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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第61話◆

 夕飯はケーキ。いや、ケーキ以外の料理だってもちろんあった。

 フライドチキンにお寿司。

 18本のローソクに火を燈して部屋の明かりを消すと、食卓は淡いオレンジ色に染まる。

 父親の孝之助が、自慢のクラシックハーヴで短いハッピーバースデーを奏でる。

 この時ばかりは、彼が家族からちょっぴり脚光を浴びるひと時だ。

 何処か懐かしく、何故か胸の奥がキュンッとする瞬間。

 いろんな事があった十七歳が終わった……十八歳……

 ほんの少しだけ大人の仲間入り。

 さり気なく男の子と出かけるようになった日常は、ふと思うと自分的に何処か現実離れしているが、重ねたデートは紛れも無く現実だ。

 夏までは思いもしなかった日常。

 少し大人になった自分には、これからどんな事が待っているのだろう……

 そんな思いが優子の心の中を通り過ぎる。

「姉ちゃん、早く火消せよ。俺、腹減ったよ」

 直樹が言った。

 ――ったく、人がせっかくちょっぴり感傷に浸ってるのに。

 優子は18本のローソクをほぼ一気に吹き消した。

 みんなで拍手をすると、父親の孝之助がすかさず電気を点ける。

 この瞬間、何時もの食卓に帰る。

「優子も、もう18かぁ」

 孝之助が目を細めて、しみじみと言った。

「何だか小学校から変わらないわよね、この娘」

 母親の杏子がそう言いながらケーキを一端テーブルから退ける。

 ――小学から? せめて中学頃からって言ってよ。ていうか、胸だってちょっとは大きくなったし、身長だって伸びてるって……

「そんな事無いよ。あたしだって、いろいろ成長してるんだから」

「そう言えば、最近ちょっと女っぽくなったな」

 孝之助は茶化すように言って、軽い笑い声をたてた。

 直樹はテーブルの料理を次々に口へ放り込む。

「まあ、姉ちゃんにとっては怒涛の年だったしな」

 ――なんだよ怒涛って? 確かに男の子とこんなに接近して日常を送るようになったのは初めてだけどさ……ていうか、アンタに言われたくない。

「何? 怒涛って?」

 杏子は少しテーブルに身を乗り出し、興味に満ちた視線を優子に送った。

 何処か見透かしているような母親の視線……何も言ってはいないが、はたして何処まで知っているのだろうか。

 ――お母さんは、何か気付いてるのかな……お父さんは全く知らないだろうな。あたしが高森とキスした事とか……

「な、何も無いよ。別に怒涛な事なんて無いんだから」

 優子はそう言ってフライドチキンに齧りついた。



 直樹はジュースを飲みながらまだケーキを食べている。

 優子はあまりお腹をイッパイにしてしまうと眠くなるので、そこそこで部屋へ戻った。

 明日の分のテスト勉強が残っている。

 机の前に座って息をつくと、つい携帯電話を掴んで着信を確認する。

 何も無い……そんなの着信ランプで直ぐ判るのに、わざわざ携帯を開いて確認する。

 ――やっぱり一葉にそれとなく言ってもらえばよかったかな……あたしの誕生日。

 その時、携帯にメールが着信した。

 ――き、来たっ! て、何コレ……

 着信は忍ではなかった。彼からの着信は液晶に名前の表示が出るのだ。

 メールを開くと、篠山からバースデーメールが入っていた。

 ――なんで篠山? ていうか、どうしてアンタがあたしの誕生日知ってるのさ。意味ないんだよっ!

 優子は思わず深い溜息をついて、仕方なく教科書を広げた。

 ノートを広げてテストに出る箇所をチェックするが、どうにも身が入らない。

 すると、再びメールの着信だ。

 ――た、高森だ!

 液晶に忍の名前が表示された。優子は急いでメールを開く。

『誕生日おめでとう! 今、ちょっと時間ある?』

 ――あるある、めちゃくちゃ時間作るよっ

 優子は思わず、主人を待ちわびたビーグル犬のようなスピードで返信してしまった。

 ――しまった……何時も3分以上経ってから返信してたのに……まあ、いいか。

 再び返信が届く。駅前の公園で待ち合わせをする事になった。

 忍は最初、裏の小さな公園を待ち合わせに選んだが、あそこは直樹が舞衣と会うのに使っている。

 姉弟そろって同じ公園では、何だか情けない。

 優子はジャージから急いで私服に着替える。一瞬下着をチェックする自分に、思わず呆れた。

 ――下着は関係ないっつうの……

 そう思いながらも、結局お気に入りの物に着けかえる。

 時計を見ると九時半を過ぎていた。

 足音をけして素早く階段を下りると、玄関へ出る手前で母親に出くわす。

「あ、ああ……ちょっと出かけてくるよ。直ぐ戻るから。勉強もあるしさ」

「こんな時間にミニスカートで? 外寒いわよ」

「あ、そ、そうね。でもタイツ履いてるし……」

 優子は思わず苦笑すると「コート着てるから、これで平気」

 杏子はたたんだ洗濯物を抱えながら目を細めて笑う。

「ゆっくり出てらっしゃい。勉強なんて徹夜でもすれば何とかなるんでしょ」

 ――いや……徹夜はしたくないけど……

「う、うん」

 優子は玄関のドアを開けると小さな声で「行って来ます」

 父親には気付かれたくなかった。




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