07『似合わない』
なんかこう、グワーっと書いてブワーっと投稿出来ました。
陽の光が差し、鳥達が朝の訪れを知らせ始める頃、アイシャは目を覚ました。ベッドは、アイシャが想像していたよりもふかふかで、久方ぶりに快適な睡眠を取れたと言えるだろう。
少し目を開けた時に見慣れぬ部屋にしたが、直ぐに自分の新しい部屋だと思い出し、胸を撫で下ろす。
「そっか……新しい生活が始まるんだ」
昨日のやり取りを思い出し、よく考えれば至れり尽くせりであったと胸に手を当てた。
「そうだ、お風呂入ってなかった……」
ベッドに横たわって直ぐに眠ってしまったので、風呂にはまだ入っていない。流石に入らず一日を過ごしてしまうのは、アイシャ自身も勘弁願いたい事であった。
「今の時間入ってもいいのかな?」
ジェントルは個室に風呂場が無い代わりに、一階の奥右側に大浴場が設けられている。
そこを使ってくれと言われただけで、朝早くから入浴出来るのかどうかはアイシャには分からない。
「……聞くしかないよね」
唇を少しきゅっと結ぶと、アイシャは自室から出て隣のルドルフの部屋へと赴いた。
ルドルフの部屋の前までやって来たアイシャは、深呼吸を一つすると扉に掛けられた札に従って、ノックを三回行った。
「はいはい、何か用か?」
ノックの音に反応して、ルドルフは扉を開いた。
「あの、聞きたい事があり……」
そこまで言った所でアイシャは言葉を詰まらせた。
扉の先にいたルドルフは昨夜と同じ黒のスーツを身に纏っている。ただし、そのスーツの上から赤、黄、白等の明るい色の花がデザインされたエプロンを身に着けていた。
ゴブリンと言う忌み嫌われる種族であり、その中でもずば抜けた体躯を持つ彼が、だ。
「おう、何が聞きてェんだ?」
「えっ、あっ、お風呂の事で少し……今はその、使っても大丈夫ですか?」
ルドルフに聞き返され、はっと我に返ったアイシャ本題を尋ねた。
「おう、全然いいぞ。 中に石鹸だのはあるから好きに使え」
「あ、ありがとうございます」
アイシャは一つ頭を下げると、部屋を後にしようとする。
「あ、ちょいと待て」
そんなアイシャを引き止めると、ルドルフは部屋の中へとそそくさと戻り、手にバスタオルを持って戻ってきて、アイシャに手渡した。
「ほれ、これ使え」
「これは……」
「拭く物無じゃ風呂は駄目だろうが、風邪引くぞ」
「え、あの……」
「着る物は用意出来ねェから、着回してくれ」
「あの、ありがとうございます。 それじゃあ、失礼します」
最早、アイシャには御礼を述べる事しか出来ない。頭をぺこりと下げ、ルドルフの部屋を後にする。
「あ、もう一つだけ聞きたい事が」
思い出した様にアイシャは足を止めて、口を開く。
「そのエプロンは……」
「朝飯作ってたんだよ、似合わねェか?」
「余り、その……」
「そうか……」
苦笑するアイシャは改めて大浴場へと向かった。その様子を見送ったルドルフは自分のエプロンに目をやる。
「まァ……ゴブリンだもんな、似合わねェわな……」
と、少し肩を落として呟き、部屋の中へと入ってゆくのであった。
もしかしなくてもルドルフさんはいい奴なのでは?
次回はお風呂回ではありません。書き出しの場面は既にアイシャちゃんはさっぱりしております。
@GS70_freedom