03『やってきたのは……』
……エタってねぇし。(約一年ぶり)
来客を知らせる鐘はルドルフの耳にしっかりと届いた。当然期待を胸に寄せる。
扉の先にいるのはどのような者が立っているのだろう。自然を愛し、自然と共に生を育むエルフか、魅惑の歌声を持って数多の者達を惹きつけるハーピィか、はたまた木の幹程はあろうかと言う豪腕を振るう大酒飲みのオーガか。
逸る気持ちを抑えてルドルフは扉を開けた。
――もっとも、その期待はあっさりと裏切られる事になるのだが。
扉の前に立つ存在にルドルフはあからさまに嫌そうな顔をした。
「ねぇねぇ〜ゴブリンのおにいさ〜ん、私と一夜遊ばなぁ〜い?」
その艶やかな身体を最大限に生かして他者の性欲を解放し、快楽の園へと導く色欲の象徴。そう、サキュバスだ。
肌の際どい部分(どことは言わないが)まで露出したその格好は男が見ればひとたびナニかと解放する事間違いなしだろう。
だがルドルフは違った。目の前に立ってウインクを一つ決めるサキュバスに対し一切欲を剥き出しにするどころかむしろ細いその目を更に細め、冷ややかな視線を向けている。
「いや結構だ」
とだけ言ってルドルフは扉を大きく音を立てて閉めた。
しかし直ぐに鐘が再び鳴らされる。無視を決め込むつもりだったルドルフだったが、無視する時間が長くなっていく程に一回一回の鐘を鳴らす間隔は次第に短くなり、最早高速連打であった。
「だぁぁぁうるせェんだよ!!」
痺れを切らし怒号と共に扉を勢いよく開けるルドルフ。
「ねぇねぇ~ゴブリンのお兄さ……」
「お前はそれしか言えねェのか!? 断ってんだからいい加減諦めろや毎日毎日懲りずに来やがって!!」
そう、毎日このサキュバスはルドルフの元を訪れている。ジェントルが開いた初日から。
「嫌よ、他の所行っても即断られて扉閉められてしかももう一回呼び出そうとしても無視されるのに!!」
「今さっき俺も同じ事してただろ、何で俺ン時だけ無駄にしつけェんだよ!?」
「それはほら、貴方ゴブリンだし、こんな所で一人でいるから色々溜まってるの我慢してそうだったから?」
やはり種族が関わった偏見が理由かと、ルドルフは深い溜め息を吐いた。
「溜まってねェし、手前ェの貧相な身体にも興味ねェし、そこら辺のゴブリンと一緒にすんな」
「ちょ、貧相ってあたしのどこが貧相なのよ!?」
「そらまァ、何一つ張りがねェ所だろが。 他のサキュバスと全然違ェよ」
ショックを受けたサキュバスは自分の身体のあらゆる所をぺたぺた触り始める。露出が多く、かなり際どい服を着用している筈なのにやけに胸の部分の布地が余っていたりするのだが……
「じゃあ、貴方は他のゴブリンとどう違うの?」
不意にサキュバスがそう問いただす。先程まで見せていた縋る様な目つきを真剣な物へと変えて。
「そりゃァお前、ここに住んでみりゃァ分かるさ、多分な」
「そう、なら――」
サキュバスがゆっくりとルドルフに手を差し出す。入居を決意したのだろうかとルドルフは思ったのだが――
「一晩につき五万ゴルね」
続けてウインクと共に紡がれた言葉に額に青筋を浮かべた。
「さらっと商売に持って行ってんじゃねェか!! しかも高ェわ!!」
「いいじゃないの私は貴方の事が分かる、貴方は私で処理出来る、いいでしょ?」
「微塵の興味もねえ雌と寝てアホみてェに金取られんののどこがいいんだよ!?」
「一晩だけでいいのよ~お願いよぉ~」
「いらねェって言ってんだろが!!」
二人の言い争いは止まる事を知らず、むしろ激しさを増す一方であった。
ゴブリンであるルドルフが自身の足にしがみついて媚びるサキュバスに怒鳴り散らすと言うなんとも醜い光景。
周囲で羽を休めていた小鳥達は一目散に飛んで逃げ、道行く人々は皆、見て見ぬ振りをしながら通り過ぎて行く。
少しずつ日が沈み始め空が赤みがかり始める頃、二人の不毛な言い争いはサキュバスの言葉でようやく終わりを告げた。
「もういいわよこの意気地なし! また来るわ!」
「いや来んなよ!」
肩で息をしながらおよそ三時間ぶりに足を解放されたルドルフはサキュバスを見送る事もせず、扉を再び閉めた。
数分後、再び鐘が鳴り、ジェントルに来客を知らせた。
「あんのサキュバスまーだ諦めていやがらねェのか!」
大きく足を鳴らして怒りを顕にしているルドルフは玄関の扉を壊さんばかりの勢いで開いた。
「本当にしつけェんだよ! 蹴っ飛ばされてェのか……って……あ?」
扉の先にしつこく迫ってきたサキュバスはいなかった。
その代わりに、所々に穴が空きボロボロの服を身に纏い、かなり薄汚れた人間の少女がルドルフの巨体と気迫に一人驚き、腰を抜かしてその場にへたりこんでいた。
生きてました。
次はいつ投稿できそうですかと自分にずっと聞いておきます。
一応存在しているついったーあかうんと
@GS70_freedom