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理論武装とオカルト少女  作者: ちかーの
7/10

寒そうな名前

もうこれは、俺だけの力ではどうすることも出来ないかもしれないと、隼人は途方に暮れた。


「こんな時にソラちがいれば.....」


隼人のアホが招いたことは、大体ソラが解決していた。


隼人にとって、頼れる兄貴のような存在だ。だからたまにはケンカもするし、その度に仲直りもする。


しかしここには、その頼れる友人はいない。


アホな頭を振り絞ってウンウン唸っていると、後ろから声を掛けられた。


「あの、どうしたんですか」


隼人は浮かない顔で振り返って、声の主の顔を確認する。同じ高校の女子生徒だと理解し、しかしどう説明したものかと考える。


「どうしたかと問われれば、俺は今すごく困っている!」


「.....はぁ」


「上を見てくれ。あそこの枝にぶら下がっている靴(片方)と、カバンと、ブレザーは、紛れもなく俺の持ち物だ」


真冬は言われるがままに上を見上げて、どうしてこうなった、と事の顛末を少し考えたが、中年サラリーマンの願いを優先すべく、思考を中断した。


「あの、この靴って、あなたのですよね?」


「おおっ!確かにそれは俺のだ!見つけてわざわざ届けに来てくれたのか?ありがとう」


「いえ、サラリーマンのおじさんに、あなたのだから渡して欲しいと頼まれて。お礼ならその人に言ってください」


「むむ、それならお礼よりも謝罪だな.....」


隼人がボソッとこぼした言葉に真冬が小首を傾げるが、いや、なんでもない、と濁されてしまう。


「しかし助かったよ。これであのぶら下がった荷物も取り戻すことができる」


「え?どうやってですか?」


「こうやってさ!」


ポーイ、ガサガサ。サクラ、ヒラヒラ。


「ふむ」


「.....引っかかっちゃいましたね」


「引っかかっちゃったね」


この人、もしかしてアホなのかな、と真冬は隼人の本質を見抜き、


(も、もしかして、ぶら下がってるの全部、最初にぶら下がったのを取ろうとしてこうなったんだろうか)


と、心の中で核心をついた。そして。


「あの、もし良かったら、取りましょうか?」


言ってから、真冬は何故こんなことを口に出してしまったのだろうと後悔した。


なんだか不幸そうな人を見て、何を思い上がっているのだと。


恐る恐る男子生徒を見ると。


「と、取れるのか!?頼む、じゃない。お願いしますっ!」


藁にもすがる、というよりは、本当に頼りにされている感じだった。


真冬は迷った。


自分の体質を利用すれば、ぶら下がったものを落とすのは簡単だ。


しかし、その光景を見られたら、この陽気な男子生徒も気づくだろう。


私が、オカルト少女だと。


まぁ、しょうがないか。ここで友達になれたとしても、どうせいつかはバレる。


富岡高校で、私は有名すぎる。


そのことを知ったら、どんな顔をされるかな。


お金をせびられるだろうか。


気味悪がられるだろうか。


なんにせよ、ロクな反応をしないだろう。


しかし、取ってあげると公言したのだ。実行しない訳にもいかない。


真冬は軽く息を吸い込んで。


「私と、賭けをしませんか?」


「賭け?」


「そうです、言ってみればゲームです」


「おお、ゲーム!いいぜ、楽しそうだ!それで、どんなゲームだ?」


「どんなゲーム、そうですね。あなたが私の靴を上に向かって投げます。」


「ふんふん」


「一投目でぶら下がったものを全て落とすことが出来なかったらあなたの勝ちです」


「ふんふん」


「それだけです」


「え、それだけ?」


「はい」


「なんだかメチャクチャこっちが有利のような.....」


「そうですね」


「むむむ、まぁ、乗りかかったが大勝負!挑まれたからには受けて立つしかねぇなぁ!」


「それでは、はい。お願いします」


と、靴を渡された隼人は、思い切り投げ上げた。


「うりゃぁぁぁあ!」


ドサッ。ドサドサッ。


「..........ぇええええええ!!!?」


「私の勝ちですね、それでは失礼します」


落ちてきた靴を履いてその場を立ち去ろうとする真冬に、隼人は声で制止させる。


「ちょ、ちょっと待ってよ!何が起こったかわかんないけど名前も名乗らずにどっか行くとかなしっ」


振り向くと、ようやく両足ともに靴を履いた隼人が立っていた。


「俺の名前は相原隼人。あんたは?」


「わ、私は.....雪ノ原、真冬」


「雪ノ原真冬、な!覚えたぞ。ありがとなっ真冬!」


..........この人は私のことを知らないのだろうか。いや、恐らく噂は知ってるだろう。


「しっかし、噂とは随分印象が違うもんだなぁ。俺はてっきりすげぇ怖い女と思ってたぜ」


..........あれ?知ってた?知ってて、この反応?


大体みんな同じような反応を示すので、真冬は面食らった。


それと同時に、涙が出そうだった。


こんな人も、いるのだと。


涙を堪えるのに必死で、とても言葉なんて返すことができない。


そのことを知ってか知らずか、隼人は真冬に言ったのだった。


「雪ノ原真冬って、なんだか寒そうな名前だな」


真冬の頬を、大量の涙が伝った。

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