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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第11話◆

高森忍に突然誘われたデート。

困惑しながらも優子は断る事は出来なかった。

ついにその日の朝が来た……しかし彼女の体調は自身の邪魔をする……


 一葉の電話を切って直ぐに、再度携帯が鳴る。

 こんなに連続で携帯に着信が来た事は初めてだ。

 ――ま、まだよ。もう少し待ってから出るんだから。でも、あんまり待つとさっきみたいに切れても困るし。

 優子は5回目のコールを聞いて通話ボタンを押した。

「ああ、高森だけど」

 直ぐに彼の声が聞こえる。

「あ、ああ、うん……」

 優子はさり気ない電話の出方がよく判らなくて、一瞬あたふたする気持ちを何とか落ち着けた。

「明日、行きたい場所決めた?」

「えっ、ううん」

 ――何であたしが行き先決めんのよ。あんたと行きたい所なんて判るわけないでしょ。だいたいあんたが何処か行こうって言い出したんだから、あんたが決めなさいよ。

「た、高森の行きたいところでいいよ……」

「じゃあ、映画でも行く?」

「え、映画?」

 ――映画はダメよ。一葉たちとバッタリあったらシャレにならないじゃないの。

「映画嫌い?」

「う、ううん。嫌いじゃないけど、他のが……いいかな」

 ――ああ、もう。これじゃまるで、何処でもいいって言っておきながら、相手が言う事に反対するわがまま女みたいじゃん。でも、新宿じゃなければいいか。でも、新宿が嫌だって、なんか変だよね。

「し、渋谷なら映画でもいいけど……」

「ああ、別にいいよ。渋谷でも吉祥寺でも」

「じゃあ、後はまかせる……」

 ――新宿だけ避けられれば、何処でもいいや。

「わかった、じゃあ明日10時な」

「う、うん。それじゃあ」

 ――おやすみって言おうか。どうする? 言ってもいい時間だよね。でも何か、考えるとちょっと恥ずかしいじゃん。

 そんな事を考える優子だったが、しかし……

「じゃあ」

 そう言って、忍は早々に電話を切った。

「あっ……」

 優子は思わず携帯を見つめる。

 ――もう、そんなにさっさと切らなくても……まあ、いいか。

 小さく肩をすくめると、今度は忍の番号をちゃんとアドレス帳に登録した。



 * * *



 もう直ぐ10月と言う事もあって、空は晴れていたが風は心地よく乾いていた。

 夏場に湿度の高い東京は、乾いた風が吹き始めると秋の香りを余計に感じるようになる。

 窓から注いだ陽は、部屋の中を暖かく照らしてリビングのテーブルを白く光らせていた。

 そんな清々しい朝にも関わらず、優子の心の中はどんよりとマジ曇りだった。

 まるで、自分の中で灰色のブリキの太古が止め処なく音を立てているかのようだ。

 ――ううぅぅ。神様はあたしを見放したのね……きっとそうに違いない。ただでさえイミフな緊張感があるのに、よりにもよって何で……何時もなら後2〜3日は後なのに……

 優子はリビングのサイドボードの戸棚を開けて薬箱を取り出すと、鎮痛剤を握り締めた。

 ――ああ、もう行きたくないかも。なんで生理痛の酷いこんな日に出かけなくちゃいけないの。しかも、何で初日からこんなにスペシャルチックな痛みが襲ってくるの?

 優子は薬をシートから取り出して口へ放り込むと、グラスの水で喉に流し込んだ。

 ――うう、ヤバイよ。どうしよう……高森に電話するかな。でも次なんてあるのか? だいたいアイツはどういうつもりでこのあたしを誘ったんだか皆目検討がつかないし……ただの気まぐれだったら、次は無い。

 優子は深く息をつくとソファに横になって天井を見上げ、少しの間瞼を閉じた。

 下腹部のジンとした痛みを、頭のテッペンで感じる……

 ………………

 ……

 …………携帯電話の音で優子は目を覚ました。

 一瞬何が起きて、今自分が何処にいるのか、朝なのか午後なのか混乱した。

 混乱しながらも、テーブルの上で鳴っている携帯を掴む。

「よお、寝坊?」

 爽やかな声だった。

 ――あれ? 何だっけ? ……あっ、今何時?

 優子は壁に掛けられた時計を見る。

 10時30分になるところだった。

 ――ああっ、薬飲んで、寝ちゃったんだ……

「ご、ごめん……今すぐ行くから」

「ああ、急がなくてもいいよ。待ってるから」

「う、うん……」

 お腹はもう痛くなかった。

 薬を飲んだのが9時過ぎだから、充分効いているのだろう。

 優子は小さなバックと携帯を持って玄関に行くと、普段あまり履かないブーツを履いて外に出た。

 今日履いたジーンズはこのブーツの踵に丈を合わせてあるから、他の靴では殿様のようになってしまうのだ。

 ――これなら少しは高森の背に近づくかな。

 優子は9月の強い陽差に照らされながら、コツコツと小気味よい音を立てて駅まで急いだ。




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