18『仕事探しの結果は』
最近めちゃくちゃ寒いですよね。
アイシャは道をトボトボと肩を落として歩いていた。既に太陽は街の中へと消えかかっており、空は夜がもうじき訪れる事を告げる様に赤く色付いていた。
「どうしよう……」
西部だけに留まらず、北部まで足を伸ばして雇って貰える所を探したアイシャであったが、結果は徒労に終わってしまった。
この調子だとジャニュアのどこへ行っても、自分を雇ってくれる様な所は無いんじゃないのかと、嫌な考えがアイシャの脳内をよぎる。当然それは家賃がいつまで経っても支払えないと言う事であり、ルドルフに多大な負担を掛ける事になってしまう。
「ひどい事はされないと思うけど……ゴブリンなのよね……」
ルドルフはいつまでも待つと言っていたが、それにも限界がある筈だ。何もないとこれまでの事で信用はしているが、それでもアイシャの脳裏にはあの下劣なゴブリンのイメージが浮かぶ。
絶対に無いとは分かっていても、いつかは自分の身がルドルフによって汚されてしまうのではないかと、どうしても頭の片隅で考えてしまう。
「っいけないいけない、今は目の前の事に集中しなきゃ」
アイシャは頭を振ってその考えを無理矢理引き離す。ルドルフが指定した集合の時間まで後少し、仕事を探す他無い。両側の頬を自分で叩いて気合を入れ直し、アイシャは歩き出した。その直後であった。
「そこのお嬢さん、そこのお嬢さん、仕事を探しているのかい?」
ふと、アイシャは後ろから声を掛けられた。そちらへ振り返ると、中年で小太りの男性が一人立っていた。
「えっと……はい」
急に声を掛けられた事に困惑しながらも、アイシャは返事を返す。
「そんなお嬢さんに、一ついい仕事を紹介してあげよう!」
「えっいやその……」
懐から紙を取り出しながら、男性は近づいて来る。胡散臭い話し方だった為に直ぐに立ち去ろうとしたアイシャは、それよりも先に男性に接近され紙面の内容を目に入れてしまった。その内容は━━
「すいませーん! お待たせしましたー!」
太陽がすっかり落ち、夜の闇を纏ったジャニュアの城門にアイシャは大急ぎで現れた。
「おう、俺もさっきここに着いたばっかだから大丈夫だぞ、ほら水」
肩で息をしているアイシャにルドルフは水の入った水筒を手渡した。
「ありがとう、ございます。 んっ……ぷふぅ」
「じゃ、帰るか」
「はいっ」
昼過ぎは落ち込んでいたとは思えない程に元気な声でアイシャは返事をして、ルドルフと共に馬車へと乗り込んだ。
「……なあ、そういや仕事は見つかったのか?」
流れ行く景色を馬車の中から眺めながら、ルドルフはふとアイシャに尋ねた。
「あ、はい! もう駄目かなって思っていたら男の人が来て、紹介してくれる事になりました!」
「……男の人?」
一瞬、ルドルフの肩がぴくりと反応する。
「知り合いか?」
「いえ、初対面でした」
「っ!? それ信頼出来るのか?」
驚愕の声をすんでの所で止め、ルドルフは振り返って問いただす。
「人間の方だったので……」
「あー……」
少なくともゴブリンに言われるよりは信頼出来るだろう。種族の事を言われてしまうとルドルフにはこれ以上何も言う事は出来ない。
「どこでやる仕事なのか聞いてるか?」
「はい、ジャニュアの中部でやる仕事とだけ、書いていました」
「その紙見せてくれるか?」
「えっと……見せられただけで手には持っていないんです、ごめんなさい」
「……それならしゃあねェな、けど」
一呼吸置いて、ルドルフは言葉を続ける。
「親御さんに許可貰った方がいいンじゃねえか? 今回は特に」
「っ……!」
不意に聞こえた言葉にアイシャは何も返す事が出来ずに、体を強張らせた。
「どした? そんな固まって、何か不味い事があンのか?」
「その……」
顔を俯かせとても言い辛そうにアイシャは重い口を開く。
「いないんです……もう、生きて……」
「っすまん」
「いえ……大丈夫です……」
アイシャの言葉は途切れてしまったが、ルドルフは続く言葉から両親が死んでしまっていた事を察して謝罪した。
「……この話は止めにするか」
気まずくなってしまった空気に耐えられなくなったルドルフは無理矢理話を切った。これ以上はアイシャの心の傷を広げてしまう事になってしまう恐れがあったからだ。
その後二人の間に会話が生まれる事は全く無く、到着した後もアイシャは軽い会釈だけして、部屋へと入って行った。
これ以降の話の更新は少し間が空く事を予告します。
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