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琥珀色の風  作者: 徳次郎
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◆第10話◆

「ねえ、明日里香たちと映画行くんだけど、優子も行かない?」

 月曜日の学校。授業はあって無い様なものだった。

 へたに授業を進めると運動部の連中も後で困る為、毎時間自習と教材のビデオ鑑賞で午前授業は終わる。

 終業のチャイムが鳴って、一葉が優子に駆け寄ってきた。

「うん……えっ? ダメだよ、あたし……」

「どうして? 優子も観たいって言ってなかった? あの映画」

「そ、そうだけど、明日はダメ」

「だからなんでよ」

「し、私用よ」

 優子は机に手を突いて立つ一葉を見上げた。彼女は怪訝そうに優子を見つめる。

「最近、なあんか変よね。優子」

「そ、そうかな……」

 ――なに、意外と観察されてんのか? あたしの何が最近変なのかしら?

「まさか、高森と何かあったりして」

 一葉はそう言って意地悪な笑みを投げかける。

「何かって、何よ」

 ――な、何気に鋭いのか、一葉。ここは何としてもシラを切り通さなくっちゃ。

「なあんて、そんなわけないよね」

 ――あたしの何処がそんなわけ無いのさ。もう、馬鹿にして。でも、明日だってどうなるか判んないし、そう思われてた方がいいか。

「そ、そうだよ。なんで高森が出てくるのよ」

「そうだよね。今頃試合は負けてんのに周囲にキャーキャー言われるんだろうな。高森のヤツ」

「そうなの?」

「ウチのバスケ部はそうらしいよ。試合に負けたくせに、『写真一緒に撮ってくださぁい』なんて事はしょっちゅうだって」

 一葉は空いている優子の前の席に腰を下ろすと

「3年の先輩たちも意外とモテてたもんね」

「そんなにモテるんだ……」

「あんた、もしかして男に興味が湧いてきた?」

 一葉は目をぱちくりとさせて優子を見る。

「な、何でそうなるの?」

「ま、それっていい事じゃん」

 一葉はそう言うと立ち上がって「あたしたちも帰ろう」



 日が落ちて、窓の外は暗がりが広がっていた。

 優子はそわそわしながら、ジーンズに履き替えると佐助の散歩をしようと玄関へ降りる。

 ちょうどその時玄関のドアが開いて直樹が入って来た。手には佐助の散歩等リードが握られている。

「散歩、行ってきたの?」

「ああ、昨日で試合は負けちゃったから、身体もなまってるしね」

 直樹はそう言いながらスニーカーを脱ぐと、洗面所へ行った。

 ――せっかく佐助を連れて外を歩こうと思ったのに、ダメじゃん。高森が帰ってるか調べようと思ったのに……

 優子は高森から電話があるんじゃないかとそわそわしていたのだ。

 しかし、何時まで経っても電話は鳴らない。

 ――普通、出かける前の日くらい連絡よこすよね。それとも、待ち合わせ場所は決めたから、それでお終い? だって何処に行くかも決めてないじゃないの?

 優子は意味も無く玄関を出ると、門を出て通りを眺める。まるで高森の姿を探しているようにも見えるが、彼は普段この通りは使わない。

 一本奥の通りもそのまま国道まで延びているのだ。

 ――な、何してんだあたし。別に明日が待ち遠しいわけでも高森に逢いたいわけでもないのに。

 優子は急に我に帰ったかのように庭に入ると、散歩を終えて満足顔でご飯を食べる佐助をチラリと眺めてから玄関のドアを開けた。



 夕飯を終えて部屋に戻ると、優子はふと考えた。

 ――そうだ、明日は何着て行こう? 何処に行くんだろう。ジーパンがいいのかな、それともワンピース? 意外とミニスカが好みだったりして。えっ、何でアイツの好みなんて考える必要あんの? ジーパンよ、動き易いジーンズに決まりじゃん。

 その時携帯電話の着信が光った。音より早くその光を確認した優子は、ワンコール目で携帯電話を掴んでいた。

 電話を開いて液晶を見ると、着信表示は番号だけが出ている。

 高森に違いない。

 ――ダメダメ、直ぐに出たらまるであたしが待ち遠しく思ってた見たいじゃん。ここは少し引っ張ってから出るのよ。

 彼女は5コール鳴っても出なかった。

 すると、電話が切れた……

 ――な、なんでよ。あんた切るの早過ぎでしょ。女の子は色々あって直ぐには出られない時があるのよ。10回はコールするのが普通でしょうが。どういう神経してるのよ。

 優子は着信番号を見て、リダイヤルするべきか悩んだ。

 ――いやいや、何であたしから電話しなくちゃいけないわけ。誘って来たのは向こうなんだからそんな義理ないでしょ。

 すると再びコールが鳴る。

 が、しかし、それは一葉からだった。液晶に名前が出ている。

 ――どうしてこんな時に一葉が電話してくるのよ。何時もはメールでしょ、あんた。

「はい……」

「ああ、優子? 明日どうなった?」

「はあ?」

「いや、気が変わったかな。とか思ってさ」

「な、何の気?」

「本当は用事なんて無いんでしょ」

「あ、あるわよ」

「なあんだ、本当の用事なんだ」

 ――なんで、いちいちウソの用事でもったいつける必要があんのよ。あたしはそんな姑息こそくじゃないっての。

「あ、あのさ、ちょっと人から電話入るから、切るね」

「うん、判った。明日新宿で映画だからさ、時間できたら電話しなよ」

「う、うん。ありがとう」

 優子はそれだけ言って、電話を切った。

 ――ま、一葉も意外と友達思いなのかな。





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