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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第8話◆

 学校では朝のホームルームが始まっていた。

「あぁ、今日は休みはいるか?」

 優子のクラス。担任の柳原が少しゆっくりした口調で言った。

 一応ぐるりと教室を眺めると

「みんないるな」

 柳原が出席簿にチェックを入れようとしたその時

「先生、五十嵐が来てませんけど」

 声を出したのは高森忍だった。

「あっ、そうだ。優子いないや」

 思わず気付かなかった一葉が言った。

 教室は少しだけざわめきが起こった。それは、優子の席が空いているからではない。

 最初にそれを指摘したのが、忍だったからだ。

 中には気付いていても面倒だから言わない連中もいたし、本気で優子のいない事に気付かない生徒もいた。

 一葉は、窓際の列の丁度真ん中にいる忍を見ていた。

「おお、そうか。あいつどうしたんんだ? 誰か知ってる者いるか?」

 ざわめきは消えなかったが、だれも優子がいない理由は知らない。

「まあ、いいか」

 柳原はそう言うと出席簿を閉じて、連絡事項は特に無いからと教室を後にした。

 丁度柳原が廊下に出ると、優子がこそこそと立っている。

「なんだ、お前」

「あ、あの……駅で靴が………その……」

「五十嵐、遅刻1な。早く教室に入れ」

 柳原は特に叱る様子も無くそう言って、廊下を歩いて行った。

 ――はあ―――遅刻だよね、やっぱり。理由言っても仕方ないしね。

 優子は教室の後ろのドアをゆっくりと開けた。

 一瞬クラス全員の視線を浴びる。

 ――うわぁぁぁ! だから遅刻なんていやなのよぉ。もう……

 しかし、一部の生徒の視線は何だかおかしかった。

 何時までも優子を目で追うような姿は、今までにない事だ。

 ――な、なに。この刺さるような視線は。別に朝はクラス委員の仕事なんて無いし……なんかあたしヤバイ事したか?

 優子は視線を気にしながら、真ん中より少し廊下寄りの列にある一番後ろの自分の席に着いた。

 さすがに一葉も近づき難いほど、幾つかの視線は優子を見ている。

 その中には安西ひとみの視線も含まれていた。



 直ぐに1時間目の授業が始まり、それが終わった休み時間、一葉が優子に近寄ろうとすると、それより早く安西が歩み寄っていた。

「珍しいよね、優子が遅刻するってさ」

「そ、そう?」

「だって、ギリギリでも何時もちゃんと来るじゃん」

「今日は、たまたま……ちょっとね」

 ――な、なんであんたがいきなり話しかけてくるわけ? ほとんど喋った事ないじゃん。なになに、このクラスもいじめでも始めるのか? 最初のターゲットはあたし?

 優子は困惑して、座ったまま安西ひとみの姿を見上げた。

「忍と最近仲いいの?」

「はあ?」

 ――なんだ、こいつ。なんでいきなりそんな事訊くのさ。

「ま、いいけど。少しくらい夢見れないと、学校も詰まんないもんね」

 安西はそう言ってフフッと笑うと、自分の席に戻っていった。

 ――何あれ? 意味解んない……なんで、あたしが学校で夢とか見ちゃうわけ? 1時間目はちゃんと起きてたぞ。



 2時間目が始まって直ぐに、優子に小さなメモが回って来た。それは一葉からのものだった。

 優子は存在感が薄いだけで、別にみんなに嫌われているわけではないので、手紙やメモも普通に回ってくる。

 優子は前に座る娘の背中に隠れるように、回って来たメモを開いてみた。

『高森とはどうなってるの?』

 それだけ書かれていた。

 ――な、何だ? みんな何か知ってるのか? 昨日高森と会った事を誰か知ってるの?

 優子は首をすくめたまま、辺りを見回す。が、別にもう何時ものクラスの雰囲気だ。

 ふと廊下側の列の真ん中辺りに座る一葉が振り返って優子を見ていた。

 目が合ったので、優子は肩をすくめて首を傾げるジェスチャーをした。

 メモ用紙には『イミフ』と書いて再び一葉にまわしてもらった。

 その時前に座る武山睦実が振り返る。

「朝の出席の時さ、高森が、あんたがいない事先生に報告してたよ。優子、最近高森と仲いいの?」

「そ、そんなわけないよ……」

 ――なんだ? なんで高森が?

「じゃあ、何で高森があんたがまだ来てないなんて言うのよ」

「そんなの……知らないよ」

 ――つうか、そんな事他に誰か言ってくれる奴もいないのか? そんなにあたしの存在は薄いのか? でも、何で高森は言ってくれたんだろう……

 優子は窓際の席にいる高森忍をこっそり見つめた。

 暗闇に消える彼の背中が蘇えった。



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