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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第63話◆

 低い灰色の空が頭上に広がり、今にも氷雨が零れ落ちそうな気配があった。

 テストも今日を含めてあと二日。

 優子は休みに入ったら忍とあまり会えない憂鬱から僅かながら開放されていた。

 触れ合う身体の一部は、何日分もの彼を心に貯蓄できる事を知った。

 その分また会いたくなるけれど……

 しかしこの日、高森忍は学校に来なかった。

「高森どうしたんだろうね」

 一葉が声をかけてきた「優子、何か知ってる?」

「ううん、知らないよ」

 ――テストの日に休むなんて……昨日、寒空の下で待たせちゃったから、風邪でもひいたのかしら……

「昨日会えたの?」

「うん……夜に会った」

 優子は昨夜の事を、ごく簡単に一葉に話して聞かせた。

「そう、よかったじゃん」

 一葉はそう言って笑うと「やっぱりちゃんと知ってたんだね」

 ――いや、知らなかったらしい。しかも、安西に救われちゃったよ……

「いや……うん。そうだね」

 優子は少し曖昧に応える。

「ねぇねぇ、何貰ったの? 高森ん家ってけっこうお金持ちなんでしょ」

 一葉はそれが訊きたかったのだろう。興味深々だ。

「そ、そんなの、内緒だよ。それに、お金持ちなのは、親だよ」

「まあ、そうだけどさ」そう言って一葉は

「昨日は、何でもなかった? 彼」少し怪訝に言う。

「別に、普通だったよ」

 優子のほうが、よほどわけが判らない。

「でも変ね。高森が試験日に休むなんてさ……安西なら、何か知ってるかな?」

 一葉は真顔で優子の机に寄りかかった。

「どうだろう……」

 優子もチラリと安西を見る。

 そうしているうちに、一時間目のテストが始まった。

 優子は何度も忍の机に視線を向けたが、いないのは確かだ。いくら見つめたって変わりはしない。

 ホームルームの時に担任が高森の欠席を告げた。

 今回のテストはついに一位の座を降りるのかと、僅かに教室はざわめいた。

 女子の口からは、微かに心配の声が聞こえた。

 しかし何故? 優子の頭を疑問だけが過る。

 今まで優子が知る限り、彼がテスト中に休んだ事はない。いや、普段でもほとんど病欠などないと記憶している。

 もちろん、以前は彼の事など全然気にかけてはいなかったが、クラス委員の仕事をしていると欠席者に気を配る事も多いのだ。

 ――考えても仕方ないよ……

 優子は小さく息をついて、答案用紙に目を移した。



 * * *



 三時間のテストが終わって優子は帰り支度をしていた。

 ふと人の気配を感じて顔を上げる。

「忍、何か言ってた?」

 安西が目の前に立っていた。

「はあ? どうして?」

 ――昨日のアレの事か?

 優子は笑顔を作って「あっ、昨日の事……ありがとう」

「そうじゃないってば」

 安西は眉間にシワを寄せて、少し険しい表情をした。

「今日の事よ。忍、優子に何か言ってた?」

「今日? な、何も」

 優子はカバンのジッパーを閉めながら「風邪かな?」

「あんたって、ほんっとお気楽でのん気に生きてるのね」

 安西は髪を振って優子の前から立ち去ると、そのまま教室を出て行った。

 ――なによ……なんであたしがお気楽? それと高森の休みと何の関係があるのさ。

 安西が教室から出たのを見て、一葉が寄って来た。

「どうしたの? 久しぶりに安西になんか言われてたね」

「しらないよ。生理じゃないの?」

 優子はそう言って立ち上がると「帰ろう」



 駅で電車を待つ間のほんの少しの間、優子はやはり安西の言葉が気になっていた。

 ――なんであたしがお気楽でのん気なのさ。確かに当たらずも遠からずだけどさ……それと、今日高森が休んだのと何の関係が在るって言うの? 意味わかんない。

「優子、高森にメールしてみた?」

 隣で一緒に電車を待つ一葉が言った。

「えっ、ま、まだしてない」

「してみなよ」

「うん、判ってるよ」

 ホームに入る電車の騒音にかき消されながら、彼女は応えた。

 優子は地元の駅で降りると直ぐに、忍宛にメールを打つ。

 しかし、家に帰るまでに返信は無かった。

 途中、直接彼の家に寄ってみようとも思ったが、結局真っ直ぐ自宅へ帰ってきてしまった。

 近いからと言って、直ぐに家を訪れるのは何だか馴れ馴れしいような気がした。

 優子は部屋に上がってベッドに腰掛けると、暫くそのまま彼からの返信を待つ。

 ――風邪、酷いのかな……あのお母さんはちゃんと看病してくれるのかしら。あたしたちの関係は、何処まで馴れ馴れしくできるんだろう。

 優子は立ち上がると制服を脱いでジーンズに着替える。

 一度ベッドに横になったが、とりあえず机に向って教科書を広げた。

 ジャージではなくジーンズを履いたのは、何時でも外に出られるように。

 優子は忍の家を見に行こうかと何度も思ったが、結局日が暮れるまで机に向っていた。





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