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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第82.5話◆

今回は、全て一葉の心の声です。

普段見えない、友達の視線で優子の姿を描いています。

 最近優子の様子がおかしい。

 確かにちょっと変わった娘だし、周りの知らない誰かから見たら、前からどこかボーっとして掴みどころが無いように感じるようだけど……

 でもあたしには判る。

 ボケッとしているようでも、あたしのさり気ないボケにツッコミを入れる隙の無さは彼女の持ち味だ。

 でもやっぱり最近はどこか上の空で、何だか笑顔もほろほろと淋しく見える。

 ふと気付いて見ると、ゴミ箱や掃除用ロッカーを無心で眺めていたり。

 無理も無い……

 学校へ毎日来る生活は、それでなくても意外とパワーが必要なのに、それにくわえて苦悩や苛立ちを心の隅に隠し持って生活しているのだ。

 あたしもそんな時期があったから判る。

 ただ、あたしの場合は全部自分自身の事だったから、自分の中で少しずつ消化して消してゆけばよかった。

 でも彼女は、相手があっての事だ。

 あたしの次に日常を共にしていた高森忍が、あんなことになってしまったのだから。

 しかたがない……



 きっと彼女自身、嫌々付き合っているフリをしているうちに、何時の間にか彼をかけがいのないヒトと考えるようになったんだ。

 前に訊いた時はまだ何もないって言ってたけど、もしかしたらもうキスぐらいはしてるかもしれない。

 でも、もうしそうならちょっと嬉しい。

 だって優子はどこか冷めていて、男子を男として見ようとしないところがあったから。

 最初はあたしも高森の事ちょっといいって思ってたけど、やっぱりあたしが見るのは彼の華麗な容姿だけで……

 でも優子はたぶん違うと思う。

 二年になったばかりの頃の席は、優子の斜め後ろに高森がいた。

 なのに彼女ったら全く高森に興味を示さないし、ちっとも話しをしない。

 席の遠かった桜井美登里なんて、宝の持ち腐れだって密かにぼやいてた。

 でもまさか、高森が斜め前にいる優子を何時も見ていたなんてホント信じらんない……

 奴は彼女の何処に惚れたんだろう。

 本当に惚れてるのか、悪戯の一環なのか最初は疑ってたけど、どうも高森自身も本気らしい。

 いや……冗談のつもりが本気になったのかな?

 あまり大勢と関わらない優子は周囲から誤解されてる部分も多いけれど、本当は無口でもノリの悪い女でもなくて、ごく普通の楽しくてカワイイ女の子だから。

 きっと高森もそれに気付いたのかもね。

 だから凄く気になるんだ。

 普段あまり自分の事は言わない優子だけに、笑っていても虹彩の奥にはどこか悲しげな光が見え隠れしてるの……

 でも、あたしから何かを言ったりはしないよ。

 彼女はそう言うの好きじゃないって知ってるから。

 もしかして、最近何だか心を交わしちゃったっぽい安西ひとみも、優子のそんな部分に気をきかせてるかもね。

 彼女はもともと頭イイから、そう言うの感じ取るのも早いかも。

 ほら、今も知らないフリして教室の対角距離から少しの間優子を見ていた。

 昔はやたらキツイ女だと思ってたけど、最近はちょっぴり優しげな眼差しを見かける。

 そういえば、安西は最近クラスで話す友達増えたかも。

 それともやっぱり、同じ男を好きになったりすると気持ちが共鳴しちゃうのかな?

 あたしが安西と共鳴しないのは、きっと篠山を本気で好きだったわけじゃないんだ。



 なんだかこうして考えてると、あたしってもしかして本当の恋をしてないのかなぁ。

 何だか二人が羨ましいよ。

 でも、本気で恋するって事は、本気で傷つく覚悟がないとね……

 あたしにはそんな覚悟はないし。

 なんだかんだ言っても、優子も安西もエライよ。



 高森の容態もよく判らないし、今はただ友達として優子を見守るしかないけれど、何かあれば……あたしが応援できる時が巡って来たら……きっと背中を押すよ。

 だって何時も傍にいて何もしてあげられないなんて、やっぱ辛いじゃん。

 だからって何時も気遣うフリするのも、ちょっと違うと思うし。

 今はできるだけ何時も普通にバカ話しとかして、気分を紛らわす事しかできないけど……

 本当は里香のほうがバカ話しは得意なんだけど、あの娘はマジ彼に夢中でそれどころじゃないしね。

 でもそんなノロケ話しを聞くと、それはそれで優子も気が紛れるのかもしれないから、里香も貢献してるのかしら。

 こんな事考えてるあたしも、ちょっとおかしいのかな……

 教室を眺めると、何時ものうつろいだ午後の陽射しに溶け入るような雑踏が、何時もと変わらずに響き渡っている。

 その片隅から近づいて、彼女はゆるゆると笑って時々自分から声をかけてくる。

「一葉、どうしたの? ボーっとしてさ」

 ほら、一見は普通なんだけどさ。

 ……ていうか、あんたに言われたくないよ。優子。





いつも読んでいただき有難う御座います。

次回から本編に戻ります。

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