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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第44話◆

 優子は一葉と一緒に駅を降りると、見慣れない駅前商店街の前に立っていた。

 実は同じ駅を利用する一葉もあまり見慣れていないその景色は、彼女が降りる反対側の町なのだ。

 舟越の住所は判っても、それが何処に在るのかはよく判らない。

 一葉の住む地域とは駅を挟んで反対側なので、よく知らないらしい。

 駅前にある住宅地図を二人で眺め、一葉が携帯に記録して来た住所を探した。

 二人共地図を見るのは苦手というか、普段見慣れていない住宅地図に四苦八苦する。

「無いね。たぶん商店街よりけっこう先だと思うけど……」

 一葉が視線を地図に這わせながら言った。

「うん……」

 優子も同じく地図を眺めながら応える。

 悪戦苦闘の結果、ようやく位置を確認した二人は住宅街を入った。

「この辺なんだけどな」

 一葉が周囲を見渡しながら、電柱の番地を確認してゆく。

 すると、少し先の家から自転車がふらりと出てくるのが見えた。

「あっ、舟越だ」

 一葉が思わず声を出したので、向こうも二人の姿に気付いた。

 彼は二人の方向に自転車を出したが、くるりと向きを変えて反対側に走り出す。

「あっ、こら、待て!」

 一葉は自分のカバンを優子に押し付けて走り出した。

 小気味よい足音が一瞬で遠ざかり、短いスカートがパサパサと風で捲くれ上がる。

 舟越はよたよたと自転車のペダルを踏んだが、自転車は加速するまで若干間がある。

 その隙に一葉は舟越の真後ろに追いついて、その後も自転車に負けないスピードで走ると、彼の襟首を後から掴んだ。

 ――か、一葉……足、超速っ……なんで?

「待てよ、何で逃げるの?」

 一葉に襟首を掴まれて仕方なく舟越は自転車を止めた。

「な、何なんだよ。こんな所まで」

 優子も小走りに駆け寄った。

「ちょっとさ、訊きたい事があるのよ」

 ――ていうか、なんで一葉、そんなに俊足なの?





 直ぐ横に小さな児童公園が在ったので、優子と一葉は舟越を挟む形でそこのベンチに腰掛けた。

 砂場しかないところを見ると、住宅地の規定で無理やり作った形だけの公園なのだろう。

「あんた、学校裏サイトの事、何か知らない?」

 一葉の言葉に、舟越は顔色を変えた。

「あんたなの?」

 優子にも彼の表情の変化は見て取れた。

 舟越は一度上げた顔を再び俯かせて黙り込んでいる。

「ちょっと、何とかいいなさいよ。知ってるの? 知らないの?」

 一葉が彼の腕を掴んだ。

「お、俺じゃないよ」

 舟越は俯いたまま言った。

「じゃあ、どうしてそんなにビビッてんの?」

 一葉の言葉は少し威圧感がある。

「ねぇ、何か知ってる事あったら、教えてよ。安西の事って、あんた意外に誰か知ってるの?」

 優子は必然的に優しく言った。二人共ガミガミ言っても仕方ないと思ったのだ。

 曇り空の夕暮れはやはり早くて、辺りはすっかり暗くなっていた。

 小さな公園にひとつだけ立った街灯がぽっかりと三人の周辺だけを照らしている。

「センパイが……」

 舟越は重そうに口を開いた。

「センパイ?」

「センパイが、面白い事しようって」

 舟越はポツリとポツリと言葉を発する。

「センパイって誰? ウチの学校の先輩?」

 優子の問いに、舟越は小さく頷くと

「でも、もういいんだ。センパイまで五十嵐がいいって言い出して……」

 その言葉に優子も一葉も一瞬ギョッとして息を呑み込むと、二人で顔を見合わせる。

「い、五十嵐って、優子の事?」

 舟越は再び小さく頷いたので、一葉は続けた。

「どういう事よ。優子がイイって。しかも、センパイもって? 『も』ってなに?」

 舟越は親しいセンパイに、学校裏サイトの立ち上げを持ちかけられた。

 立ち上げ自体はそう難しいものではないが、センパイはパソコンでゲームはやるものの他はからっきしなのだと言う。

 舟越は丁度書きたいネタもあったので同意した。センパイとは、よく行く秋葉原のショップで知り合い、同じ学校という事で意気投合したらしい。

 3年生の彼もまた、クラスではパッとしない目立たない存在だった。

 二人は何故か学校では接点を作らなかった。外でしか会わなかったらしい。

 一葉は思わず溜息をつくと

「どうして安西を標的にしたの? 別に今まで黙ってたじゃない」

「黙ってたっていうか、話す相手がいなかっただけさ」

「あれって、本当の事なの?」

「半分はね。でも、半分は他のヤツラの当時の噂だよ。真偽なんて知らない。」

 舟越は少しだけ顔を上げると

「それに、安西は五十嵐に何時も意地悪するだろ。学園祭だって無理やり係りにして」

「じゃあ、なに。あんた、優子の仕返しのつもりで安西の事をサイトでバラしたっての?」

「機会が出来たからさ。それに実名は伏せただろ……」

「ウチの学校の二年にA西で当て嵌まんのは、安西だけだっつうの」

 一葉が再び声を荒げた。

「じゃあ、なに? つまり、あんた、優子が好きなわけ?」

 一葉の率直な言葉に、優子は全身に悪寒を感じた。

 以前、彼の態度でまさかとは思ったが、それが事実だと知って眩暈がした。

 暮色にぽっかりと照らされる街灯の光が霞んで見えた。




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