20『そして少女は闇に触れる』
そろそろ一区切りがつきそうです。
夜の闇に包まれた多種族共生国家ジャニュア、その中部は他の地区とは一線を画する豪華さと静けさがあった。
酒に酔って大騒ぎする者の声も、他愛無い会話を肴に食事を楽しむ者の声も中部の建物からは一切聞こえてこない。通行人も、宝石をちりばめたアクセサリーを身に付けていたり、皆がこれから貴族の茶会や舞踏会にでも出席するのではなかと思えるような派手な服装をしている。
アイシャの目の前を歩き、職場へと案内してくれる男性でさえスーツで身なりをしっかりと整えている。
「あの……そろそろ着きますか?」
周囲は誰も気にしていない、それなのにアイシャは自分が浮いてしまっていると感じ、不安そうに男性に尋ねた。
「ああ見えて来たよ、ほら」
男性が指差した方向には、ジェントル程の大きさの建物があった。その中へ大勢の貴族や富裕層であろう人々が入って行く。
建物の前までやって来たアイシャは入り口の扉の横に掛けられた掛札を見つけた。そこには『人材派遣商会ジャニュア中央支部』と、書かれていた。
「え?」
アイシャの頭に疑問符が浮かぶ。連れてこられた場所は人材を求めて訪れる人々の為の場所だ。仕事を探していたアイシャとは無関係の場所だろう。
「さあ、この中だ」
しかし、男性は建物の中へと入るよう促してきた。業務の手伝いや雑用をするのだろうか、アイシャはそんな事を思いながらも大人しく従い建物内へと入った。
赤い絨毯が廊下の先の先まで伸び、天井からは豪華なシャンデリアが吊るされている建物内は、外と変わらず貴族や富裕層である人々が談笑していたり扉のある部屋へ出入りしている他に、複数ある部屋の扉の両側に、黒いスーツを着た屈強な警備員と思しき男達が微動だにせず立っていた。
「あの、そろそろどういうお仕事か教えてくれませんか?」
明らかに西区等の活発的な雰囲気とは違って、何か重要な取引等をするような雰囲気を感じたアイシャは知らされていない仕事の内容を改めて問い掛けた。
「……出入り口の掛札にも書いてあった通り、ここは様々な人材を派遣する場所だ。 お嬢さんはここに登録して要望のある顧客の元へと派遣される事になるんだ」
前を歩いてアイシャを先導している男性は立ち止まって振り返る事なく言葉を返す。
「お金は……どのくらい貰えるんですか?」
「それはお嬢さんが派遣された先次第だね。 でも大丈夫、君ならきっと沢山お金を貰えるさ!」
「本当……ですか?」
「ああ……本当だとも」
アイシャにはこの時見えていなかった。男が不適な笑みを浮かべていたのが。
「むぐッ……!?」
アイシャは突如として背後から何者かに拘束され、口に布を当てられた。そのままアイシャの意識は闇の中へと消えて行った。
人材派遣商会ジャニュア中央支部は表向きの顔である。裏の顔は貴族向けに多種多様な奴隷をオークション形式で売買する闇商会である――
――騒がしい声が耳に届き、アイシャは手放していた意識を取り戻した。
徐々に鮮明になって行く視界で、認識したのは自分は今周囲にある席に座る大勢の人々の目に晒されている事、そして自分は中央にある舞台の上で拘束されて座らされている。
「……ではこの奴隷の少女は1000万ゴルであちらの方が落札されました!」
アイシャの耳に信じがたい言葉が飛び込んでくる。同時に自分は騙されたのだと知り、絶望で心が満たされた。
司会進行役の派手な衣装を身に付けた男が指した方向には、襟の長いコートを身に付け帽子を深く被り、顔を隠して一切素顔を分からなくさせた者が周辺の人々の注目を浴びながら立っていた。
総合評価が50ポイントになっていました。応援ありがとうございます。
これからも細々ではありますがこの作品をお願いします。
ついったー↓
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