離陸予定 FMSにはそのRWYがセットされています。 180,000lbs =81トンの離陸重量 (321はMAXで95トンほど)、燃料は63000ポンド フラップは1+Fにセットされています。フレックスは44度、DEPのイニシャル高度は5000feet V1 VR V2は145/145/160 単発時加速高度は1660feet 一発停止時の方位は251度。何か質問はありますか?」とMは早口言葉のようにまくしたて。(最終確認なので、お互いに此処までにすべて確認しているので、変更、漏れがないかと言うあくまでも最終チェック)
Jは「質問はない」と答えたのである。
TAXIはたいてい20kts以下で行われ、コーナーでは大体10kts以下に落とす。路面の状況が雪や水たまりがあれば、常識的にスピードを落としましょう。
TAXIがストレートラインに入ると J機長は、「Control Check!」と声をかける。
Jがサイドスティックを動かすと、地上ではその作動範囲が自動的にECAMスクリーンに投影される。 MはECAM画面のコントロールの動きを見ながら、、、、
M「FULL UP, FULL DOWN, NEUTRAL, FULL LEFT FULL RIGHT, NEUTRAL, RUDDER FULL LEFT FULL RIGHT」と明確に口頭で大きくリポートする。
機長分が終わったら、副機長席で自分のサイドスティックを上下左右に動かし、しっかりと舵面が自分の思い通りに動いているかを確認する。この時エンジンスタート後のイグニッションが入ったままだとECAM画面は自動的にENGINEステータス画面からに切り替わらないので注意が必要だ。
Mは自分側のコントロールチェックが終わると、スムーズに左手で、V1前にエンジンの停止や異常があった際に、離陸をアボートする際オートブレーキを最大限使いこなせるように、オートブレーキMAXボタンを押す。
このオートブレーキMAXボタンはまた機長へのサインでもある。副機長側の準備ができたという知らせだ。
Jは「Before takeoff to the LINE!」と声尾をかけてくる。
Mは間髪入れずに、ラジヲの周波数をタワーに合わせ、モニターしながら、もう一度TCAS スイッチを確認し PAボタンを押し「Flight Attendant Please prepare for Take off」とフライトアテンダントに放送で呼びかける。これを聞き、アテンダントは離陸が近い事に気が付き席に着きシートベルトを締める。
Mはそう言ったが早いか?のタイミングで
M「Takeoff Brief ?」
J「 Completed 」
M「Flight Controls」
J「 Checked 」
M「Flight Instruments」
J「Checked」
M「Flaps」
J「1Planned 1+F Set」
M「ECAM Memo」
J「T/O No Blue」
M「We are to the Line」
と離陸前最終チェックをチェックリストの線のところまで読み上げる。
タキシーウェイ エコーのほんの手前までくると もうRWY24Lは目の前だ、
LAXタワーが呼びかけてくる。
T「Frontier Flight 1272 lined up and wait」
M「lined up and wait Frontier Flight 1272」
Jはタキシーしながら速やかに「Below the Line」
と言ってくるので、Mは
M「Cabin Signal Given, TCAS/ TA/RA , Runway
J「Verify 24L」
M「Thrust Bump」(**余剰推力の事、スロットルの後ろ側がパカッっと開くようになっていて中にボタンがある、押すとTOGAパワーよりさらにパワーが出る、超萌へ萌へのからくり)
J「Not Required」
M「Packs are Off」
Mは与圧と空調システムを離陸のために切った。(エアバスでは普通)
M「Before Takeoff Check completed!」
チェックリストを完了し、と復唱し、自機はするすると、RWY24Lに侵入し、中央線にビタッと合わせて止まる。
Jは「You have control I have a Radio」
といい、スロットルから手を放す。(機長によってFOにタキシーさせる人もいるので自分でタキシーしてきた場合は別)
M「I have control you have Radio」
と言い、スロットル(POWER LEVER)に左手を撫でるように乗せる、両足はつま先を軽くブレーキに乗せ、機体が動かないことを確認し、目線はECAMからエンジン計器、PDFのFD、V1VR、の表示をサラッと撫でるように見て確認する。暗闇の中RWY LIGHTがまぶしい、目の前はまるでクリスマスツリーのような10,000feetもあるRWY。遠くのRWYエンドにはロスの空港の街並みが見える。 確かあそこのRWYエンドにはストリップバーがあって、昔。。。。。(以下略)
T「Frontier Flight 1272 RWY 24L Clear for Takeoff!」
タワーが離陸を許可してきた。
MはJに「Are you ready?」と聞く
Jは「I’m ready take us to the home」準備OKさ、家まで乗せてってくれよ
という。
Mはブレーキに足を乗せたまま、左目をエンジン計器に移し、わずかにPOWER LEVERを前に押す。ゆっくりと本当にゆっくりと。そしてN1ゲージが50%になるまで待つ。 N1が50%を過ぎたら、左手をスルスルとゆっくり ディテントCLBにカチッと入れ、さらに
もう一つ推し進めFLEX T/O powerまでカチッと音のするところまで押す。
エンジン音がヒィ~~~~~ンンと高鳴り ごおおおおおおおぉぉぉぉと左右の後ろから音がする。
同時に右目はPDFを見て、MAN FLEX SRS RWY宣言する。MAN FLEX SRS RWYとはManual Mode, Flex POWER T/O用のSRS mode、RWY TRKを意味する。
高鳴るエンジン音を聞きながら ブレーキをリリースする 2基のCFM56/5B2エンジンは
この時とばかりうなりを上げ、90tの機体を62,000lbs で押し出す。CFM56/5Bの推力は一基31,000lbs、F-15のP&WF100のアフターバーナー時ですら一基27,000LBSの推力なのに、こいつは。。。。。この時まで力をためていた化物だ。
Mはサイドスティックを半分ほど前方に押し出し、A321をドラッグレーサーのように
前のめりで離陸体制を取らせる。
M は「MAN FLEX SRS RWY」というと
Jは「Check!」
と短く答える、機体が軽いと本当に胸のすくような加速を覚えながら、80KTSまではあっという間だ、
Jは80ktsで短く「POWER SET」という
Mは短く「Check」とだけ返す。闇の中、機はぐんぐん加速する。もう170Km/Hrだ、
RWY LIGHTがスタートレックのワープシーンをほうふつさせるように流れていく。
J「100!」
M「Check!」
100ktsにスピードが達するとMは右手のサイドスティックの前方へのプレッシャーを弱める。機種が少し上を向く。前方を見据えたまま、両足のラダーで方向を微調整する、センターラインよりわずかに右に振ってやれば、ガタガタとマーカーを踏まないので機内はエンジン音以外の音は聞こえない。
J「V1!」
M「CHECK」
V1 (決心速度)を超えた、もう火事が起きようが、エンジン一発止まろうが離陸は止められない。 王蟲の様だ。。。。走りだしたらだれにも止められない(w
ラダーで微調整し、300km/Hr近くのスピードを心から楽しむ、Mは昔からスピード狂なので、周りが速く動けば動くほど冷静に興奮する。。。。
J「VR!」
M「Rotate!」
そういうと 本当にジェントルにMは左手のスティックを後ろ向きに力を入れる、
FBW (デジタルフライバイワイヤ)はそのコントロールスティックの動きを電子信号にして、配線を通し、エレベーターアクチュエーターに「動け!」と命令する。
機首がゆっくりと上に向き始める。闇の中を90tの金属と複合材の塊が翼と言う刃によって300km以上で切り裂いていく。
A321は7.5度以上離陸の瞬間は機首を上げられない、テールストライクを避けるためだ。
HITアングルは10度だが7.5度で音声が「ピッチ!ピッチ!」とがなり立てるようになっている。そう言う警告音を聞かなくて良いように、Mはジェントルにピッチを上げる。
V/S バーティカルスピード計が 上に向く。 離陸の瞬間だ。
ふっと機体が浮くとテールストライクの心配がなくなるので、Mは緩やかに
スティックをさらにゆっくり引く。化物は有り余った推力と刃によって闇夜に吸い込まれていく。
J「Positive Rate!」ポジティブレイト!
M「Gear UP PLEASE!」ギヤアップ!
J「Gear UP!」
着陸装置は「ウイーン ガガガガーガーー」とけたたましい音を立て、収納される、
降着装置のスリーグリーンのサインがスリーレッドに変わり、そしてブラックになる。
ギヤは入った。
重い機体は闇の中、漆黒の太平洋に向け235人を乗せ、静止状態から400kmまでわずか数十秒で加速し、さらに加速していく。