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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第36話◆

 一葉は新しい事を発見して高揚した気持ちを、単純に誰かに伝えたかったのだろう。

 優子は仕方なく、一葉がくれたアドレスにアクセスしてみる。

 ダウンロード中の表示が一瞬出て、すぐにそのサイトは表示された。

 確かに自分の通う学校だ。実名がしっかりタイトルに出ている。

 モノトーンの殺風景なトップページだった。

 管理人の名前は『モギヰ』と書かれている。

 BBSの項目をクリックして、画面を開くと最新記事を見て優子は息を飲む。

『二年のA西は、私立M中学の時に高校生に集団レイプされて妊娠した。

 子供は直ぐに中絶したが、それが表沙汰になるのを恐れてエスカレーター式のM学園を断念した』

「誰……誰がこんな事を書き込んでるの?」

 優子は思わず声に出した。

 書き込み記事を投稿したのは『ヤギヰ』と名乗られていた。

『A西は妊娠がキッカケで、当時付き合っていた彼氏と別れた。

 当たり前だよね。他の男の子供を妊娠した女なんて付き合ってられないよな』

 ――これって、高森? の事?

『A西はいきなり五人とヤッタから、どいつの子供を妊娠したのか判らなくて裁判起こしたくても立証できないらしい』

 優子は胸の奥がムカムカして、ページを閉じた。

 部屋の蛍光灯が少し暗いような気がして、思わず天井を見上げる。

 ハッと気を持ち直すと、優子は急いで一葉に電話をかけた。

「ああ、優子。サイト観た? あれって安西だよね。あいつ……」

「一葉、このアドレス誰から聞いたの?」

 優子は一葉の言葉を遮るように言った。

「他の学校の友達。こういうの好きな娘がいてさ、あんたの学校が出てるって教えてくれたんだ」

「誰か、他に教えた?」

「里香と美菜に……」

「どうしてよ」

「えっ? だって……どうしてって……なんであんたがそんなに怒るの?」

「だ、だってデタラメかも知れないじゃん」

「いいじゃん、デタラメでも別にさ」

「よくないじゃん」

「ど、どうしたの、優子? あんた安西と仲良くないじゃん……」

「それとコレとは関係ないよ」

 優子はひとつ息をつくと

「いい、一葉。もうだれにもこのアドレス教えてダメだからね」

「そんな事言っても、どうせそのうちみんなに知れるし、もう知ってる人もけっこういると思うよ」

「それでも一葉は黙ってて」

「わ、わかったよ……今日の優子、なんだか怖いよ……」





 いったい誰があれを書き込んだのか……優子はそれが気になっていた。

 確かに安西はみんなに好かれている娘ではないし、少々高飛車なところを気に入らない連中もいるようだ。

 しかし、いままで大きなイジメも裏サイトなどの噂もないところがこの学校のいいところだった。

 少なくとも優子はそう思っていた。

 舟越のような何だかよく判らないキャラも誰にイジメられる事も無く、平穏に生活している。

 ――舟越? そう言えば、あたし、安西の昔のこと舟越に聞いたんだ。

 優子は舟越に聞いた言葉を思い出すと同時に、それを知った安西が彼に対して激怒していた事を思い出す。

 ――ま、まさかね……あれで、安西に何か言われた舟越が頭に来て……でも、なんか考えられる……



 月曜日の片付け清掃は当然全員登校で、教室以外の各場所も掃除分担される。

 しかし、こんな日にはこない連中は必ずいるのだ。

「ねえ、あれって本当なのかな?」

 清掃中、美菜が不安げに一葉に聞いている。

 あれというのは、裏サイトに書き込まれた「A西」の事だ。

「さあね。でもあれってBBSの割には外部からの書き込みが出来なかったよ」

 一葉が自在ボウキを片手に言った。

 他にも3年生の記事が幾つか載っていたが、それらは一葉たちの興味の対象にはならなかった。

「一葉、書き込みしたの?」

 優子が割って入る。

「うん……本当なのかって、問いただしの書き込みしようとしたら、受け付けなかった」

「じゃあ、管理人だけが書き込めるの?」

「管理者と書き込みの名前が違うから、あとは、パスワードを知ってる者だけとかね」

 一葉は教卓によりかかると

「なんにしても、あのヤギヰていう書き込み者が誰かって事。それと、管理者も近い人間でしょ。同一かもしれないけどね」

 優子は思い当たる人物の名前を、この場では言わなかった。

 もし彼がモギヰかヤギヰだとしたら、3年生の記事がどうしてあるのかが解らなかったから。

 しかし、今日も舟越は学校を休んでいる。

 安西は別の掃除区画の為離れているが、周囲の彼女を見る目が何となく以前と違うような気がしたのは、優子の気のせいだろうか。

 大っぴらには反応を露にしない。

 それが、学校裏サイトを覗く者のルールでもあるのだ。





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