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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第18話◆

「ご、ごめんね、変な弟で」

 ――ヤバイじゃん。高森に姉弟のアホな会話を散々見られちゃったじゃん……

「いや、何だか頬ましいよ。やっはり五十嵐もお姉さんなんだな」

「そ、そんな事ないけど……」

 優子は一瞬頬を紅潮させて俯いたが

「高森は、兄弟はいないの?」

「ああ、兄貴が一人いるけど、別に暮らしてるんだ」

「そう……」

「年が離れてるからな」

 その後二人は少しだけ沈黙して歩いた。

 高い塀に囲われた庭から柿木の枝が伸びているのが暗い街路灯に照らされている。

 家の近所のはずなのに、あまり見覚えの無い景色は、何処か遠くへ来たみたいで不思議な感覚が彼女の心を満たしていた。

 二人きりで知らない町を歩いているようだった。

 優子は次の会話を探してみるが、自分から切り出すような話題なんて思い浮かばない。

 ――な、なにか話しなさいよ。あんたが一緒に帰ろうって言い出したんでしょ。どうして時々黙るのよ。 こういう間があたしは苦手なんだってば。

 優子は、歩く度にサラサラと揺れる彼の前髪をチラ見した。

「た、高森ん家は、何時も何時ごろ夕飯食べるの?」

 ――うわぁ、めっちゃどうでもいい質問だよ。間が持たない適当加減がみえみえだっつーの。

「俺が部活から帰ると直ぐかな。けっこう時間はバラバラだけど、帰った時間には仕度が済んでるよ」

「ご、ご両親も高森を待ってくれてるんだ」

「いや、俺は何時も一人で食べるよ」

 忍はそう言って笑うと

「じゃあ、またな」

 もう二人が別れる通りへ来ていた。

 ぐるりと周って違う路地から来たので、今回は優子が先に曲がる番だ。

「あ、うん。じゃあ」

 優子は小さく手を上げて忍から離れようとした。

 背を向けようとした彼女に忍が

「少し安心したよ」

「えっ? な、何が?」

 歩き出そうとした優子の足が止まる。

「男嫌いっていうか、恋愛には興味ないのかと思ってたからさ」

「えっ?」

 ポカンと彼を見上げる優子のカバンを、忍は笑顔で指差すと

「恋愛マンガ、好きなんだな」

 ――わっ、見られてたんだ……こ、こんなコテコテの恋愛少女マンガ読んで、夢見てる女だと思われたのか? 違うよ、こんな恋にこがれてなんて無いんだからね。

「ま、マンガはね……けっこう好き」

 優子はそう言ってからもう一度「じゃあね」

 そう言って小走りに家に向った。



 何時もの四人が集まって和やかに、時には賑やかなのが五十嵐家の普段からの夕食の風景だ。

 いがみ合っているように見えて、意外と姉弟は仲がいいし、夫婦は年中仲睦ましい。

 ――高森は、何時も夕飯を独りで食べるって言ってた。どうして? 父親は仕事で都合がつかないのかも知れないけど、お母さんは?

 高森って片親だっけ? いや、たぶん違うと思う。家に帰ると食事は出来てるって事は、それを誰かが作って待ってるって事でしょ。

 共働きだとしても、夕飯を作った人が家にはいるって事よ……待ってるのは、食事だけなの?

 優子はご飯を口へ運びながら、視線は中を舞っている。

「……ちゃん、姉ちゃんてば」

 隣で直樹の声が聞こえて優子は慌てて視線を向ける。

「な、何よ」

「さっきの事、彼氏によろしく言っておいてくれよ」

「あんたってば、他人を頼らないと彼女一人作れないの? ナッサケナぁ」

「ナンだよ、自分がたまたまいい男拾ったからって」

「何よ、拾ったてのはぁ」

 優子はハッと気がついて

「それにね、高森は彼氏とか、そんなんじゃ無いんだよ」

 ――そうだよ。なぁんにも無いんだから、彼氏のわけ無いじゃん。向こうがコクって来たわけでもないしさ。ていうか、アイツがあたしなんかにコクるかぁ? 

 だいたい、学校でほとんど話もしないクラスメイトと付き合えるほうが不自然だよ。確かにみんなの前で話しかけられても困るけどさ、例えば体育館裏に呼ぶとか、っていうか、それもいちいちウザいか……

「でも、よく言うボーイフレンドってヤツだろ?」

「ナニ、レトロな事言ってんのよ。そんなのでも無いですぅ」

 優子は鼻の頭にシワを寄せて、憎たらしい顔で直樹に言った。

「何だ優子、彼氏がいるなら隠さずに紹介しろよ」

 父親の孝之助こうのすけはそう言って、わはははっと笑って見せた。

「そう簡単に親には紹介しないわよ」

 母親は孝之助に向って微笑む。

 ――さすがお母さん、元乙女だっただけの事はあるね。

「だって、何時別れるかも知れないじゃない」

 杏子きょうこはそう言って優子の方を見ると、穏やかな笑顔で

「ねえ」と言った。

 ――な、なんて後ろ向き無な発想なの? きっとあたしはお母さんのそんな部分を丸ごと受け継いだんだわ……だいたい、付き合っても無いんだから別れる事もないし、親に紹介するほど親しくもないんだから。

「ほんとに、そんなんじゃないんだってば」

 優子は面倒くさそうに言って、ご飯を口へ頬張った。





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