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琥珀色の風  作者: 徳次郎
23/95

◆第23話◆

 翌日の日曜日。

 優子は普段あまり履いていない白いミニのワンピースに、膝丈のレギンスを履く。

 上に羽織ったピンクのカーデガンは、この前一葉に薦められて買ったものだ。

 ――こんな感じなか……

 優子は、姿見の細長い鏡に掛けられたバスタオルをどけて、自分を映してみる。

 スタンドの着いた姿見は滅多に覗かないので、何時の間にかタオルや制服の上着が掛かっていて用途をなさない場合が多い。

 彼女は昨夜忍から掛かってきた電話に、結局OKを出した。

 ……別に断る理由も無い。優子はそう思ったのだ。いや、思う事にしたと言った方がいいのかもしれない。

 優子は結局ピンクのカーデガンを脱ぐと、ライトグレーのZipパーカーを羽織って、小さめのメッセンジャーバックを肩に掛けると部屋を出た。



 * * *



「今日は、部活は無いの?」

「ああ、今週は意外と緩いんだ。練習試合が決まれば、また少しハードかな」

 ――けっこう練習してんのに、なんであんまり強くないんだろう。他は、よっぽど練習してんのかな?

 優子は忍と一緒に電車に揺られながら、お台場に向っていた。

「け、けっこう頑張ってるのに、なかなか勝てないね」

 優子は苦笑しながら言う。

「そうだな、けっきょくウチなんかは凡人の集まりだしな。TOPレベルの高校は他県からも選手を寄せ集めるから、素質が違うよ」

「ああ、そうなの……」

「でも、凡人仲間じゃ、けっこう強いんだぜ。ウチの学校も」

 ――まあ、それだけ練習してりゃあね。少しは勝てないと救われないじゃん。

 やたらと混雑したゆりかもめに乗ると、優子の身体は終始忍に密着しっぱなしだった。

 ――うわっ、混んでる……きっとこういう密着した中で、二人の関係は深まってゆくのかも……

 しかし、優子は火照った自分の顔となんとも言えない息苦しさに耐えるので精一杯だ。

 やっと少しは喋れるようになった忍とも、再び口数少ない時間を過ごす。

 目的のホテルに着くと、二人は天井の高いロビーを抜けて3階にある大ホールへ向う。

 同じエレベータには、いかにも「喰うぞ」という意気込みを感じる豊満な女性が数人乗り合わせた。

 優子のすぐ横に立つおたふく顔の女性は、微妙に汗ばんで何故か鼻息が妙に荒い。

 ――この人たち絶対ケーキだ。それしか考えられないよ。絶対食べ放題だ。

 優子が思ったとおり3階で彼女達も降りると、一目散にホールへ向う。

 優子は思わず笑いが込み上げたが、忍がいる手前それを必死で堪える。

「高森は、甘いもの平気なの?」

「ああ、俺は意外と好きな方かな」

 二人は女性たちに続いてホールへ入ると、入り口で忍が二人分のチケットを切ってもらう。

 大きな丸や四角のテーブルの上には、幾つものケーキが綺麗に配置されて、シャンデリアの明かりに照らされていた。

 テーブルもケーキとのコントラストを考えた色合いになって、ホール全体が甘い香りに満たされている。

 ――な、なんかお菓子の国に来たみたい……

 ふと見ると、さっきエレベータで一緒だった女性数人は、もう皿イッパイにケーキを取り始めている。

 ――いっぺんにどんだけ取るんだよ……

「何処から行く?」

 忍が優子に小皿を渡す。

 家の皿とは白の種類が違うような、スノーホワイトの皿だ。

「う、うん。何処でも」

 優子はそう言いながらホールの中を見渡した。

 一応、好きなケーキがあれば目を付けておかなければと思ったのだ。

 そうは言っても、どれも美味しそうでただ目移りするばかりなのだが……

 ケーキの飾られた大皿の横には制作したパテシェやお店の名前が書かれたカードが置かれている。

 ドリンクコーナーではバーカウンターが設けられてワインやシャンパンも配られているが、もちろん優子たちは酒は飲まない。

 大きな窓際には休憩用と思われる赤いソファが1列に並べられて、優子はアイスティーの入ったグラスを片手にその一角に腰を下ろした。

 忍はコーラを持って、隣に腰掛ける。

 窓は大きなカーテンで閉じられているが、おそらく3階と言う事もあってたいした景色で無ない為だろう。

 来た時にはそれほどでもなかったが、何時の間にかホールは人で溢れていた。

 当然だがそのほとんどは女性だ。

 女同士の連れや母娘らしい感じが目立つ。

 中には小ジャレたカップルもいるが、男性はここそこでドリンクを片手に退屈そうにしている。

「満足した?」

 忍がコーラのグラスを傾けて言った。

「う、うん。かなり……」

 ――もう当分はケーキ食べなくても平気かも。

「ここにいる人たちは、みんな招待客なの?」

「いや、有料で入っている一般の人の方が多いと思うよ」

「高森はどうしてこんな所の招待状持ってるの?」

「ああ、親父に貰ったのさ。仕事の接待で貰ったらしい」

「そうなんだ」

 優子はアイスティーを口にしながら、昨日弟が女の子を連れた姿をふいに思い出す。

「そう言えば、直樹に舞衣ちゃんの事紹介したの?」

「ああ、紹介ってほどじゃないよ、二人は元々知り合いだからね」

 忍は氷を鳴らしながらコーラを口にして笑うと

「直樹くんが仲良くしたがってるって、舞衣に言っただけだよ」

「ふうん、そんで上手くいっちゃうんだ」

「あれ、どうして? あの二人上手くいってるの?」

「あっ、うん。昨日二人で歩いてたよ」

「そうか、舞衣も少し意表をつかれた顔をしてたけど、嫌そうではなかったからね」

 忍はそう言ってコーラを飲み干した。

「これからどうする?」

 ――き、キタっ! ほ、ホテルの中でどうするって……なんか、異常に緊張するんですけど。どうするの?

「ぶらっと、ショッピングモールでも見ようか? それとも、観覧車にでも乗る?」

 ――なあんだ、やっぱホテルは直ぐに出るんだ。でも、えっ、観覧車?

「か、観覧車?」

 ――ていうかそれって、ふ、二人きりの完全密室じゃない。ヤバイ、かなりヤバイよ。もつか、あたしの精神力……

「とりあえず出る?」

「う、うん……」

 優子はソファから立ち上がると、忍について出口へ向かった。

 ふと最初に会った豊満な女性たちが気になってホール内を見渡すと、ちょうど人混みの外れに、まだ元気に食べているのが見えた。




次回はいよいよ、優子の危機か……

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