◆第33.5話◆
今回のほとんどは、優子の友人である一葉の視点です。
後半の一部のみ、普段の描写に戻ります。
……なぁんか、最近優子の様子がおかしいぞ。
あんなにハキハキ喋ってたか?
そりゃ、あたしとか里香とはそうだったけど、他の女子とも何だかけっこう喋ってるし、鈴香とも何だか妙に仲良さそう。
だいたい、高森がわざわざ優子に何の用で教室を覗くわけ?
帰り道、学校近くの駅前で
「今日、ちょっと寄る所があるから」
そういって優子と判れた一葉は、彼女に気付かれないように同じ電車に乗り込んだ。
隣の車両の連結部の窓から、一葉は人混みに隠れて優子を観察した。
そんな優子は別に変わったところも無く、自分がいない為一人きりで窓の外を眺めたりしている。
優子が降りる駅に着くと、彼女の後についてこっそり一葉も電車を降りる。
微妙な間隔を開けて後ろからゆっくりと優子の後を追うようにホームを歩き、誰かの人影に隠れながら観察を続ける。
……ほら、なんだか足取りが軽いじゃん。絶対おかしい。
それはたぶん一葉の思い過ごしだろうが、優子は少しだけ自分に自信を持ち始めているのは確かだろう。
異性と自然に話せる習慣がつくというのは、自分を確立させる事に役立つ。
男性は男性として、女性は女性としての自己を認識するのだ。
もちろん、優子本人はそんな自分の小さな変化に気付いていないし、忍と自然に話せるかと言えば、まだまだ未熟だ。
しかし優子の中で何かが変わり始めているのは事実で、それは本人も認識しないまま、歩き方ひとつにも微かに現れるのかもしれない。
一葉はホームの階段を上りきると、突然足を止めた。優子が小さな男の子を助け起こして何かを話している。
男の子はどうやらべそをかいている様子だ。さしずめ転んだのだろうかと一葉は思った。
……そう言えば、彼女弟がいるんだよね。こうやって観てるとなんかそんな感じしてきた。意外とお姉さんなんだな、優子。
すると「うるせぇ、ブス!」という子供の大きな声が聞こえた。
もちろん、優子に言った言葉で、子供はそのまま走り去る。
……ゆ、優子……子供に馬鹿にされてるよ……それで大丈夫なのか?
そんな事を思いながらも、一葉は思わず声を殺して笑った。
それは何だかよく判らないが、暖かな笑いだった。
優子が再び歩き出したので、一葉も慌てて後を追う。
駅の階段を彼女に続いて下りようとした時、優子が立ち止まっているのが見えて、一葉は再び足を止める。
踏み出した足を引っ込めて、階段を下りる手前からこっそり下を見下ろす。
と、優子の傍に黒い人影がひとつ見えた。背丈からして男だろう。
……た、高森だ。アイツ、優子を待ってたんだ。何で? あの、二人いったい何時からそう言う仲なの?
いや、何か用事が在るだけかもしれないじゃん。そうだよ、家が近所って言ってたし、また用事でも頼もうと優子を待ってたのかも。
優子と忍が歩き出すのを見て、一葉は急いで階段を駆け下りる。
* * *
日曜日の朝も優子は予定通り、何時もよりだいぶ早い時間に学校に着いていた。
野球部が校庭で今日のイベントの準備をしている。
よく在るマス目を抜くピッチングゲームだ。
そんな校庭を横目に昇降口へ入り下駄箱を開けた彼女は、一瞬息を飲んだ。
上履きを掴もうと伸ばした手が硬直して止まる。
校庭の方から、野球部員たちの高揚した笑い声が微かに聞こえていた。
――こ、こ、こ、これって、まさか、もしや……アレか?