16『仕事探しと買い出しと』
別の原稿にここ数ヶ月追われていました、ようやくの更新です。
一夜が明けて次の日、太陽が頂点に達した頃。アイシャはルドルフと共にジャニュアの西部にやって来ていた。
アイシャは働き口を見つける為、ルドルフは食材の買い出しの為にやって来ているのだ。
「では、早速ですけど私はお仕事探さなきゃなので」
「俺がゴブリンじゃなけりゃァな……一緒に探してやるンだがな」
「いえいえ! お世話になりっぱなしになるのはいけないので、私一人で大丈夫ですよ! 今日中には仕事先を決めてみせますので!」
アイシャは気合充分の意気込みを言い、ルドルフに頭を一つ下げると、早々に駆けだしてその場を後にした。
「日没に城門前で集合なの忘れンなよー!」
「はーい!」
「……そこまで急ぎ過ぎなくてもいいンだけどな」
ルドルフの呟きはアイシャに届く事は無く、遠くなっていく後ろ姿を見送った。
「さて、と俺もさっさと買い物済ませるかね」
アイシャの気合に充てられた様に息を強く吐いて、ルドルフも歩き出した。
「はいよ、全部で4千ゴルね」
八百屋の女性店主は眉間にしわを寄せて不快な表情を浮かべながら、袋に詰められた様々な野菜をルドルフに手渡し、合計額を提示する。
「ほい、後これ認可証な」
ぴったりの額と共にルドルフは、人間の手の平程の大きさの金のカードを手渡した。
「……毎度」
店主は、納得がいっていない様な表情をしながらも金を受け取り、ルドルフから少し距離を置いた。
「……当たり前だよな」
そんな反応をされると分かり切っていた様な言葉を漏らす。
当然の事ながら、他種族から散々に忌み嫌われているゴブリンも、危険種に該当する種族である。
食料や物資の略奪、他種族の女を攫っては慰み物にするゴブリンは、危険種の中でも特に脅威度の高い種族で、目撃報告があった際には即座に討伐隊が派遣される程である。
ルドルフは危険種でありながら多種族共生国家への入国及び、その国での行動が許される、特例認可が下りている唯一のゴブリンで、先程出した金のカードはそれを示す証明書である。
ルドルフにとっては二十年前から同じやり取りを、国の至る所でやって来たのだ、今更気に病んでも仕方ないと、慣れた手つきで証明書を人差し指と中指で挟んでくるくると回しながら財布の中へと仕舞った。
「野菜は買ったから、後は……ん?」
事前に記しておいた買い物メモを眺めながら、八百屋を後にしようと向きを変えたルドルフの視界に映ってきたのは、酒場の店主に何度も頭を下げて懇願している様に見えるアイシャの姿であった。
「お願いします! ここで働かせて下さい!」
「そうは言ってもな……嬢ちゃんまだ若いだろう? ここは嬢ちゃんみたいなのが来る所じゃない、帰った帰った」
困惑した表情を浮かべながら酒場店主は手をひらひらと振って、追い払う様な仕草を取る。
「お金が必要なんです……お願いします! 雑用でも何でもいいので!」
「何べん言ってもダメなもんはダメだ、他当たりな」
そう言って頭を下げっぱなしのアイシャを置いて店の中へと酒場店主は戻って行った。
一方のアイシャは、頭を上げると左右に振り、気を取り直したかの様に歩き出した。
一連の様子を見ていたルドルフは首を傾げた。
「んんー? ここ西部地区だよな?」
自分のいる場所に疑問を抱きながらも、遠くなっていくアイシャを追いかけて声を掛けようとしたその瞬間であった。
「おやおやァ? ルドルフじゃねェかァ!」
背後から甲高い声に呼び止められてしまった。
ルドルフがそっちへ向くと、ボロボロのシャツにダボダボのズボンを身に付けて細身の悪人面の男が立っていた。髪は整えていないのか、乱れに乱れており、顔や腕には傷跡がいくつも残っている。
「……よう、久しぶりだな、アグリー」
「あァ久しぶりだなァ、ルドルフゥ……」
アグリーと呼ばれた男は、言葉を交わしながらふらふらと歩いてルドルフに近づく。
「おめェに一つ言いてェ事があってよォ……会ったら言ってやろォと思ってたンだよォ……」
やがてルドルフの前までやってきたアグリーは、ルドルフの両肩に手を置いた。
「なァルドルフよォ……」
「何だ?」
醜悪な顔を更に歪ませて笑みを作り、アグリーはゆっくりと口を開いた。
「なァ……仕事、戻って来るつもりは無ェか?」
最近筆の進みが早くなってきた気がします。
新しいキャラクター登場です。
アグリーさんは今後どのように本編にからんでくるのでしょうか。
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