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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第52話◆

「俺、来週転校するんだ」

「そうなの?」

「親父が九州に転勤でさ」

「ヤクザに転勤なんてあるの?」

「遠征とかって言ってた。お袋が付いて行きたいらしくてさ」

「そうか……」

「半年しかこの学校にはいなかったけど、忍に会えて楽しかったよ」

「いや、俺の方こそ楽しかった」

 夕焼けが辺りの景色を琥珀色に染めて、二人の少年の影は空き地の隅に長く伸びていた。

「他の連中には言わないで行くよ」

「なんで?」

「何か、わざわざ伝えたいヤツもいないし。男子の半分は殴っちまったしな」

「俺だって殴られたぜ」

「その分、殴り返したろ」

 二人の少年は顔を見合わせて同時に笑った。

 暮色に染まる空に、子供らしい高らかな笑い声が響いていた。



 * * *



 優子は一葉と学食のテーブルで弁当を食べていた。

 かなりの席数がある学食は、持参した弁当を食べに来る生徒も意外といる。

 風が冷たくなると屋上や校庭には行き難いので、教室とは別の場所で食事をしたい生徒が、必然的にやって来るのだ。

 もちろん、その場で好きな飲み物をチョイスできる利点もある。

 横のテーブルにいた連中がいなくなると、少し離れた場所に篠山の姿が見えた。

「一葉さ、B組に親しい娘いる?」

 優子が訊いた。

「いたら篠山の事もっと情報収集できてるよ」

 一葉はそう言ってペットボトルのお茶を口にした。

 優子も何度か篠山に声を掛けられて話はしているが、実際彼がどんな男なのかはよく判らなかった。

「ここ、いい?」

 声を掛けられて優子と一葉が見上げると、忍が立っていた。

 ――な、なんでここで?

「いいよ」と言ったのは一葉だ。

 忍は優子の隣に腰掛けると、割り箸を小気味よい音で割る。

 正面にいる一葉が気になって、優子は忍に話しかけられない。

 忍は天ぷらうどんを一口啜ると

「一葉は知ってるんだろ?」

「な、何を?」

「前に優子をつけてたじゃないか」

「えっ、き、気付いてたの?」

「ああ、一応ね」

 忍はそう言って再びうどんを口へ運ぶ。

 優子は思わず忍を振り返った。

 ――な、なんで言わなかったのよ。あたしは全然気付かなかったのに。

「別に無理に隠す事でもないし、わざわざ言う事でもないからな」

 忍は視線を食事に向けたまま言った。もちろん、一葉に向って。

「うん、それは判ってる。あたしも別に誰にも話してないし。あたし自身が気になっただけ」

 ――なによ、二人で意気投合して。あたしと高森の事なのにおかしくない? それって、おかしくない?

「で、二人は結局付き合ってるわけ?」

 ――一葉、調子に乗りすぎだよ。

 忍は冷たい水を一口飲むと、チラリと優子を見て

「さあ、それはどうかな?」

「へぇ、二人は付き合ってるわけじゃないの?」

 ――えっ、やっぱりあたしたち付き合ってるわけじゃないの?

 しかし、今の声が自分たちの後ろから聞こえた事に気づく。

 優子と忍は振り返り、一葉は視線を上げた。

 そこには篠山雄二郎が立っていた。

 忍は彼の姿をマジマジと見上げると、少し不安げに、いかにも自信なさそうに眉を潜める。

「おまえ、雄二郎か?」

 それを聞いた篠山は「やっぱ、忍か」

 二人は本人だと確認し合うと、お互いに何度も肩や腕を叩きあって笑った。

「ちらっと見た時からそうじゃないかと思ってたんだ」

「B組の転校生って、お前か。全然判んなかったよ」

 転校生だった篠山は小学校3年生の時に半年間忍と同じクラスで過ごした。

 その後彼は再び転校の為、遠くへ行った。

 みんなに好かれようとあらゆる努力をしていた忍と自由奔放な篠山は、学校では全く相反した立場にいた。

 しかし、何故か二人は気が合った。

 心の中の何処かに同じ匂いを感じたのかも知れない。

 それは微かな孤独と、僅かな物悲しさ……

 だが篠山は喧嘩っ早い為、転校早々クラスでトラブルを起こした。

 止めに入った忍も何度か彼に殴られ、そのうち何回かは殴り返している。

 しかしそんな篠山の校内での暴走を止められるのは、何時の間にか忍だけになっていた。

 型破りで自由な篠山雄二郎の姿を、忍は心の何処かで羨ましいと思った。

 誰からも好かれ、尚且つ行動力のある忍を、篠山も密かに羨んでいた。

 そんな二人は、お互いを認めていたのかもしれない。

 ――こ、この金髪男と高森が友達?

 優子にはにわかに信じがたい事実だったが、一緒にいた一葉には美男二人の輝かしい姿だけが瞳に焼きつくほどに印象的だった。




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