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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
92/302

INDOMITABLE PLANTMAN#4

 インターネット上で繰り広げられるヴァリアントを巡る中傷合戦。日頃からそれらに嫌気が差していたアールはふとした事で不満を爆発させてしまう。『アンチ』という身近な問題を巡る、若手ヒーロー達の日常。

登場人物

ネイバーフッズ

―プラントマン/リチャード・アール・バーンズ…ヒーローを始めて世の中の様々な側面を知ったエクステンデッドの青年。

―ジャンパー/ベンジャミン・(ベンジー)・ライト…元体操部の経験があり素晴らしいパルクール技能を持つクライムファイター、ネイバーフッズの補欠メンバー。

―ボールド・トンプソン/ロバート・マイケル・トンプソン…強力なテレパシー能力を持つヴァリアントのヒーロー、ネイバーフッズのメンバー。

―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント、ネイバーフッズの古参メンバー。



コロニー襲撃事件以前:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース


 インターネットを巡る議論は様々だろう。長い『黎明期』の中で人々はあれこれ言っている。それそのものの是非は問わぬとしても、特に今現在社会に根付いているとある病巣については、全くもって病的だと簡潔に評するしかない。

 というのも、人々は未だにヴァリアントを巡って永久の議論を交わしている。ヴァリアントだとカムアウトしている著名人は多い。だが、ありもしない事を並べ立てて誹謗中傷に走る人々はとても多い。そしてそれはインターネット上で今も加速している。

「クソったれだよな? こういうのは」とベンジーは自分のスマートフォンをアールに手渡した。画面にはとある動画のコメント欄が表示されており、全く無関係なところでヴァリアントを叩く内容のコメントがあった。そこから無関係な口論が続き、見ているだけでうんざりさせられた――彼らの友人であるボールド・トンプソンはヴァリアントであり、そして偉大なるベテランのレイザーもまた然りであった。なればこそ腹も立とうというものだ。

「今まで目を背けてきたけど、こんなに酷いとは…」

 アールはとても不愉快な思いをし、心が締め付けられた。巡回から戻った彼らがそうしてあれこれ喋っていると、離れた所にいたレイザーがやって来た。

「でも忘れちゃいけない事もある」とクールなベテランは口にした。「実際に悪さをしてるヴァリアントには容赦すんな。容赦せずに警察へ叩き出すしかない」

 それを分けて考えるのは、とても難しい事だ。被差別のマイノリティ集団への不当な扱いには腹が立っても、それとは別にその集団の全員が善人というわけではない。もしもこの世の中が、白と黒にはっきりと別れていれば。アールは自分の好きなゲームにおいて好きなキャラクターである異星人スナイパーが抱えていた苦悩を思い出す他無かった――白でも黒でもない灰色の領域はどうすればいいのか。

「まあ、確かにこういう連中をずっと見てると頭おかしくなるしな。ウォッチングも程々にってな」とベンジーが嘲笑った。


 他の国でも様々だが、アメリカに限定して言えばこの国は未だに65年の未来人――その正体があのソヴリンである事は既に発表済みであった――のふざけた演説に引き摺られたヴァリアント観を持っていた。もちろん全国民ではなく、実際にはその半数にも満たない数の国民が頑なにヴァリアントを拒んで蔑んでいるのだろうが、いつも声の大きな連中が目立っていた。インターネットを見れば『アメリカ人の大半はヴァリアントが嫌いだから』というどこの統計データを根拠にしているのかさえわからない、冷静に考えれば明らかに怪しい断言がまかり通り、泥沼は広がり続けていた。まるでX−メンのミュータント問題のように、気に入らないヒーローをヴァリアントだと決め付ける例も見られた――そして時にはそこら辺の気に入らない相手にさえも。こうしたヴァリアント観は、紛れも無くアメリカ人が65年以降自分達で作り上げたものだ。そしてそういう連中が、75年の記者会見で起きたレイザー侮辱事件の何十年越しの和解にさえけちを付けては、己の感じる社会への不平を解消するのだ。

 最近ではヴァリアントを差別している者は他のマイノリティ排斥者と同じく、社会の底辺にいる貧乏なホワイトだろうとして蔑まれる事も少なくなくなった。それらはヴァリアント排斥の風潮と真っ向からやり合うにはあと一歩足りないが、それでも勢力を伸ばしていた――ヴァリアントの起こした事件に対するコメント欄では『これだからヴァリアントは』というコメントで埋め尽くされる事が多いのだが、それでも徐々に『また稼いだ金を酒とドラッグで浪費するホワイト・トラッシュのガキがインターネットに出張して来てんのか』という『アンチへのアンチ』が増えていた。しかし実際には、ホワイトの貧困層のみがヴァリアントを目の仇にしているわけではなく、それもまたこの世の中が灰色の領域を増やし続けている事の左証であった。だからこそこの世の中は度しがたいまでに面倒臭く、鬱陶しいぐらい煩わしい。


「大体さ、嫌いな癖に嬉々としてヴァリアントの話を始める連中は理解できないね」

 アールは呆れたように大きな声でそう言った。レイザーは清廉潔白にして美しい聖猿ハヌマーンに呼ばれて出動した。アールとベンジーもこれから別件で出動する予定であり、彼らはそそくさと廊下を歩いていた。

「ああ、まあそうだな」とベンジーは半々の態度で同意した。アールはその態度からベンジーが何かを黙っている事を悟り、気を遣われているのでないかと考えた――そうだとすれば辛い。ベンジーは自分で話を振りはしたものの、距離を置いてたまにヴァリアント差別主義者を観察するのが好きなのであって、あまり延々とその話を深くしたいわけではなかった。彼は己がこうした話題に持っていった事が友人の内側に溜まっていた不満を爆発させたのではないかと内心舌打ちした。

 微妙な空気が流れ、それでもアールは歩きながらヴァリアントを嫌う人々の醜さについて考えた。空気が読めず、どこでもすぐにヴァリアントの話題を始めては暴走する。ネットサーフィン中に何度不愉快な思いをした事か。

「よう、俺も行くよ」

 顔も名前も隠さない、地球最強クラスのテレパスでありヴァリアントでもあるボールド・トンプソンが後ろから走って来た。アールはこれ幸いと思い、先程の話を再開した。ベンジーは顔を顰めた。

「いつもあいつらにはうんざりするぜ。差別感丸出しの迷惑なデモに口を開けばヴァリアントの悪口ばっかり。なんで『コールド・ケース』のフォーラムでヴァリアントへの差別発言を延々見なきゃならねぇんだ。ったく――」

「アール」

 ボールディに呼ばれたが日頃の鬱憤を発散しているアールは無意識に無視した。

「おい、アール?」

 彼はまだぺらぺらとヴァリアントが嫌いな連中の話を続けていた。たまらずボールディは彼の両肩に両手を置いた――この超人を振り向かせるのは難しいと思って全面に回り込んだのだ。

「ディック!」

「待てよ、その名はやめろって言ってるだろ!」

「やっと聞いてくれたな」とブラックの青年は呟いた。

 それからベンジーが続けた。彼らは今や廊下で完全に足を止めていた。

「な、お前がその化石みてぇな耳クソどもが嫌いってのはよくわかったさ。だがな、言っちゃ悪いがお前も反ヴァリアントと同じで、自分の嫌いなはずのモンの話をさっきから延々と続けてるぜ」

 ベンジーは『延々と』の箇所に強烈なアクセントを置いて強調したため、結構きつい言い方になった。図星であったのは間違いなく、水を差されたアールはむっとした。

「俺はボブのためにも!」

 それに対してボブことロバート・トンプソンが答えた。友人相手にあまり強くは言いたくないが、とテレパシーで付け足した。

「落ち着けよ、お前は自分自身を自分が批判してる相手と同じレベルにまで貶めてるんだ。そんな不愉快な話を聞き続けるのは気分が悪いだろ? ボストン人に延々とヤンキースの悪口を語ってもらいたいかって話だよ、なあ?

「駄目人間の事が気になりだしてそいつまたはそいつらの醜態が無いか気になりだしたら、同じぐらい病気だと思うぜ。もっと他にするべき事があるんじゃないか? 例えば事故現場で救助とか――」

 そこでアールが遮った。彼は図星な部分を認めた事でむしろ冷静になれた。

「待てよ、勝手に話を進めないでくれ。いいか? さすがに俺だってそういう連中の一挙動まで気になるって程じゃないよ」

 そう言いながら右手の人差し指で己の頭を横からこつこつと叩いた――そう思うなら、真偽が気になるなら俺の心を読んでみな。

 ボールドはテレパシーで読心を行なった。彼の友人の精神は高波が出ているように荒れてはいたが、それをぶん殴って沈静化させようとしている不可視の色が見えた。そしてリチャード・アール・バーンズ――誰かと初めて会う度、アールと読んでくれと頼んでいた――の心には、ヴァリアントを毛嫌いする者達を監視し、それに暗い情熱や喜びを見い出すような部分は見られなかった。

 恐ろしい程裕福な家庭で育ったブラックの好青年は真摯な表情を見せてから告げた。

「言い過ぎたみたいだな」

「お互い様だ、困った時でもな。第一、お前の前で不愉快な話を延々と続けるのは不味かった。気を付けるよ」

 彼らがそうやって互いに肩を叩いたりして仲直りしているところへベンジーが声を掛けた。

「さて、じゃあそろそろ行くか。警察が既に展開してるだとさ。できれば交渉なんかで解決したいけど、それじゃレイザーの言う『悪いヴァリアント』を捕まえに行くか」

 社会に不満を持ち、ニュー・ドーン・アライアンスやその関連組織が掲げるヴァリアント至上主義に染まった失職中の男が、ローワー・イースト・サイドのカフェで人質を取り立てこもり事件を起こし、3人の若者はその件でこれから出動する予定であった。

 そしてドラムビートは鳴り続ける、まるで鼓動みたいに。

 よくこういう場面を目にすると思われる。身近な例であれば、嫌っている作品の話になると早口になり、嬉々としてそれらの話題で盛り上がる人々など。そしてそういう人々の愚かさに関する話題になると、同じく嬉々として盛り上がる『アンチのアンチ』。

 それらに深く関わるよりは、好きな音楽を聴いて執筆でもした方がいいだろうなと最近思うようになった――もちろん私自身そういうアンチ的な話をまとめサイトなどで調べまくって時間を無駄にした事など数え切れない。多分たまにちらっと見てそれ以上追求はしないぐらいが程よいのだと思う。

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