14『フィーピューアその3』
やっとの思いで更新です。
「お待たせ~!」
駆け足で戻って来るパトラの腕から、服であろう物がひらひらと揺れている。
「はい、じゃあこれ着て頂戴!」
「わ、分かりました」
一時間前の勢いを取り戻したように、パトラはアイシャに服を手渡した。
それから数分後、更衣室のカーテンが開き、アイシャはパトラの手渡した服を身に付けていた。
全体的に白と黄色の二つの色のみで、スカートの裾は膝下くらいの長さの特段装飾はこさえずにワンポイントで白のガーベラが刺繍された、チロルと言う名のデザインの衣服だ。
「あの……ど、どうでしょうか?」
おずおずと問いかけるアイシャ。それに対して、パトラはじっとアイシャを見つめ続けているだけだった。
「あの……パトラさん?」
今一度呼び掛けたが、返事が無い。何かまずい事でもあったのかと、アイシャが不安そうな表情を浮かべていると、パトラが突然息を大きく吸い始めた。
「うん……うん! これよこれ! ん~可愛い~!!」
パトラは何度も頷くと、アイシャを力いっぱい抱き寄せる。
「え、えっと……」
「派手に着飾るよりも、シンプルなデザインで合わせてほんの少し装飾を添える。 素直なアナタだからこそ似合う物だわ」
パトラはそう言いながら、アイシャにスタンドミラーで自身の全身を見る事が出来る様にした。薄汚い印象を受けていた自分はもうそこに無く、生まれ変わった様にアイシャは思えた。
「これが……私……」
「見違えたでしょう?」
「はい、とっても……」
胸に手を当てて、アイシャは鏡に映る自分の姿を微笑みながら眺めた。
「気に入ってくれたみたいだし、同じ感じの物をもう何着か用意してくるわね」
自分の姿を見つめ続けるアイシャに一声掛けて、パトラは更衣室を後にした。
数分後、パトラは手に服を数着抱えて戻って来た。
「お待たせ、持って来たけどまだ他に選んだりする?」
「いえ、これで大丈夫です」
「ならお会計するわね、それとその服はそのまま着て帰るといいわ。 折角買ったのに、ボロボロの服を着直すのもね」
「で、ですよね……」
会話しながらも、パトラは服を紙袋に手早く入れて行く。
「それで代金なんだけど、合計で9千ゴルだけど大丈夫かしら?」
「大丈夫です」
そう言いながらアイシャは巾着袋の中から、ピッタリの額を手渡した。
「はい、確かに受け取ったわ。 また何時でも来てね」
金を受け取ったパトラはアイシャを店の出入り口まで案内した。
「選んでくれてありがとうございました!」
「あら、それはアタシの台詞よ。 こちらこそありがとうね、いい仕事が出来たわ」
深々と頭を下げて礼を述べるアイシャに対して、パトラは満開の笑顔で礼を返した。
「あの、最後に一つ聞いてもいいですか?
「ええ、いいわよ」
「パトラさんはその、どっちなんですか?」
「どっちだと思う?」
「えっと……その……」
「ひ・み・つ・よ」
怪しげな笑みを浮かべながらパトラはウィンクをする。
「そういう事なら……深くは聞かない事にします」
「ふふ、気を付けて行くのよ」
ぺこりと頭を一つ下げると、アイシャはフィーピューアを立ち去った。
これにて服屋フィーピューア編は終了です。
ネタバレするとこの後アイシャちゃんは帰ります。