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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第17話◆

 彼女の視線の先に見えたのは、佐助を連れた直樹の姿だった。

 暗がりの街路灯で僅かしか見えないが、連れているあの不自然なシルエットの犬はどう考えても佐助だ。

 直樹は旧家の家を塀沿いに覗き込みながら歩いている。

 優子はとっさに門扉を潜って庭に入り、雑木の陰に身を隠した。

 少しして人の気配が近づいて来る。スニーカーの為足音はほとんどしないが、佐助の歩く爪音が僅かにカチカチという音を立てていた。

 直樹は門扉の前まで来ると、首を伸ばすように中を覗いて再び歩き出す。

 ――何やってのアイツ……まさか覗き?

 優子は塀際の雑木の陰から直樹の姿を覗いていた。

 直樹が歩き出したので、彼女も再び門の外へ出ると、旧家の先の路地を弟が入ってゆくのが見える。

 ――めちゃくちゃアヤシイ……何やってんのよ、アイツ。

「よう、お待たせ」

 優子が通りの向こうに気を取られているうちに、忍が外に出て来ていた。

「どうかしたの?」

「えっ、ううん。なんでもない」

 ――あんな挙動不審な弟がいるなんて、知られちゃかなわない。さっさと離れよう。

 忍が促すまま、優子は歩き出した。

 旧家は敷地が大きい為、家の周りがぐるりと路地で囲まれてる。

 ちょうど、先ほど直樹が出て来た十字路へ二人が差し掛かると、再び直樹がそこにいた。

「直樹」

 優子は思わず声を出してから、慌てて手で自分の口を塞ぐ。

「ね、姉ちゃん。何してんだよ、こんな所で」

「あんたこそ、何同じところグルグル周ってんのよ」

 優子は弟の言葉に思わず返した。

「周ってないよ」

「周ってたね。あたしさっき見たもん。さっきもここ通ってこの家の中覗いてたでしょ。イヤラしい」

「な、何で声かけないんだよ」

「あんたの挙動が異常だから、声も掛けられないじゃん」

「弟さん?」

 忍が声を挟む。

 ――ああっ、そうだ、高森と一緒だったんだ。しまったぁ。

「うん、弟の直樹」

 優子はそう言って、同じくらいの背丈の弟の頭を叩いた。

「ね、姉ちゃんの彼氏か?」

「ば、馬鹿。何言ってるの」

 優子は慌てるように、再び直樹の後ろ頭を小突いた。

 ――ああっ、もう、この馬鹿ガキ。だから会いたくなかったのよ。なに直球な質問してんのよ。このよく解んない関係と距離を少しは感じ取れっつうの。

「あははは、面白い弟さんだね」

 忍は爽やかに笑って切り返す。いたって平静だ。

「同じクラスの高森くんよ」

 優子は直樹に向ってそう言うと、忍の方を振り返って

「ご、ごめんね、変な弟で」

 彼に苦笑して見せると、再び直樹の方を見る。

「あんた、ここで覗きでもやってんの?」

 ――ふん、さっきの仕返しよ。こうなったら恥かかせてやる。

 優子の中で悪魔の囁きが聞こえた。

「ち、違うよ、覗いてたわけじゃないよ」

「じゃあ、なんでこの家の中覗いてたの?」

 直樹は顔を赤くして、困惑して見せた。

「もしかして、舞衣?」

 忍が言った。

「確か、舞衣は中学二年だけど、もしかして同じ学校とか?」

「誰? 舞衣……ちゃんって」

 優子が目を丸くして訊いた。

「叔母さんの家の娘なんだ」

「何、あんたクラスメイトの家覗いてたの? イヤラしい」

 優子は目を細めて弟を睨む。

「そ、そういうわけじゃ……それに、同じクラスじゃないよ……今は」

「舞衣と親しくなりたいのかい?」

 忍が再び言葉を挟んだ。

「親しくっていうか、1年の時は同じクラスでけっこう話もしたんだけど……」

 直樹は、2年のクラス替えで舞衣と離れてから距離が遠ざかり、話しをする機会も失ってしまったのだと言う。

「あんた、まさかずっと佐助の散歩の時はここでウロウロしてたわけ?」

 直樹は頭をかきながら小さく頷いた。

「気持ち悪ぅ。ストーカーじゃん」

「まあ、そんな気持ちも判らなくも無いけどな」

 忍は笑って直樹をさり気なく庇うと

「さり気なく、俺からも舞衣に声をかけておくよ」

「マジっすか?」

 直樹の目が輝いた。

「あんたね、舞衣ちゃんがどう思ってるかで大分結果が変わるんだからね」

 優子は直樹の腕を手の甲で叩いた。

「解ってるよ、そんな事」

 それでも直樹は大分浮ついた調子で

「じゃあ俺、先に佐助と帰るから。姉ちゃんも真っ直ぐかえれよ。もう直ぐ飯だからな」

 そう言って、駆け出して行った。

 街路灯の先で角を曲がった直樹の姿を最後まで見送る優子の表情が、何だか妙に頼もしい。

 普段見せないような彼女の姿を、忍は静かに見つめていた。




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