遠い遠い彼を追いかける
去年の今頃に投稿した駄作の詩が、無事一年消されずに残ったので(基本的に自分で気に入らないやつは消します)、その記念に小説版にしてみました。
勿論これだけでも読めますが、詩もよかったら読んでやってください。
少年は、少女を措いて逝ってしまいます。
そう、少女は今も独りぼっち。
*
幼い小さな二人の笑い声が空高く響く。
今日も明日もずっと、ずっと君と一緒にいたい。
少女の強い気持ちが少年にも伝わったのでしょう。
少年は振り向き、笑顔で告げる。
「ずっと一緒だよ。」
少女は嬉しさのあまり涙を零しつつ、大きく頷く。
さぁ行こうとばかりに少女は車道へ飛び出す。
これからの二人の人生に期待を込めて。
突然曲がってきたトラックがぐんぐんスピードをあげて突っ込んでくる。
ダメだ、このままじゃ死んじゃう。
そう脳裏に浮かんだ頃には足がすくんで動けなくなっていた。
「―……!」
少年が何かを叫んだが聞こえない。
もうダメだ。
そう思った時、強い衝撃と共に体が宙に浮く。
あぁ、もう死ぬんだ。
あれ。
死ぬのってこんなに痛みを感じるっけ?
目を開けられる。
息ができる。
手足が動かせる。
目を開けると、真っ赤な血だらけになった少年の姿。
美しかった。
顔に傷がなく、手足が少し切り傷ができていた。
彼は生きている。
この状態を見て、誰もがこの少年は生きていると“錯覚”するだろう。
もう少年の息の根は止まっているのに。
もう…2度と少年の目が開くことはないのに。
そのすべてを悟った少女は叫ぶ。
涙を流し、誰かに助けを求めて。
木々が揺れ、小鳥が飛び立ち、風が吹き、空が雲に覆われる。
やがて、少年のお葬式が行われた。
人が死ぬと、沢山の人が集まって、色んな話をする。
「あの子よ、あの子!」
あるおばさんが少女を指さし狂ったように泣き叫ぶ。
「うちの子はあの子を庇って死んだのよ!」
そう。
少女が轢かれそうになったのを、彼は庇った。
おじさんがおばさんの肩をさすりながらなだめる。
「落ち着きなさい、皆さんが驚いているじゃないか。
それに、仕方がなかったんだ。
あのトラックは飲酒運転だったんだよ。
あの子のせいじゃない、運が悪かっただけなんだ。」
少女はいても立ってもいられなくなり、逃げ出した。
それから数年後。
少女は幾多の手段を使い屋上の鍵を手に入れた。
向かい風が、少女を校舎の方へ押し戻そうとする。
でも、そんなことはどうでもいい。
少女は風などお構いなしに、フェンスを楽に乗り越える。
少女は、少年のいない世界など生きている価値などないと気づいた。
やっと見つけたんだ。
少年との約束を果たす方法を。
ふと、あの頃の少年を思い出す。
何も出来ないまま、この世から去ってしまった。
早過ぎる死。
2度と開かないと分かってはいたものの、どうしようもなく流し続けた大量の涙。
ダメ、思い出しちゃ。
少女は小さく呟く。
「待ってて。
今行くからね。」
“ずっと一緒だよ。”