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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第60話◆

中間あらすじ

優子は忍に誘われるまま、その仲を特別なものへと変えていった。

そんな時に転校生に気に入られて付きまとわれる。

しかも、彼は忍の知り合いで、元ヤクザの息子?

優子の周りは、喧騒に満ちていた。


 優子はバーバリーのマフラーを首に巻いて、学校指定のPコートを羽織った。

 玄関を出た瞬間、吐いた息が白く凍った。

 昨日とは次元の違った冷たい空気に思わず肩をすくめる。この冬一番の寒さだった。

 12月に入り、今日から期末試験。

 そしてもう直ぐ優子の誕生日でもある。正確には明後日。12月6日が彼女の十八才の誕生日だ。

 試験の真っ只中に誕生日を迎える彼女の場合、翌日のテストの事で頭がイッパイで誕生日を堪能する余裕が無い。

 母親は去年もケーキを用意はしてくれたが、それらを半ば義務的に食べたら後は勉強だ。

 学年で真ん中をキープする為には、それなりに頑張らなければいけない。

 中学の期末試験はもう少し後なので、直樹は優子以上に料理を堪能しているようだが……

 そして試験が終わればもう学校は休みだ。

 憂鬱な要素はまだ在る。

休みになったら、なかなか忍とは会えないかもしれないと優子は思っていた。

 教室にいれば必ず彼が視界の何処かに入ってくる。

 言葉を交わす機会もあるし、彼から誘われるチャンスも多い。何も無くても自然に存在する空間は何時も共有しているのだ。

 しかし休みに入ったら……もちろん、忍はメールもくれるだろうし、何処かへ行こうとも誘って来るだろう。

 しかし、それ以外は顔を合わせないのだ。

 意味も無く彼の顔を見る事ができないし、自分の姿も彼の瞳には映らない……

 優子はそんな事を考えるのが嫌だった。

 今までは学校が休みになればそれだけで嬉しかったはずなのに、何時の間にか忍の姿を見ない日は何だか物足りなくて、ちょっぴり淋しかったりする。

 ――恋人同士なら……休みの日も毎日会うのかな……

 優子は門扉を出てひとつ白い息を吐くと、何時ものように歩き出した。



「ねえ、高森は知ってるの?」

 早々と試験が終わって帰り支度の中、一葉が優子に声をかけて来た。

「何が?」

「アンタの誕生日よ。もう直ぐでしょ」

 ――それなんだよ。アイツ、あたしの誕生日知ってるのかなぁ……でも、自分から言うのも変だよね。もっと前に言っておけばよかったのかな。

「さあ、知らない」

 優子はサラリと応える。

「あたしがさり気なく言ってあげようか?」

 ――何処がさり気なくなんだよ。二日前にわざわざアンタが言ったら、何だかこんたんミエミエじゃない? そんなの絶対イヤっ。

 優子はカバンを手にして「い、いいよ別に」

 さり気なく忍の姿に視線を送ると、彼は男友達と何やら盛り上がっていた。

 ――アイツ、男連中と何楽しそうに話してるんだろう……

 優子と一葉が教室の出口に向って動き出すと、忍はそれに気付いたらしく二人に軽く手を上げて見せた。

「何か、それらしい素振りとか見せた?」

 階段を下りながら一葉が言った。

「素振りって?」

「だから、何か欲しい物ない。とか訊かれてない?」

 ――全然訊かれてないよ……そんな気配があれば苦労しないって。

「別に、そんなのないよ」

「じゃあさ、やっぱ知らないんじゃない?」

「いいよ、知らなかったらそれで」

「あんたも素直じゃないね」

 一葉はそう言って笑うと、軽く身体をぶつけてきた。



 昇降口で安西を見かけた。

 ――アイツ、篠山と待ち合わせだな。

 優子はわざと素知らぬ振りでそこを通り過ぎる。もちろん、向こうも素知らぬ振りだ。

「ねえ、安西って本格的に篠山に乗り換えたの?」

 昇降口を出てから、一葉が身体をくっつけて来た。

「何でよ?」

「だって今のアレ、どう考えても帰りの待ち合わせでしょ?」

「知らない。それに何よ、乗り換えたって」

「だって、ずっと高森忍に一途だったんでしょ? 安西はさ」

「一途……そう……なのかな。でも、気の合う人って一人じゃないしさ。それに……高森と安西は一度別れちゃったわけだし」

 優子は何となく無理に安西を庇うみたいで、何だかうなじがこそばゆかった。

「あれかな? 優子にかなわないって思ったのかな?」

 一葉は楽しそうに笑った。

 ――えっ? そ、そうなのか? でも、そう言う事なのかな?

「まさかぁ。あの女があたしに叶わない事なんて無いじゃん」

 優子は冗談ぽく笑って「まあ、笑顔はあたしが上かな」

「アンタ、安西の弱み握ったとか?」

「まさか。アイツ弱み見せないじゃん。どうせ篠山の押しが強かったんじゃない」

 優子は、どうしてか零れそうな含み笑いを堪えて、空を仰いだ。

 篠山といる時の、安西のちょっぴり優しい笑みは、優子から見れば少し滑稽なのだ。

 一葉は少々残念そうに「篠山って、変わり者だしね」

 肩に掛けていたカバンを背中に背負い直した優子は

「安西も変わってるからちょうどいいのかもね」

 一葉もカバンを背中に背負うと、ストラップをパチンと弾いて

「アンタと高森も充分変わってると思うけどね」





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