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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第25話◆

今後少し、学園モノらしく、学校行事のエピソードなどが入ります。

 それは何処から降ってくるのだろう。

 それとも、地雷のように自分でも気付かないうちに踏んでしまうものなのだろうか……

 もしかしたら、相手の心が自分の心を空気感染のように少しずつ侵食して、潜伏期間を終えると、突然症状が現れるのかもしれない。

 それでもこれは違うのだ。そんな類のものではないと必死で否定する自分がいる。



 夜空には銀色の欠けた月が煌々と輝いて、辺りの雲を照らしている。

 優子は「ふうっ」っと息をついて湯船に身体を沈めた。

 今日はしっかり下着も脱いでいる。

 ――ああ、もう。今日も疲れたぁ。あたしって、意外と母性本能強いのかな……ヤバかったぁ。でも、もうちょっとで初体験だったのに……あと5センチ無かったよね。

 優子は自分の指をそっと唇に当てた。

 あんなに澄んだ悲しい瞳は始めて見たと思った。

 優子は忍の悲しい虹彩の瞳に魂が吸い取られるような、微かな恐怖すら一瞬感じたほどだ。

 それが彼を受け入れようとした意識のカケラなのかは判らない……

 揺れも風も収まったゴンドラは、その後通常に動いて無事下まで到着した。

 いちど邪魔の入った甘い空気は、再び復活する事はなかった。

 それでも、帰り道に暗がりで再びキスでも迫られたらどうしようと、優子は気が気でなかった。

 が、何時ものように笑って別れるだけで、何も無い。

 そう、次の約束もないのだ。

 ――あいつ、どういうつもりなんだ? 全然読めないヤツ。

 そして優子はふと思い出す。

 ――あっ、そう言えばあいつ何時の間にかあたしを優子って呼んでた。……えっ、何時から? 何時から名前で呼ばれてたっけ?

「まぁ、いいか」

 優子は少しだけ浮ついた気持ちでシャンプーのボトルに手を伸ばした。



 駅から学校までの歩道で見かける銀杏の葉が、心なしか色を変えていた。

 明け方少しだけ降った雨も上がって、青い空には高々と雲が流れている。

 優子が教室に入ると、一葉が手を振ってきた。

 さり気なく周囲を見渡す振りをして忍の姿を探すと、彼もこちらを見ていた。

 優子は小さく笑って、直ぐに目をそらす。

 一葉が近寄って来たからだ。

 何時ものようにたわいの無い話などをして直ぐにホームルームが始まる。

 優子は一時間目の授業が始まってから、思い出したように安西ひとみの姿を見た。

 ――昨日は見られてないよね。大丈夫だよね。

 彼女が言った「敵」という言葉がどうにも不快だった。

 誰かの敵になるのが平気なら、もっと自分を出して社交的になれるのだ。

 内向的な性格というのは、周囲の目を過剰に気にしたり、相手の反応を気にするあまり自分を出せない場合が多い。

 そんな優子を明確な「敵」と呼ぶ安西を、彼女は不快に思った。



 6時間目のロングホームルームは学園祭でのクラスの出し物を決める。

 もちろん、クラス委員の優子が議長で、とりあえず舟越は書記だ。

 そして、なんだかどうでもいいような連中のどうでもいい発言がクラスの適当な賛成意見を呼び込んで、優子のクラスはメイド喫茶を模擬店としてやることになる。

 ――つうか、いかにも流行りに便乗した安易な出し物なんだけど……まあ、喫茶店は定番と言えば定番か……

 って、ええっ。なんで?

 優子は黒板の文字を見て目を丸くする。

 イベントの責任者が優子になっているのだ。

「とりあえず、クラス委員に責任者をお願いしたいと思います」

 最初にそう言ったのは安西ひとみだった。

 誰もそんなものやりたくないので、直ぐに賛成意見でいっぱいになる。

 その後に安西は再び声を出した。

「部活のやっていない人たちが中心になるべきだと思います。文化部の人はもちろん忙しいし、運動部も準備の為に休めるとは限らないんだし」

 ――な、なんて差別的な意見なの? ていうか、安西だって部活なんて行って無いじゃん。

 優子は思わず安西に視線を送るが、それに答えるように安西は言う。

「あたしは手芸部の企画で忙しいしさ」

 ――し、手芸部? コイツそんなおいしい帰宅部に所属していたのか。普段速攻で帰って塾に行ってるくせにぃぃぃ。



 結局メイド喫茶の模擬店運営メンバーは優子をはじめ、一葉、斉藤美菜、谷脇みちる、千葉鈴香、稲本由香、その他3名の全部で8名だ。

 親しい里香は部活があるので加わっていない。

 それと、舟越は雑用係で加わっている。クラス委員だから。

 人選は極めて簡単で、他の人はみんな何らかの部活に入っているのだ。

 もちろん当日や準備に参加できるものはできるだけ参加する。などと言う極めて曖昧で、いかにも参加しなくても誰も文句を言わない取り決めでホームルームは終了した。

「ねえ、メイド服ってどうするの?」

 一葉が声を出す。

 放課後、自然と模擬店メンバーが集まる。

「今ならいくらでもコスプレ用の服が売ってるけど、買うと高いでしょ」

 みちるが加えて言った。

「やっぱ作るしかないでしょ」

 美菜がそう言って笑う。

 彼女はそれほど嫌そうな素振りは無い。話を聞くと、洋裁が得意なのだそうだ。

「じゃ、じゃあ洋服は美菜が中心だね」

 優子は小さい声でまとめる。

「予算って、どうなってるの?」

 再び一葉が言った。

「予算によって、洋服も、飾りの具合も変わるでしょ」

「そうか……そうだね」

 優子は思いもしていなかった事を言われて、少々動揺する。

「まだ日があるしさ、また明日考えようよ」

 鈴香がそう言って、もう自分はカバンを持っている。よっぽど帰りたいのだ。

「そうだね、予算訊いておくから」

 優子はとりあえずみんなを見渡すように言った。

 各々にカバンを手にすると、教室を出てゆく。

 ――はぁ……なんであたしが責任者なの……ていうか、やっぱあたしもメイドになるんだろうか……

 重苦しい溜息を零す優子に、意外と楽しそうな顔をした一葉が

「帰ろう」

 ――コイツ、意外と乗り気だな。



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