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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第39話◆

 優子は静かにドアを開けると、弟の部屋に足を踏み入れた。

「何? 何か用?」

「う、うん。ちょっと訊きたい事あってさ」

 ――あっ、こいつ煙草吸ってるな。

 ベッドに寝そべって漫画を読む弟に、優子は近づいた。

 さり気なく周囲を見渡すが、煙草を吸った形跡は見当たらない。それでも、微かに臭いはしたのだ。

 直樹は急に起き上がると

「なんだよ、改まって。まさか近親相姦狙ってんじゃねぇだろうな」

 ――バカか! なんでそんな言葉が出るんだよ。っていうか、あたしはそんなに飢えて見えるのか?

「ば、バッカじゃないの。なんでそうなるのよ、気持ち悪い」

「だって飯の時、姉ちゃんの視線が変だったからさ」

 ――えぇっ、あたしの視線変だった? そ、そうかな……あたし、そんな変な目で弟の事見てたのかな?

「そ、そんなんじゃないよ。舞衣ちゃんと上手くいってそうだなぁ。て、見てただけじゃん」

「それにしちゃ、へんな目つきだったぜ」

 ――こいつ、女の味を知って、感性鋭くなったのか?

 優子はベッドの横に在る勉強机の椅子に腰掛けると

「あんたさ、パソコンけっこうやってる?」

「ああ、まあ人並みだと思うけど。3日坊主の姉ちゃんよりはね」

 ――大きなお世話だっての。あたしだって週1回くらいはネットに繋ぐわよ。

 直樹はベッドの上で胡坐をかくと、手に持っていた漫画を横に置いた。

 優子は椅子の背もたれに肘をかけて寄りかかる。

「学校裏サイトって、見たことある?」

「ああ、前に何度かね」

 直樹は足を組み直すと

「でも、なんだか陰湿でさ。俺はあんまり見る気にならないけど」

 ――よく言った。いかにもあたしの弟だよ。あんた。

「じゃあ、最近は覗いてない?」

「うん。全然見てないよ」

「友達は?」

「そうだな、見てるヤツもいるんだろうけど、あんまり話題にならないかな」

 直樹は胡坐を組んだ自分の足首を掴むと

「ほら。なんか、ああいうの面白がるヤツって、人の不幸を楽しんでるみたいで信用できないじゃん。だから、観てもあんまり言わないんだよ。でも、なんで?」

「う、ううん。別に」

 優子はそう言って立ち上がると

「この近辺の学校の話とかも聞かない?」

「別に聞かないけど、何でさ?」

「ううん、いいの、別に」

「変なの…」

 直樹はそう言って再び漫画を手に取るが

「あっ、まさか姉ちゃん。裏サイトでイジメにあってるのか?」

「ば、バカね。そんなわけないでしょ」

 優子はそう言うと、足早に出口へ向かうが、一端足を止める。

「そう言えばさ、よくあるアクセスカウンターって、あれ、正確なの?」

「正確なんじゃないの? アクセスに対してただカウントするだけでしょ。でも、確かスタートの数字は好きなところから始められるから、桁は当てにならないんじゃない」

「何? その好きなところからって」

「カウンターを設置して1000からスタートさせれば、アクセス履歴が10でもカウンターは1010を表示するんだよ」

「えっ、カウンターって必ずゼロから始まるんじゃないんだ」

「そりゃ、だって。アクセスの少ないサイトで何時までもカウンターの累計が10とか20だったら悲しいじゃん」

「ああ、そうなんだ」

「レンタルのカウンターは確かそんなのが多いよ」

 ――レンタル?

 優子はそれは別に訊かなくてもいいやと思い、そのまま部屋のドアを開けると

「あんた、運動部なんだからタバコは止めなさいよ」



 * * *



 優子は携帯電話メールの着信音で目が覚めた。

 今日は学園祭の代休で、忍との約束も無いので寝たいだけ寝ていた所だ。

 ――あぁ、誰からだろう……ていうか、今何時だろう。

 優子は布団から腕だけを伸ばして充電器に置いた携帯を掴むと、布団に入ったままの状態でそれを開く。

『昼飯一緒にどう?』

 高森からのメールだった。

 時間を見ると、11時半になる所だった。忍はおそらく午前中の部活が終わった所なのだろう。

 ――ギョぇ、もうこんな時間なんだ。

 優子は仕方なしに布団から出ると、洋服に着替える。

 ふと鏡に映った顔は、寝過ぎの為に目が腫れている。

 ――目がぁ……寝過ぎた……

 彼女は忍にOKの返信をしてから顔を洗うと、濡れタオルで瞼を冷やす。

 待ち合わせは1時にしてもらった。そうすれば忍も一度家に帰れる時間だ。

 家の中は誰もいなかった。

 父親はもちろん仕事だし、母親もパートだ。そして弟は普通に学校へ行っている。

 優子はリビングのソファに横たわって、瞼に濡れタオルを当てたまま、再びウトウトしていた。

 見慣れない時間のテレビ番組の音声が、何となく部屋に流れている。

 そうしてどれくらい経ったのか優子にはよく解らなかったが、庭先で物音が聞こえた。

 佐助が小屋から出て、動き回っている気配もする。

 ――何だ? 誰か来たのかな。直樹か?

 優子はリビングの窓からレースのカーテン越しに外を覗いた。

 ――うわっ、た、高森。な、なんで直接来てんの? 待ち合わせは駅って……しかも時間、早っ。





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