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15『デュラハンと少女の帰路』

執筆してるだけでエネルギーってかなり使うんだと改めて自覚しました。

 太陽が完全に落ち、ジャニュアは徐々に夜の街へと変貌する。露店は次々に店じまいをして、酒場等の店が代わりに建物の中で活気を作り出す。

 道行く人々もまばらになり、衛兵が時折巡回をしている。

 自身の服数着を購入したアイシャは、太陽が落ちるまでの時間を昼食と家具の下見に費やし、門へと戻って来た。

 行きと同じ、門の左側に向かうと黒い外套を身に纏った首無しの騎手デュークを乗せた馬車が、静かに佇んでいた。

「あの……」

 アイシャが声を掛けると、デュークはゆっくりと体をアイシャの方へと向ける。

「おかえりなさいませ、アイシャ様。 いつでも出発出来る状態でございます、どうぞお乗り下さい」

「はい、失礼します」

 アイシャが馬車に乗り、鞭の音が響くと共にゆっくりと馬車は動き出す。


 月明りに照らされた道を、馬車は駆け抜ける。アイシャとデュークの二人は互いに一言も喋る事無く、静かな空間が生まれている。

「……そう言えば、随分綺麗な姿になられましたね、見違えましたよ」

 静寂を破りデュークがアイシャに話題を振る。

「はい、服屋の店主さんに選んでもらったんです……って聞こえてるのもそうなんですけど、見えてるんですね」

「……首は確かにありません、ですがアイシャ様の仰る通り、見えますし聞こえます。 透明の頭があると思って頂けると良いかと」

「な、成程……」


 会話が途切れ、再び静寂が訪れてから数分、今度はアイシャからその静寂を破った。

「でも……ここまで速くて丁寧方なんですし、いくら死霊種(ゴースト)だからって、本当に誰も利用しないんですか?」

 ふと思い立った疑問を、アイシャはデュークに尋ねる。

「……アイシャ様は、『危険種』と言う言葉をご存知ですか?」

 少し間を空けてから、デュークは聞き返す。

「ごめんなさい、私勉学は全然で……」

「アイシャ様が宜しければ、軽い説明も含めてお話ししますが、どうしますか?」

「……よろしくお願いします」

「かしこまりました」

 アイシャの了承を得たと同時に、話の時間造りの為馬車がほんの少し速度を落とす。そしてデュークは話し始めた。


「危険種はそのままの意味と思って頂くと、まずは結構です」

「とても危険な種族……って事ですか?」

「はい、多種族共生協定において、有害である可能性が高い種族がこれに当たります」

 他種族に対して略奪や殺害を行う種族が、危険種に認定される。当然共生国家に入る事は許されない。

「私達死霊種(ゴースト)も、その危険種に入っているのですよ」

「え……」

「私達はこうして動いてはいますが、一度は死んだ身です。 生前の強い未練の結果再びこの世にいます、私に関しては誰かを送り届けたいと言う未練であったが為に害意はありません」

 だからこそ自分はこの仕事をしているのだと、続けて言った。死霊種(ゴースト)の全員がデュークの様な存在であるのならば話は別だが、そうであるならば危険種には入らない。

「私の様な者は寧ろ数える程しかいません。誰かに強い恨みや悪意を持って、死霊種(ゴースト)になる者の方が多いのです」

「それで……『危険種』に」

「どれだけ普通に振る舞おうとも、()()姿()であるだけで皆様怖がられてしまいます。 見た目と言うのは、それ程に効力を発揮する、そう言う物です」

 そんな事は無い、とアイシャは口に出す事はせず黙り込んでいた。自分自身が外見で判断し怯えていた経験があるからだ。

 ゴブリン(ルドルフ)に、そして死霊種(デューク)に。

「でもそれでアイシャ様が気に掛ける事はありませんよ、怯えてしまうのが普通の反応です」

 アイシャを慰める様に言葉を掛けるデューク。そこで、三度目の静寂が馬車に訪れる。余計に気を使わせてしまったかと、デュークは自分を心の内で少し責めた。



「……私って幸運だったんですね」

「……と、言いますと?」

「だって、怖がってた私にデュークさんは声を掛けて送り出してくれたじゃないですか」

「……!」

 デュークは肩をぴくりと動かし、アイシャの方を向く。

 アイシャはジャニュアに到着した時を振り返って、言葉を続ける。

「もしあの時、何も言わずに見送るだけだったら、今も怖がって何も話せずにいたと思います。 声を掛けてくれたから、ああ見た目は怖くても内面は普通の方なんだって思えたんですよ」

 嘘偽り無くアイシャは言葉を伝える。その表情が、月明りに照らされて曇りの無い笑顔を映し出す。

 恐怖を取り消す要因はあった。馬車はルドルフの言った通り確かに速かった。移動は快適で、全く辛くなる事は無かった。

 それでも、アイシャに声を掛けて送り出した事は決定的であった。

「……少し、眩しいですね」

 デュークはアイシャに聞こえない様に小さくそう呟いた。

「何か言いました?」

「いえそれよりも、もうすぐ到着しますよ」

 デュークの言う通り、馬車の進む先に建物の明りが差す所が見える。ジェントルの明りだ。

 少しずつ馬車の速度が落ちて行き、ジェントルの前で丁度停車する。

「お疲れさまでした」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 アイシャは馬車から降りると、頭を下げて礼を述べる。

「いえいえ、今日はごゆっくりお休みください、それから」

 一息置いて、デュークは言葉を続けた。

「往復代ですが、今後暫くの分も頂いておりますので、ご利用の際はご連絡下さい」

「えっ!? ほ、他のお客さんがもし来たらどうするんですか?」

「……どうせ他に誰も利用しませんよ、あったとしても移動の速さはどこにも負けない自信はありますので、待たせる事は絶対にしません」

「じゃあ……お言葉に甘えて、また乗せて下さい」

「はい、勿論です」

 もう一度、アイシャはぺこりと頭を下げるとジェントルの中へと入っていく。デュークは最後までアイシャを見送っていた。




「ただいま帰りました~」

 すっかり疲弊したアイシャは、気の抜けた声で帰宅を報告した。

「おうおかえり、疲れたろ? 晩飯あるから食ってきな」

 ルドルフの部屋から食事のいい香りが漂い、アイシャの腹を鳴らす。

「頂きます……でも、その前に」

「ん? 何だ?」

「今日一日だけじゃなく、今後暫くの往復代を支払ってくれてありがとうございます! 少しずつお返し出来る様頑張ります」

「……おう、まァ取り敢えず飯食うから、入りな」

「お邪魔します」

 少し戸惑った様な雰囲気をルドルフは見せながら、アイシャを部屋へ入る様促した。アイシャもルドルフの様子を、気にする事無く部屋の中へと入って行く。

「……一日分しか払って無かった筈だったンだけどな、変だな」

 ルドルフの抱いた疑問が、解決される時が来る事は無い。

今回はいつもに比べると長いです。

疲れました。


次回からアイシャちゃんのお仕事探しが本格的に始まります?

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