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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第47話◆

 学園祭が終わって間も無く、中間考査が始まる。

 優子は意外と試験前、試験中には勉強する方だ。

 その割には中盤の順位から上にはいかないのだが、下にも行きたくないのでマイペースで試験の時くらいは勉強する。

 一葉は優子と大差なくて、上に行ったり下に行ったり、美菜は何時も優子より少し上で、里香は少し下のようだ。

 とは言え、試験の成績順位というのは上位20位以外は個人にしか知らされないから、それぞれの詳しい試験結果は解らない。

 ただ、忍が何時も1番なのは確かで、今回もそれを追うように安西が2位だろう。



 この日、優子は1本早い電車に乗る為に、足早に家を出る。

 もう直ぐ試験なので、今日から忍は朝練が無いはずだ。

 駅までの道のりも、何処かで彼と出くわすのじゃないかと気が気でない。

 しかし、優子は忍の姿を見かけないまま、駅の改札まで辿り着いてしまう。

 ――こんな時に限って、逢わないもんなのかな。

 優子は改札口を抜けると、振り返って周囲を見渡した。

 忍どころか、知った顔なんて何処にもいない。

 ――べつにいいじゃん。何時でも会えるんだし。

 彼女は何時もよりゆっくりと階段を下りた。

 後からOL風の女性がコツコツとヒールを鳴らして追い越してゆく。

 サラリーマンも二人追い抜いていった。

 電車の到着アナウンスが流れている。

 ホームに電車が入ってくるのが見えて優子も少しだけ足早になるが、そんなに焦らなくても乗れるタイミングだ。

 万が一逃しても、次がある。

 その時ポンと肩に誰かの手が触れて慌てて振り返った。

「急がないと乗り逃がすぞ」

 ――た、高森。

 忍だった。

 思わず立ち止まる優子を、追い越した忍が振り返る。

「どうした? 早く行こう」

「う、うん」

 優子も忍について小走りに駆けると、彼と一緒に電車に乗り込んだ。

 ふうっと軽い息をついて忍は

「今日は早いんだね。珍しい」

 そう言って笑う。

 朝っぱらから、爽やかな笑顔だ。

 ――あ、あんたに会う為にね……なんて言えるわけないじゃん。

「う、うん。たまには気分転換とか思って」

 ――なんだそれ。そんな理由あるか? じゃあ、今まで一度も気分転換してないって。

「へえ、よかったよ。今日から朝練無かったからさ」

 忍はそう言って、優子を見てから窓の外に視線を移した。

 ――フフ、情報収集済みよ。ていうか、よかったって、どんな意味なんだろう……

 優子は忍の横顔を見てから窓の外に顔を向ける。

 胸の内側で温かい泉が湧き出るような気持ちになった。

 ――やっぱりそうだ。高森といるとワクワクするよ……これって……そういう事なの?

 でもどうして? 彼の何にこんな気持ちになるんだろ……

 優子は流れる景色の中で、何度も忍をチラ見していた。

 何時もは何も感じない電車が奏でるf分の1の振動音が、やけに心に響く。

「試験勉強は、してる?」

「え? うん。少しね」

 ――と思いながら、たいしたやってないんだよ。

「高森は? やっぱりかなりやってる?」

 ――訊いてどうすんだよ。レベルっていうか、次元が違うっての。

「いや、今日からやろうと思ってるけど」

「今日から?」

「ああ、何時もそんなもんさ」

 ――それって、さり気なく自慢か? そんなんで学年トップ? そりゃ、塾通いの安西も怒るよ。

「やっぱり頭の出来が違うんだ」

「そんな事無いさ。昔は俺もかなりがむしゃら頑張ってたよ。でも、だんだん短時間で集中すればかなりの量を習得できるようになってさ」

 忍はそう言って再び笑う。

 ステンレスのドアに跳ね返った陽差が白い歯を照らしている。

 ――それを世間じゃ秀才とかって呼ぶんだよ。

「試験が終わったら、また料理食わしてくれよ」

「えっ?」

「家で誰かと食事する事無いからさ、俺」

 ドアが開いて忍が足を踏み出したので、優子も反射的に駅へ降り立った。

「優子の家でも俺んちでもいいから、また一緒に食事したいし、お前の料理って家庭的な味がするんだよ」

「そ、そうかな……」

 優子が思わず俯いた瞬間、前方の車両から降りた一葉の姿が見えた。

 彼女に声をかけようか迷ったのだが

「よう、忍」

 後からは忍の部活仲間が声を駆けてきた。

 ――チッ、少しは空気読めよ。

 忍は二言三言その友人と話すと優子を見て

「じゃあな」

 そう言って軽く手を上げ、友達の方に身体を寄せたので

「うん」

 優子はわざと足並みを崩してそこから離れた。

「あぁあ、せっかくあたしが気を使って声かけなかったのに」

 横から小走りに身体をぶつけて来て一葉が言った。

「知ってたの? この電車に乗ってた事」

「うん、乗るのが見えたもん」

「べ、別にそんなの、気とか使わなくていいよ」

 優子はそう言って、足早に歩き出した。




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