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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第41話◆

「な、何か作ろうか?」

 優子は間が持たない事もあって、いやジッパーの中を少々見られたかも知れないという恥ずかしさを取り繕う気持ちもあってか、ついそんな事を言った。

「えっ?」

 忍は優子を見つめると「料理できるの?」

 ――失礼な。これでもちょくちょく夕飯の仕度はあたしがやってんのよ。

「あ、在り合せでよければ」

「へえ、そりゃあ、食べてみたいな」

 忍は、優子が注ぎ足したお茶を笑顔で啜った。



 冷蔵庫をあさって直ぐに出来そうなのはチャーハンだった。これなら味付けも簡単だし文句もでないだろう。

「チャーハンでもいい?」

「ああ、いいよ。チャーハンなんてできるんだ」

 ――フフッ、バカね。チャーハンは簡単なのよ。

 優子は台所に立って忍と少しの距離ができると、気持ち的に余裕が出る。

 忍はいつの間にかリビングの窓を開けて、佐助の頭を撫でていた。

「たい焼き喰うかな?」

「えっ、もったいないよ」

 優子は、彼が佐助を構いたいのだろうと思って、さっきもあげたビスケットを数枚忍に手渡す。

「あんまりあげると、太っちゃうから」

 ――手遅れだけどね。

「ああ、そうか」

 優子は再び台所に戻った。

 ――なんかこれって、ちょっぴり夫婦みたいなやり取りだよね。

 優子は少しだけ心が躍るのを感じながら、何時もは少々重く感じる中華なべを小気味よく回した。



 忍は美味い美味いと言いながら、優子の作ったチャーハンをたいらげた。

 考えてみれば、家族以外に自分の作った料理を食べさせたのは初めてだった。それを美味しいと言ってもらえるのは、素直に嬉しい。

 しかも、忍に手料理を作ってあげた女性が校内にいるだろうか……もしいるとしたら、安西くらいのような気がする。

 ――安西って、料理はどうなんだろう……

 優子は元々そだった事もあって、忍の容姿に特に惹かれるという感覚は無い。

 確かに鼻筋は通っているし、少し切れ長で二重の目は、澄ました時と笑った時の表情にギャップが出て魅力的だ。

 しかし彼といて緊張するのは、別に忍の容姿が影響しているわけではないのだ。

 男慣れしていないと言うのが正直一番の原因だという事を、優子自身も判っている。

 それでもやっぱり、彼の顔立ちは整っているなと思う。

 ――そう言えば、あれどうしよう。まだ答えてないんだよな。ていうか、答が出ないんだよ……

 観覧車で忍に言われた、付き合うという問いに彼女は答えていない。

 さっきいちど思い出したが、小さな混乱で再び何処かへ飛んで行った。

「そう言えばさ……」

 忍がお茶を飲んで一息つくと、言葉を発した。

 ――き、きたか? こんどこそ高森も思い出したのか?

「文化祭で使った服って、どうしたの?」

「えっ? ふ、服?」

「メイドのやつ」

 ――それかよっ。

「あ、あれは記念にみんな持って帰ったよ」

 忍とはそれからもたわいも無い話をしたが、あの事には触れる様子が無い。

「犬って、なんかいいな。俺も欲しくなったよ」

「そ、そう? 散歩とか面倒だよ」

「ランニングとか一緒に出来そうじゃん」

「直樹もそんな事言ってた。狙いは舞衣ちゃんだったみたいだけどね」

 ――もう、どうでもよくなったのかな……あの事。

 優子は忍があの観覧車で言った事に触れない事が逆に、不安でならなかった。

 ――アレが、あの時だけがチャンスだったのかな。高森はあたしに1度だけチャンスをくれたの?

 いつの間にか、住宅街に小学生の声が響いてきた。

 小学生が下校する時間になっていた。

「あ、俺そろそろ帰ろうか?」

 忍が笑って立ち上がり「家の人、まだ帰って来ないの?」

「えっ、うん。ま、まだ……」

 優子はそう言ったが、忍の身体はソファの前から横に動いていた。

 ――えっ、本当にもう帰るの?

「あ、も、もう帰る?」

 優子は忍に並ぼうと慌てて足を踏み出すが、そこにはまだテーブルがあった。

 彼女はテーブルの角に左の脛を引っ掛けて躓くと前のめりになって、焦ってバランスをとろうとするが、そのまま右足だけでつんのめるように前に飛び出す。

 テーブルが大きく動いて、乗っていた湯飲みが倒れた。

「きゃあ!」

 忍はまだ身体を半分だけ出口に向けていたので、躓いた優子が視界に入って慌てて手を差し伸べる。

 優子は躓いた反動とバランスをとろうとした反作用で、勢いよく忍の胸に飛び込んでしまう。

 忍の腕に両脇を抱えられる形で、彼女は体制を持ちこたえた。

 ――うわっ、超危なかった……

 が、その次の瞬間優子の唇には何かがくっついて来てそれを塞いだ。

 ――???

 あまりに突然の出来事に思考は働かなかった。

 ただ、自分の唇に柔らかくて暖かい何かがくっ付いた瞬間、鼻孔にライムの香りが入り込んで、身体中に細い電気が素早く走り、全身の力が抜ける気がした。





優子の唇に触れた何かは、やっぱり……?

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