12『フィーピューア』
最近暑くなってきました。
自分の汗の臭さに倒れそうです。
数ある多種族共生国家の中、最も多くの種族が住み、種族の文化が混在している国、それがジャニュアである。日々様々な種族が行き交い、活気に満ち溢れている。
アイシャはルドルフに言われた通り、ジャニュアの西部にやって来ていた。
「さあ寄ってらっしゃい、今日は採れたての果物が盛り沢山だよ!」
「ディッセルで捕れた新鮮な魚だよ! 今晩のおかずに一つどうだい!」
「これ一つくださいな」
「あいよ! 毎度あり!」
騒がしい程、店主達の元気な呼び込みの声が飛び交う。
「わぁ……」
東部からほとんど他の区画に足を運ぶ事のなかったアイシャは、思わず声を漏らした。
「えっと、あの、すみません女性物を取り扱っている服屋を探しているんですが、知りませんか?」
西部の事を全くと言っていい程知らないアイシャは、通りすがった男性に服屋の場所を尋ねた。
「それならそこの店が女性物も取り扱っているよ」
男性が指した方向には、『服屋フィーピューア』と書かれた看板を掛けた建物があった。
「ありがとうございます」
アイシャは一礼すると、服屋の方へと向かって行った。
服屋フィーピューアは、西部で唯一の男性女性そしてありとあらゆる種族の服を取り揃えている。取り扱っている服の数だけで見ると、ジャニュア全体で見ても数える程しかない店である。建物の規模も大きく、千着を超える服が一度に陳列されている。
フィーピューアの扉をアイシャが開くと共に、来店を知らせる鈴が店内に鳴り響く。
アイシャが中へ入ると、店主であろう髪の長い綺麗な女性らしき人が丁度アイシャの方へ振り返った。
「あらいらっしゃい」
「えっ……」
但し、その女性から低く野太い男性の声が聞こえ、アイシャは固まった。
「初めて見るお客さんじゃない、何をお探し? これなんかは今年の流行よ、あなた可愛らしいから何でも似合う……ってあら、どうしたのかしら?」
「へ!? いえ、何でもありません!」
女性?の勢いに押し負けてたのか、アイシャは首をブンブンと振った。
「あらそう、アタシはこの店の店主のパトラよ、それでどんな服をお探し?」
「私はアイシャって言います、服は……えっと、何が良いかとか全然分からなくてですね……」
苦笑し、肩を竦めるアイシャ。
衣服に金を掛ける余裕なんて無かったアイシャは、衣服の知識にとことん疎くなっていた。
「そう……なら、アタシに任せなさいな」
パトラはウィンクをすると、アイシャの手を引いて店内に設置されている更衣室へと連れて行った。
「アタシが貴女の代わりに、選んであげるわ!」
登場するキャラクターが一々濃くさせたくなる症候群にかかっている様な気がします。