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互助団体

作者: 頭山怛朗

ヤフーブログに投稿予定です。

 店内にはコルトレーンの“Blue Train”が流れていた。

「もう、我慢できない」と彼が言った。

「どうしました? 」と、私が言った。

「おれ、インフルエンザになった…。そう、妻に電話をしたら“直るまで帰って来るな”と言われた」

 私は思わず笑ってしまった。「すみません」

「本当、他人にとっては大笑いだ。でも、そんな事を言われた本人には深刻。哀れに思った同僚が家族がいるのに泊めてくれたから助かった」

「……」

「あいつには死んでもらいたい。それだけでいい。……。でも、今、あいつに何かあれば、当然、おれが疑われる! 」



「奥さんが何処へ行ったか、本当に心当たりがない? 」と刑事が言った。

「えぇ、全く」と、彼が言った。

「土曜の昼前、うちに帰ると奥さんは居られなかった? 」

「えぇ」

「玄関の鍵は? 」

「閉まっていました。それで何処か、買い物でも出かけたのだろうと思いましたが夕方になっても帰ってこない。日曜の夕方になってもやはり……」

「それで、今、届出を? 」

「えぇ……」彼が困惑して答えた。



「妻がいなくなった。消えた! 」と、彼が嬉しそうに言った。「警察はすぐに、妻と私がうまくいっていないことを知ったが、あの夜、おれはA温泉のホテルに十人の仕事仲間といた。そのことは仲間全員が証言してくれたし、旅館の従業員も証言した。ドラマでは殺人を誰かに依頼するが、現実にはそんな都合のいい話が無いことは警察も分かっている! 第一、あいつの死体がないので殺された証拠もない……。それに、おれだけが生命保険に入り妻は入っていなかった。妻が死んでもおれには保険金は入らない……。警察は私を疑うのを止めた。マスターに紹介されて保険に入ったのがよかったよ」

彼は独り言のように言った。「あいつは、もう、もどって来ない?! 」

 それは私に尋ねるようでもあった。

「そんな気がします」とだけ私は答えた。

「……」 彼は何か言いかけたが、私が玄関の鍵の隠し場所を尋ねたことは口にしなかった。



 私の店の客の互助団体を主宰している。メンバーにはいろんな職種の人間がいる。民間会社のサラリーマン、県や市の職員、土建業、保険勧誘員、それから警官もいる。保険勧誘員が契約が取れなくて悩んでいたので彼を紹介した。彼はわずかな自分の小遣いで生命保険に入ったが、妻は入らなかった。彼に妻の死でお金は入ってこない。結局、それで彼は妻の失踪を深く追求さらなかった。

 人にはそれぞれ得意なこと、苦手なことがある。“コルトレーン・クラブ”は得意な者が困っている者を無償で助ける。“お互い様”というやつだ。


 それから、人には誰にでも一人くらいは居なくなって欲しい人間が居る。そっちは私が……。



 私はあの夜、“コルトレーン・クラブ”のメンバーの一人が掘ってくれていた深い穴に<それ>を埋めた。


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