マッドサイエンティスト
入部届けの提出期限がまじかに迫っていた。
隼人はもう既にバスケ部へ提出したらしい。俺はというと、未だに白紙のままだった。
第一希望は文芸部で決まりだが、この体験入部期間中にどうしても見ておきたい部活があるのだ。
放課後、隼人はバスケ部へ行ったので、心おきなく体験入部を堪能できる。
俺は理科室の前で足を止めた。
俺が見ておきたかった部活とは、そう、「理科部」である。
それもただの実験やら解剖やらをするところではなく、この部活には、富岡高校のマッドサイエンティストと呼ばれる男が在籍している。
実に、興味深い男だ。
コンコン、と軽くノックをして、返事を待たずにドアを開け「なっ待て!今教室に光を入れてはならないっ!」ガラガラガラ。
……あ。やべ。
室内は暗幕やガムテープなどで完全な闇を維持していたようであり、 真ん中には暗視ゴークルの様なものを装備した、オカッパ頭の男子生徒が、白衣を着て机の上で慌てて何かをしていた。
「ドアを早く閉めるんだっ!って、ああああ!遅かったか!」
机の上でなにやら謎の粉末が煙を上げていてギョッとした。
「それはなんだ?」
「これのことか?これは光を浴びると急速に酸化する金属だ。これで新しい爆弾を開発していたんだが……ククク。全滅してしまったようだ」
そうか、爆弾を開発していたのか。それは悪いことをしてしまった。
「ククク。なに、気にすることはない。こちらがドアに注意書きを貼るのを怠けていてな。滅多に人が寄りつかんから油断していた」
「名乗ろう。私の名前はゼウス!この世の謎を解き明かす者だ!」
「おー、色々な物があるんだな。こっちは金属類で、こっちには酸か?」
「おっと、無闇やたらと触るなニューキッド。どれか一つでも爆発したら立て続けに火薬やら薬品やらに引火して校舎が一つ無くなるぞ?」
なるほど、マッドサイエンティストの名は伊達じゃない様で、このゼウス(笑)が言っていることもあながち大袈裟ではない。
というより、どうやって入手したのだろうか。絶対合法じゃない気がする。
「体験入部かね、ニューキッド?」
「あ、ああ。川上ソラっていう。よろしくなゼウス」
「っぉお!」
自分でゼウス(笑)と名乗っておいて、いざ呼ばれたらとても嬉しそうだった。
「ククク、気に入ったぞMr.ソラ!特別にこれを見せてやろう」
なにやら筒状のものに色々な装置を取り付けてある機械を引っ張りだしてきた。
「これは……レールガンか?」
「な、何故わかった!?」
「これが発電機だろ?そしてこれで銃身を固定して、チャージゲージなんかも作ってるのか。凝ってるなぁ」
ふむふむ。俺も一度作ったことがあるが、やはり男のロマンとでもいうのだろうか。こう、胸にくるものがある。
「ククク。Mr.ソラよ。お前もなかなかイケるクチだな」
「ゼウスこそ。なかなか良いセンスだ」
「「クックックック」」
さっそく意気投合した。やはり、こういう話が出来ると楽しいものだ。
「ただ、こんなに小さいんじゃ大した威力じゃないだろ?」
レールガンの銃身は50センチ程度で、レールガンの威力は、その名の通り電圧とレール(銃身)の長さに比例する。これでは飛ばせてもせいぜい50メートルといったところか。
「ククク、こいつの射程は300メートルだが、これでも威力は低いかね?」
「なっ、300だと!?こんなに短いレールでどうやって……」
「クックックッ、それはだな………」
それから一時間ほどゼウス(笑)と語り合ったが、窓の外から視線を感じたので見てみると、向かいの校舎の窓が慌ててといった風にピシャリと閉められた。
「どうかしたかね?」
「いや、どうやら向かいの教室の奴らに見られていたようだ。顔は見えなかったが」
まぁ、こんな部室なのだ。見られることは当然だろう。
「向かいの教室というと……文芸部か。ククク、彼女は面白いぞ。一度会ってみるといい。良い刺激になるだろう」
「そうか。実は俺、文芸部に入るんだよ」
「おお、それは良かった良かっ……理科部はどーするんだ?」
「体験入部だけで」
「なっ何故だ!何故なんだMr.ソラ!」
「犯罪の匂いがプンプンするから」
「ノォオオオオオオオオ!!!!」
さて、今日のところは帰るとするか。入部届けは……面倒くさいからギリギリになってからで良いか。
「川上ソラよ!私は貴様の入部をいつまでも待っているからなぁ!はぁーっはっはっは!!!!」